第4話「化粧の下」
花宮陽菜
ガチャガチャ…
あたしの鉛筆が机を叩く音だけが、あたしを正気に保つ唯一の救いだった。またもや竹内勇太先生とのビデオ通話。この世で一番イライラする存在。彼が口から発する「good evening」の一言一言が、ズキンとあたしのプライドを突き刺す刃物のようだった。
あの人を小馬鹿にしたような態度、博物館から出てきたような丸メガネ、そして人を眠りに誘うような、いや叫びたくなるような単調な声。もちろん、彼はあたしが「this」と「that」の違いも知らない子供であるかのように、些細なことまでいちいち訂正するのが大好きだ。ねえ、先生、一言間違えたくらいで世界が終わるわけじゃないでしょ?
今日もいつも通り、先生があたしに繰り返させるバカバカしい単語リストがノートPCの画面に映し出されている。彼の部屋は洞窟みたいで、あのランプが壁に不気味な影を落としていて、B級映画の悪役みたいな雰囲気をさらに強めていた。光が彼のメガネに反射して、目が見えないのがまたムカつく。絶対わざとやってる。威圧感を出すために。
「花宮さん、これはどう読みますか?」
彼のロボットみたいな声が、神経を逆撫でする。「this」を指差しながら。
わざと首を傾げて、最大限の皮肉を込めて言ってやった。
「これですか、先生? それとも、先生の質問の『これ』ですか?」
シン…と沈黙。純粋な沈黙が3秒。彼のこめかみに血管がピクピクと浮き上がり始めて、彼の脳が「なぜこの仕事を受けたんだ?」と叫んでいるのが聞こえるようだった。目をゴシゴシこすりながら、英語で「holy… you’re impossible」とぶつぶつ言っているのが聞こえる。あたしは我慢できなかった。
「あら、先生、今あたしを『不可能』って言いました? なんてプロ意識の欠如!」
さらに挑発するように、くすっと笑ってやった。彼は世界中の重荷を背負っているかのような、**はぁ…**と深いため息をついた。もう、ドラマチックすぎ! まるで5歳の子供を相手にしてるみたい!
しかし、この口論の最中に、予想外のことが起こった。あたしが不規則動詞を虐待している間(だって、本当に、誰がこんな地獄のような文法を発明したの?)、彼はシナリオにない質問であたしを不意打ちにした。
「花宮さん、もし明日ロンドンに行くとしたら、『市場に行った』と英語でどう言いますか?」
ぱちくりとまばたきをした。混乱した。(ロンドン? 彼、あたしがロンドンにいるところを想像してる? いいね、先生、夢は大きくね!)彼を苛立たせるためだけに、わざと答えた。
「んー…『I go to the market』?」
彼は目を丸くしたが――待って――これって、まさか? 笑み? 彼の口の端に?嘘でしょ、このロボット、笑えるの?!
「間違いです。『I went to the market』です。『go』の過去形は『went』。それに、ロンドンの市場で『go』なんて言わないでください。宇宙人だと思われますよ。」
「はぁ?! 先生、ロンドンに住んでたの?! 全部話して!」
退屈な授業から逃れるチャンスを掴んで、質問攻めにした。彼は顔をカーッと赤くし、メガネをかけ直し、ぶつぶつとつぶやいた。
「…しばらく住んでおりました。」
もちろん、彼はその話題を打ち切り、何事もなかったかのようにテキストにパタンと戻った。ねえ、先生? こんな爆弾発言を投下しておいて、あたしが黙ってるとでも思った?!これじゃ、ますます好奇心がムクムクと刺激されるだけじゃないか。
この人はいったい何者なの? なんでそんなにミステリアスなの? そして、もっと重要なのは、なんで明らかに違うのに、あんなにもウザいおっさんを演じようとするの?
