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第5話「あたしの完璧な『デートじゃない』」

花宮陽菜


 ついに、この日が来ちゃった。あたしが、自分で招いたこの日が。


 ベッドに寝そべったまま天井を睨みつける。心臓が、うるさくドキドキと脈打っていた。枕元に置かれたスマホは、画面が真っ暗なくせに、あたしに向かって叫んでいるみたいだった。今日、何が起こるか、あたしは嫌というほど分かっている。そして、心の準備なんて、全然できていなかった。


「なんであたし、こんなことしちゃったの…?」、誰に言うでもなく呟いた。


 ゴロンと寝返りを打って、頭まですっぽり毛布をかぶる。(ゆうくんを誘っちゃった…)はぁーっと深呼吸。(違う、違う、違う!デートじゃない! みんなを誘ったんだもん!)フラヴちゃんも、直美ちゃんも、星野さんも、魁斗くんも…あたしの妹たちまで! そう、これはグループでのお出かけ!


 あたしは、平気。


 平気…平気なわけない!


 勢いよく毛布を蹴飛ばして、ベッドの上にガバッと起き上がった。あたしには問題があった。


 何を着ていけばいいのよぉ?!


 あたしの手は、まるでそれ自身の意志があるかのように、クローゼットへと吸い寄せられた。何着か服を引っ張り出してはベッドに放り投げ、ワンピースを鏡の前で当ててみては、眉をひそめてそれを捨て、もっとカジュアルなブラウスを手に取る。(シンプルに行った方がいい? 動きやすい格好? でも、それじゃ手抜きに見えない?!)


(ゆうくんが、ショッピングモールでくれたあのワンピース…)


 そう思っただけで、顔がカァーッと熱くなるのを感じた。絶対に無理!無理無理! そんなの着ていったら、まるで…あたしが、彼のためにオシャレしてるみたいじゃない?!


 頭をブンブンと振って、クローゼットをさらにかき回していた、その時。部屋のドアが、**バン!**と勢いよく開いた。


「あら? ここで何をしてるの?」


 ビクッと体が跳ね、自分の足にもつれて転びそうになる。沙希が、腕を組んで、意地悪そうな笑みを浮かべながらドアのところに立っていた。


「春姉、勇太さんのために、そんなに気合入れてるの?〜」


「ち、違うってば!」 あたしの声が裏返った。沙希の目が、心底楽しそうにキラリと光るのが見えた。


「ふぅーん…」 彼女は、考えるふりをして顎に手を当てる。「私、お姉ちゃんが年上好きだったなんて、知らなかったわ。」


「さ、沙希!」


 あたしは彼女をつねってやろうと一歩踏み出したが、沙希は笑いながらひょいと身をかわした。あたしが反撃する前に、別の影が部屋のドアを駆け抜けてきた。


「お姉ちゃーん!」


 百合子がどこからともなく現れて、あたしのベッドにドシンとダイブし、あたしが選んでいた服をぐちゃぐちゃにした。


「お姉ちゃん、何してるの? 何が起きてるの?」 彼女は目をキラキラさせながら、辺りを見回した。


「あんたには関係ないでしょ、このチビ!」


 ベッドから引きずり下ろそうと手を伸ばしたが、彼女は笑いながら反対側にぴょんと飛び移る。ドアのところにいた沙希は、はぁ、とため息をついた。


「百合子、春姉のベッド、ぐちゃぐちゃにしちゃったじゃない…」


「だってお姉ちゃんが先に散らかしてたもん!」


 あたしは深いため息をついて、手で顔を覆った。(これは大惨事だわ…)自分のパニックを処理するだけじゃなく、この二人の妹たちもコントロールしなきゃいけないなんて。


 目をぎゅっと閉じて、落ち着こうとした。「二人とも、さっさと準備しないの?」


「もちろんよ、春姉〜」 沙希は、いたずらっぽい笑みを浮かべて答えると、くるりと背を向けて部屋を出ていく。「デートじゃないもんねぇ〜、頑張って。」


 あたしは一番近くにあった枕を掴んで投げつけたが、彼女はもうドアを閉めた後だった。


(くそっ!)