授業はこのペースで進んだ。あたしが挑発し、彼が辛辣なコメントで反撃する。まるで憎み合うような、でも、なんだかもうゲームみたいになった。彼は几帳面で、石田先生の教材を聖書のように守っているが、時折、型破りなことを口にする。
例えば、「I want ramen」を完璧な発音で言えるように教えてくれたとき(もちろん10回以上は直されたけど)、ついでに「mate」とか「cheeky」とかイギリスのスラングを混ぜてきた。
「花宮さん、貴女は本当にcheekyですね?」いつもの皮肉めいた口調で彼が言った。
「あたしが厚かましいって? どの口が言うのよ、先生!」あたしは彼の顔を見てケラケラと笑ってやった。彼は首を振り、まるでこの仕事をなぜまだ辞めていないのか自問しているかのようだった。
でも、心の奥底では、彼が必要なことは分かっていた。英語の成績は壊滅的だし、竹内先生は、どんなに我慢できない存在であっても、仕事はできる。だけど、今日彼は一線を越えた。不規則動詞の授業の最中――ちなみに、これは宇宙で一番退屈なことだけど――彼が限界に達したような声で放ったのだ。
「花宮さん、そろそろこの授業を終わりにしましょう。貴女の進歩は…限定的ですし、私の時間は貴重です。これ以上続ける理由が、私には見当たりません。」
あたしの血がカァーッと沸騰した。なんですって?! 彼、あたしを諦めるって? 今まであたしが耐えてきたこと全部水の泡?! 腕を組み、首を傾げて、わざとらしい笑顔を浮かべた。
「あら、先生? それは残念ですね…だって、知ってます? 先生のちょっとした秘密を、学校中にバラしちゃうかもしれないんですから。例えば…あなたみたいな若い人が、なんでそんな変なメガネと偽のシワで、おじさんを装ってるんですか? 桜井さんと石田先生は、きっと知りたがりますよ。生徒たちも。ゴシップが広がるの、想像してみてくださいよ!」
彼の顔が瞬時に変わった。「ようやく解放された」という表情は純粋なパニックに。彼の目が見開かれ、こめかみの血管がドクドクと爆発しそうなほど脈打った。彼は歯を食いしばり、低い唸り声をグゥ…とあげた。
「黙りなさい、花宮さん。」
彼は首を振り、雨に濡れた犬のようにしょんぼりと打ちひしがれた。「授業は続けます。ですが、馬鹿なことは考えないでください、この小娘。」
あたしは勝ち誇ったようにくすくす笑い、カメラの前で手をパンパンと叩いた。
「やった、先生! それで、お昼休みはどこに行くんですか? これからは勉強仲間なんだし、ちゃんと食事してるか知る必要があるでしょ?」
ウインクをすると、彼が怒りで狂いそうになるのが分かった。彼は鼻をフンッと鳴らしたが、選択肢はない。あたしは彼の秘密を知っていて、そして彼もあたしが黙っていないことを知っている。
彼がレモンを丸呑みしたような顔で、再び動詞の説明に戻る間も、あたしは竹内先生という謎の存在について考えずにはいられなかった。ウェブカメラの光が明らかにした右耳のピアスホール。カメラの角度を変えて隠そうとしている騎士のポスター。
ランチの時間になるとまるで秘密の生活でもあるかのように姿を消す様子。(彼女? ロックバンド? 秘密基地?!)好奇心があたしを殺しそうだった。そして、彼が何かを隠していると知った今、あたしはそれを突き止めるまで止まらないだろう。
「花宮さん、集中しなさい!」彼はいつもの調子であたしの話を遮った。「もしまた『went』を間違えたら、千回書かせますよ。」
「集中してますよ、先生!」と、いたずらっぽい笑顔で嘘をついた。「でも、ちょっと聞きたいんですけど…先生のポスターのあの騎士って、ゲームのキャラですか? それとも映画の?」
彼はピタリと固まった。こめかみの血管が再びドクドクと脈打った。そして、あたしは知っていた。この憎しみ合うゲームで、あたしがまた一勝したのだと。
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金曜日、昼休みまであとわずか。あたしの頭の中は、今日のミッションでいっぱいだった。「竹内勇太先生――ううん、あの『成りすましジジイ』が、一体どこであのお粗末な変装を解いているのか、絶対に突き止めてやる!」あたしのカバンはドンッと机に放り投げられていた。
教室のエアコンがブォーンと低い唸りをあげ、他の生徒たちの手作り弁当の匂いが混じり合って、あたしのイライラを加速させる。でも、計画があるんだ。あのイラつく無表情男の化けの皮を剥いでやる!
「ねぇ、はるちゃん、今日のお弁当なーに?」高橋直美ちゃんが声をかけてきた。長いサーモンピンクの髪が揺れ、子供の頃からずっと変わらない赤いリボンで結んだサイドポニーがぴょこんと動く。オレンジ色の瞳があたしを覗き込む。
指定よりワンサイズ大きめの制服が、いかにも直美ちゃんって感じのライトギャルスタイルだ。あたしたち二人とも、学年を示す緑色のリボンをつけているけど、あたしのはちゃんと結んでいるのに対して、直美ちゃんのは緩く垂らしている。
「あー、今日?ごめん、直美ちゃん!アッ、超ド忘れしてたんだけど、急に部活のミーティング入っちゃったんだよね!だから購買でなんかテキトーに済ませる!」わざとらしく頭を抱えて見せる。あたしの頭の中は、名探偵モード全開!あのジジイの秘密のランチスポットを暴くんだから!
「花宮さん、だったら俺の弁当、半分食うか?」田中魁斗くんが、どこからともなく現れた。刈り上げた髪、明るい水色の瞳に、ほとんど見えないくらい細い眉。白いシャツの襟から肩、袖にかけて水色のストライプが走り、袖口も同じ水色。
右腕には校章――灰色の盾に白い開聞岳のシルエットが描かれた開盟高校のエンブレム。薄水色のズボンに、きっちり締めた二年生の緑色のネクタイ。少女漫画の王子様気取りの顔でそんなこと言われてもね。マジキモイ。
「ううん、大丈夫だって魁斗くん!あたし、ちょっと野暮用で急いでるから!それじゃ!」あたしはタタタッとハンター×ハンターの主人公ばりの勢いで教室を飛び出した。心臓がバクバクする――魁斗くんのせいじゃないのは明らか。あの竹内先生が、あの胡散臭い昼休みのルーティンに消える前に捕まえないと!
職員室に到着。ハァ、ハァ…息が切れる。忍者のようにドアの隙間からチラッとこっそり覗くと、いた。竹内先生が、石田先生たちと話している。職員室は、相変わらず整頓されたカオス。テストの山、ブクブクと音を立てるコーヒーメーカー、派手な告知で埋まった掲示板。その中で、あの完璧すぎるスーツ姿の先生は、緑と黒のチェック柄のネクタイだけが妙に浮いていやがる。
「……で、竹内先生、今日も一人で昼食ですかい?寂しいねぇ」石田先生が、ちょっとニヤニヤした感じで聞く。
「はぁ……実は、昼休み中に少々電話をすることが多くて。皆様にご迷惑をおかけしないよう、ええ……」竹内先生は、英語の授業で見せるあの「作り笑顔」を貼り付けた。(……出た、ニセ笑顔!ビビッと検知!)あたしは心の中で毒づいた。何週間もビデオ通話であの顔を見てきたんだ、バレバレなんだよ!この顔、絶対「演技」!電話?**ハッ!**もっとくだらない秘密を隠してるに決まってる!
先生がドアに向かってスタスタと歩き出す――心臓がドキンと跳ねた。今だ!
辺りをキョロキョロ見回すけど、廊下にはホコリっぽい窓と色あせた学園祭のポスターしかない。ドアがガチャッと開く音と同時に、サッと窓ガラスに背を向けて、スマホを必死にタップするフリ!「……気づくな、気づくな、あのニブチン!」窓に映ったあたしの顔、完全に「悪巧み中の顔」!うわ、陽菜、怪しすぎ!
……セーフ!竹内先生は、振り向きもせず、スッと通り過ぎていった。ホッとした瞬間、胸がチクッと痛んだ。(無視!?あたしを!?この名探偵・花宮陽菜を!?)バカみたい!今はそんな場合じゃない!絶対、逃がさねぇ!
先生が廊下の角を曲がるのを待って、抜き足差し足で追跡スタート!ピカピカの床でスニーカーがキュッ、キュッと鳴るたび、息をギュッと殺した。竹内先生は一階にズンズン降りていく。背筋は相変わらずピーンと伸びているくせに、足がやけに速い!……怪しい!絶対あたしに気づいてるだろ、あのジジイ!