 ベッドに仰向けにドサッと倒れ込み、長いため息をつく。


 思ったより、ずっと大変な一日になりそうだ。


___________________________________________________


 色とりどりの遊園地のゲートが、あたしたちの目の前にそびえ立っていた。キラキラ光るバナーがアトラクションを宣伝し、空に届きそうなジェットコースターが並んでいる。甘いポップコーンと綿あめの匂いが混じり合い、走り回る子供たちのにぎやかな声が空気に響き渡っていた。


 あたしは紫のメッシュを入れた赤い髪を後ろで結び直した。赤い十字架のネックレスが、袖をまくった白いリネンのブラウスの上でキラリと光る。ネイビーのキュロットパンツにローヒールのサンダル、それに銀色のブレスレットが、少しだけエレガントな雰囲気を醸し出していた。


(よし、陽菜、完璧!)


 …完璧、ただ一つの小さなディテールを除いては。百合子が、一秒たりともじっとしていないのだ。あたしの髪より少し明るい赤毛をツインテールにした小さな竜巻が、あたしの周りをぴょんぴょんと跳ね回っている。ユニコーン柄のピンクのTシャツにデニムのショートパンツ、キラキラのスニーカーを履いた彼女は、公園の魔法をすべて反射しているかのように、その大きな緑色の瞳を輝かせていた。そのエネルギーは、無限に見えた。


「お姉ちゃん!全部の乗り物に乗るよね?ね?ね?」


 彼女を落ち着かせようと手を握ろうとしたが、まるで自然の力を抑えようとするみたいだった。「落ち着きなさい、百合子!叫ばなくても聞こえるから!」


 一方、沙希はあたしの隣に立ち、小さな妹が走り出さないように、そのワンピースの襟を掴んでいた。彼女の紺色のストレートヘアが、我慢強くため息をつくたびに、さらりと揺れる。黒いポロシャツにグレーのカプリパンツ、それにバレエシューズという格好だ。百合子の次に年下なのに、いつも落ち着いていて、整理整頓されている。末っ子の完全な正反対だ。


「百合子、春姉の邪魔しちゃダメよ。」


 末っ子はぷくーっと頬を膨らませて腕を組んだが、それでも興奮で爆発しそうだった。あたしが絶望しないようにこらえていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「おや?あちしが着いた途端、妹ちゃんが暴れてんじゃん。」


 くるりと振り返ると、そこに直美ちゃんがいた。からかうような笑みを浮かべて、こちらに近づいてくる。サーモンピンクの長い髪が、赤い蝶のリボンで結んだサイドポニーで揺れている。黒のクロップドTシャツに黒のスキニーパンツ、コンバットブーツ、それに革のブレスレットが、暑さの中でも彼女のゴススタイルを貫いていた。


「直美姉!」


 百合子は彼女の腕にほとんど飛びついた。直美ちゃんは小さな子を空中でくるっと回してから、まるで買い物袋みたいに脇に抱えた。


「あんた、おっきくなったね!もうすぐはるちゃん追い越すじゃん!」


「うん、追い越す!」


「で、沙希ちゃんは相変わらず真面目ちゃんだね。」


 沙希は腕を組み、呆れたように小さくため息をついた。「あなたとは違うのよ、直美姉。私は体裁を保とうとしてるから。」


「ははっ!まだ一緒にコーヒー飲んでないからでしょ。いつか連れてってあげるって。」


 三人がやり取りするのを見て、あたしは微笑んだ。直美ちゃんは幼馴染で、あたしにとってはほとんど姉妹みたいなもの。だから、あたしの妹たちをよく知っていて、あんなに親しげに接するのも当然だった。誰か足りないことに気づいて、あたしは尋ねた。


「他の子たちは?」


 まるで合図だったかのように、あたしたちの後ろから足音が聞こえた。「ここにいるわ。」


 フラヴちゃん、アレクサンダーくん、そして星野さんがこちらに歩いてきた。フラヴちゃんは壮観だった。彼女の滑らかな黒髪が肩に流れ、その黄色い瞳は、まるで群衆を催眠術にかけるかのような、いたずらっぽい魅力で輝いている。アレクサンダーくんは隣で、青いポロシャツの襟を直し、その金色の乱れた髪が、計算された無関心さで辺りを見回す青い瞳にかかっていた。そして星野さんは、短くボリュームのある栗色の髪で、戦略的な落ち着きを見せ、その紫色の瞳は穏やかだったが、次の手を計画しているかのような、かすかな笑みを浮かべていた。