中庭でメシ?いや、あの人間嫌いが人目につくわけねぇ!頭に浮かぶのは、木陰で一人ポツンと弁当を広げる、悲劇のヒロイン気取りの先生の姿。でも、先生は中庭をスルーして、体育館近くの廃部室ゾーンに!「……なるほど!静かなとこが好きそうだもんね、引きこもりは!」
壁のペンキはボロボロ剥がれて、床はホコリとスニーカーのゴム臭でムンムン!先生の姿、消えた!くそっ!右は廃部室、左は体育館、正面は鍵のかかった教室への階段。で――階段脇に、古い倉庫に続く狭い入り口!「ここだ!絶対、倉庫入った!」
階段下の低い塀にガシッと手かけて、身を乗り出した瞬間――
「うわあああっ!?」
竹内先生の叫び声がドーンって響いて、あたし、マジでひっくり返りそう!なんと、先生、塀の陰に隠れて座ってた!ビックリして飛び上がる姿、まるで幽霊でも見たみたい!**ひひひ!**先生、叫んだ!超ウケるんだけど!笑いを堪えながらも、顔には「勝利!」って書いてあるのがバレバレだったろう。陽菜、ナイス!
「ごめーん、先生!驚かすつもりは毛頭なかったんですよぉ~、ま、ちょっとはあったかもだけど、ヒヒッ!」口に手を当てて、爆笑をグッと抑える。
先生は胸に手を当てて、マラソンでも走った後みたいにゼーハー息を吸う。「……ああ、君か。いつか追いかけてきて見つけるだろうとは思っていたが、もっとマシな方法でやってほしかったね」疲れと諦めが混ざった、あのいつものムカつく声。え!?最初からバレてた!?
視線を下げると、床に胡坐をかいた竹内先生。スーツの上着は脱いで、薄緑のYシャツと緑のチェックネクタイだけ。横には弁当とアイスティー、で――スマホでアニメ見てんじゃん!?マジかよ!?
「先生……まさかオタクなんですか!?」脳のブレーキがバキッと外れて、口からドバッと飛び出した!うわ、またノーフィルターモード!
シーン……と静まり返る。二人、まるで犯罪現場をバッチリ目撃したみたいな顔でガン見!
「……ああ、そうだ。何か問題でも?君のくだらない詮索に付き合うほど、わたくしは暇ではないのだが」先生はため息をついて、メガネをクイッと上げ直す――って、メガネしてないじゃん!
「いや!全然問題ないですって!三十路のオッサンがアニメ見てようが……その……ロリコンだろうが……!?」スマホの画面、羽の生えたちっちゃい女の子に目がガチッと釘付け!思考、ガーッと暴走!脳内トークやめろー!
「……まあ、そういうことだ。君の低俗な想像力には呆れるがね」先生は平静を装ってるけど、あたし、内心ドッキドキ!え!?こんなサラッとオタクカミングアウト!?キモ!
「で、そのアニメ、どんな話なんですか?まさか、先生の性癖暴露大会?」ビックリを隠して、なんとか冷静を装いつつもチクリと刺す。
先生は塀に背中をドスンと預けて、天気予報でも解説するみたいな、あの鼻につく口調で語り出す。「10年前のコメディだ。人間界の高校に通う天使が主人公。天国じゃ優等生だったのに、下界でゲームの誘惑に負けて……」ここでピタッと話を止める……お、熱くなりすぎたか、ジジイ!
うわっ……先生、ガチのディープオタクじゃん!?引くわー!
「それ……あたしも一緒に見ていいですか?暇つぶしにはなりそうですし」返事も待たずに、ピトッと横に座る!そしたら――先生の視線が、ズドーンってあたしの先祖までブッ刺してきた!(ひい!今、めっちゃキレてる!?)でも、もう遅い!「だって…へへ…別に悪いことじゃないでしょ?ただの変態的な趣味なだけで」
「……はい」先生は、なんか寂しそうにフーッとため息。え?一人の方がいいの?マジでロンリーじゃん……
コンクリのヒヤッとした冷たさを感じながら、あたし、ゴロンと座り直す。
アニメがスタート!先生は弁当をパクパク食いながら――タコさんウィンナーにふわふわ玉子焼き!で…(超ウケる!この天使ちゃん、マジでゲーム廃人すぎ!)あたしはゲラゲラ爆笑なのに、先生は鼻で「フン」って笑うだけ。チッ、渋いな、このジジイ!
――でも、赤髪の悪魔っ娘に天使がバーンって拳銃をぶっ放すシーンで、事件発生!
「……プハッ!」先生が、ガチで笑いを漏らしちゃった!メガネの奥、目がキラリ!マジ!?先生、笑える人間だったんだ!?
でも……なんか気になる。先生の目元のシワ、キラキラ光るちっちゃい粒がついてる。(汚れ?いや、これ……化粧!?まさかコンシーラー!?)脳内でパズルがカチッとハマった瞬間、右手をグイッと伸ばし――思考より先に、先生の頬 にタッチ!
「ハン?」先生、こっちガン見!目、ガッツリ合う!うわ、今、絶対『花宮さん、一体何を…?』って思ってる!
「花宮さん、一体何をしているんですか?」ユウタ・スター(殺人ビームver.)がドカーンって炸裂!ヒィ!マジギレ!?
右手そのまま、左手も先生の頬にベッタリ!(陽菜、ヤバいって!)「ちょ、待ってください、先生!これ、ただの…えっと…好奇心です!」指でゴシゴシこすりまくる!消えてく!このシワ、全部偽物!
で――(……!)完成したのは、超童顔イケメン(ムカつくけど)先生!シワゼロのツルツル肌、キリッとした切れ長の目……年齢、20代前半にしか見えねえ!
「せ、先生!?」スマホの自撮りカメラをバチッと先生に向ける。画面に映ったの……完全な別人!
「うわああ!?本気ですか、花宮さん!?」先生はパニックで顔をガバッと隠す!「全部消す必要なんて……!」
「ごめ……」あたしは縮こまる……やりすぎた、陽菜…でも、ザマァ!
「……まあいい。休み時間にトイレで直せば済むことだ」先生は諦めモードで頬をゴシゴシ。
「じゃあーー」あたしはバッグからピンクの化粧ポーチをサッと取り出す!(コレクション、全開でっす!)「任せなさい!あたし、プロ級の腕前ですから!この際、もっとマシなジジイにしてあげますよ!」
「校内での化粧は校則違反だが……君に何を言っても無駄だろうな」先生はボソッと言うけど、もう抵抗する気ゼロっぽい。筆でシワをササッと描きながら、脳内にドカーンと事実が走る!(……先生、めっちゃ若い!てか、同級生レベルじゃん!?)あの漢字を「子猫みたい」とか言う謎テンションも、なんか納得!
「先生……本当は何歳なんですか?まさか、あたしより年下とか言わないでしょうね?」また思考が口からダダ漏れ!
「……教える気はない。君には関係ないことだ」先生は無表情でピシャリ!うそ、冷てえ!
「えー!?なんでよー!ケチ!」フェイスパウダーをトントン叩きながら、ギャーギャー抗議!
「君に伝える理由がない。それだけだ」
「じゃ、なんで勇太“くん”は、化粧なんかしてるわけ~?」わざと「くん」付けでニヤニヤからかう!
「……まだ君よりは年上だ。呼び方を変えるな、失礼だろう」先生、キッパリ!「……まあ、他の教師に比べれば『子供』みたいなもんだがな。『若すぎる』と、余計な詮索をされるのが面倒なだけだ」
「じゃ、みんなに嘘ついてたってことですか!?サイテー!」
「化粧で事実を“隠した”だけだ。嘘ではない」先生は、まるで裁判官みたいにビシッと訂正!うわ、ガチか!言い訳がましい!
「でも、高橋先生だって26歳でしょ!?先生よりよっぽどしっかりしてるじゃないですか!」
「……高橋先生から見ても、わたくしは『若い方』だ」声、ちょいプルプル震えてる!お、動揺してる、してる!
推理タイム、キター!「つまり、高橋先生より若いなら24歳未満!あたしよりだいぶ年上なら20歳以上!」先生、またピクッと震えた!
「実は……驚いている」先生は、メガネ――じゃなくて、あたしが描いた偽シワ――をクイッと上げながらポツリ。
「え?なにがです?あたしの天才的な推理に?」
「君がここまで執拗に追跡してくるとは予想していたが……」え?それって褒め言葉!?ユウタ先生から!?ホリニヤのニヤムラもビックリ!「英語で新しい単語を教える時も、君は単純な例えから核心を素早く推理する。気づいていないのか?この2週間で驚くほど上達したぞ」
ハッとさせられた。確かに――前よりずっとスムーズに話せる……あの変な英国スラングだって、なんか理解できるようになってる!
「君の推理力は非凡だ。もっと伸ばすべき才能だ」先生の目が、初めて熱く輝いた。
「あ、あん…………そ、尊敬ですって!?」……顔がカァーッとアツくなった。今の、絶対聞き間違いじゃないよね……!?
「で、できた!ほ、ほら!」震える手でスマホの自撮りカメラを差し出す。
「…………うん。前より自然だ。君の厚化粧よりはマシだな」先生は冷静にチェック。この落ち着きよう……ムカつく!
「先生の自己流も悪くはなかったですけど~、プロの技には勝てないでしょ?」
「毎日化粧をして登校しているのか?校長に報告しよ――」
「やめてくださいぃーっ!!」
「……冗談だ」
「はあ」シーン。そして……グゥ~~。腹が鳴った……人生終わり……
「わざわざ追いかけてきて、昼食も摂らなかったのか、君は。本当に愚かだな」あの嫌味全開の声。
「食べなくても平気です!あたし、ガマン強いんで!」グゥ~~~!!この裏切り者の腹め……!
「ほれ、残りを食べろ。『教え子が餓死』など、わたくしの経歴に傷がつく」
「い、いいってば!別に……」弁当をスッと引き寄せる先生。
「ならば空腹で授業でも受けるがいい」
「待て!返せーっ!!」ガッと奪い取って頬張るあたし。
「おお、急に食欲旺盛になったな?」からかう声に、顔を赤くしながらも咀嚼を止められない……!ご飯はふわふわ、玉子焼きは甘く、タコさんウィンナーは……超絶可愛い。誰が作ったの?まさか先生が自炊?それとも……彼女?いや、そんな顔してない……よね?
もぐもぐ食べながら、ふと気づいた。弁当に残った最後のタコさんウィンナー。
……これは……タコを見る→先生を見る→タコを見る→先生を見る。
「先生、あーんして」箸でタコを摘み、彼の口元へ。
ユウタ・スター(嫌悪ver.)が炸裂。「花宮さん、何をしている?」
「はぁ?先生にご飯をあげてるんですよ?感謝してください」
「もう充分食べた」
「一個くらい平気でしょ!ほら、あーんして!しないとまた変な噂流しますよ!」深いため息と共に、箸を受け取った先生。
…………任務達成した特殊部隊員みたいな顔してる、ウケる
そして……あ。この箸、あたしが使ってた……ってことは……間接…………キ……!?
「せ、先生っ!今の、そ、そそそそれって――」顔からボッと湯気が出そうだった。
先生は箸を見つめ、目をパチクリ。「これは……まさか。間接キスとは……我ながら無礼千万」額に手を当て、演劇部員のような大げさな嘆き方。
…………超ウザい
「もういい加減にしろ!このドS教師が!」あたしは床をドンッドンッと踏み鳴らした。
「そうですか……」すると先生がクイッと指を立て、「それより問題は、君が先にわたくしの弁当を食べたということだ。つまり――君が最初の“間接キス”の加害者だ」
……………………ゴクリ**え?逆転裁判?論理が頭をぐるんと回る。確かに……まずあたしが先生の弁当に食いついて……あぁあっ!
「そ、それは……その……」言葉がパニック状態で渋滞する……………………あ。ほんとだ。顔がカッと燃え上がる。「きゃあああっ!!」手で顔を覆い、悶絶。
「じゃ、行きますね、先生」赤面しながら立ち上がる。休み時間も残りわずかだ。
「ああ。午後の授業も頑張りたまえ」先生はスマホを片付けながら、そっけなく答えた.
「ってか、先生って午後絶対いないですよね?」あたしは探偵ポーズで顎に手を当てた。
「所用があるからな。今度話そう」超絶曖昧な返事。
「今でいいじゃん!ねえ!」
「…………君、授業に行くんじゃなかったのかね?」ニヤリと笑う先生。
「むぅ……でも先生!明日楽しみにしてます!」「……?」「一日中、授業してください!」
「ああ……明日は友人と約束があって……」
「引きこもりオタクに友達なんているんですか?」…………陽菜、また口が滑った
「友人4人しかいないのに、そのうち2人が教師の人に言われたくないね」
ギクッ
直球すぎる……!
「じゃあ日曜日!今日はごちそうさまでした!めっちゃ楽しかったです!」
……………………その時だ。先生が本物の笑顔を見せた。
「ああ。よかった」
タタタッと走り去ろうとした瞬間、かすかに聞こえた。「……stupid girl」
「聞こえましたよ!?」
「聞こえるように言った」またあのニヤけ顔。
階段を駆け上がりながら、頭はフル回転。化粧、ロリアニメ……あなた、一体何者なの?