「遅れてしまってすみません、花宮先輩。」


「あんたたち、めっちゃ遅いんですけど!」と直美ちゃんが、まだ百合子を腕に抱えたまま文句を言った。百合子は、その体勢が完全に快適であるかのように、空中で足をブラブラさせていた。


「『大人』たちはもう少し時間がかかりますので、ですわ。」フラヴちゃんは、大したことじゃないというように、さりげなく髪をかき上げた。


 あたしが「大人」って誰のことか尋ねる前に、奇妙なことに気づいた。沙希と百合子が、フラヴちゃんと星野さんをじーっと見つめている。そして、二人もまた、あたしの妹たちを見つめ返していた。一瞬、誰も何も言わなかった。


 百合子は、まだ直美ちゃんの腕にぶら下がったまま、少し首を傾げて、年上の二人を興味深そうに観察した。


「あなたたち、お姉ちゃんの友達?」


 星野さんは優しく微笑んで、末っ子の目線に合わせるように少し身をかがめた。「ええ、そうよ。でも、ちゃんと会うのは初めてかしら?」


 フラヴちゃんが近づいてきた。その金色の瞳が、楽しそうに小さな子を見つめながら輝いている。「あなたのことは聞いたことがありますわ、百合子ちゃん。噂通り、本当に可愛らしいですわね。」


 百合子は数回ぱちぱちと瞬きをしてから、小さく笑った。「みんなそう言うの!」


「あら〜」フラヴちゃんは顎に手を当て、うっとりと微笑んだ。


「なんて可愛らしい…」星野さんはため息をつき、まるで芸術品を鑑賞しているかのようだった。


 沙希はあたしを横目で見た。明らかに状況を警戒している。一方、百合子は自分に向けられる注目に興奮して、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、二人に腕を伸ばした。


「じゃあ、あなたたちが春姉の友達なら…百合子も、お姉ちゃんって呼んでいい?」


 フラヴちゃんはさらに笑みを深めると、ためらうことなく直美ちゃんの腕から百合子を受け取った。「もちろんよ、百合子ちゃん!フラヴィアン姉って呼んでちょうだい!」


 星野さんは、その小さな手を握り、優しい眼差しで頷いた。「星野姉でもいいわよ!」


(えっ?!)


 気づかないうちに、百合子は感情的に二人の年上の女の子に誘拐されていた。今や彼女はフラヴちゃんの腕の中に座り、星野さんがその手を敬虔に握っている。沙希はあたしの隣で重いため息をつき、首を横に振った。「これはやりすぎよ…春姉…」


 そして、あたしもただ、ため息をついた。


「さて、もうみんな揃ったし…入ろっか?」とあたしが言った。


「誰か足りないよ」とアレクサンダーくんが言った。


「誰が?」


「魁斗先輩。」


 …魁斗くん。グループ全体がピタッと凍りついた。しまった。あたし、直美ちゃん、アレクサンダーくんは、同時に顔を見合わせた。あたしたち、魁斗くんのこと、完全に忘れてた。


「やっば」と、直美ちゃんが最初に反応した。


「田中先輩、怒るかしら…」と星野さんが呟いた。


「彼が勝手にすればいいのですわ」フラヴィアンちゃんは、一片の後悔も見せなかった。


 その時、背後から叫び声が聞こえた。「俺を忘れたのか?!」


 あたしたちは一斉に振り返り、魁斗くんがこちらへ走ってくるのを見た。その顔は、憤慨と裏切りでいっぱいだった。


「お前ら、ただ公園に入って俺を置き去りにしたのか?!」


「魁斗…」


「俺がお前らに追いつくのに、どれだけ走ったか分かってんのか?!」


「魁斗…」


「この裏切り者ども!」


 あたしたちが謝る前に、小さくて無邪気な声が彼を遮った。


「お兄さん、ちょっとのろまみたい。」


 絶対的な沈黙。


 魁斗くんは、ゆっくりと頭を百合子の方へ向けた。彼女はまだフラヴィアンちゃんの腕の中にいた。「何だと?」


「あなた、ちょっと…のろいね。」


 百合子は無邪気に首を傾げたが、その目にはいたずらっぽい光が宿っていた。グループ全員が笑いにドッと沸いた。ゲラゲラという笑い声が響き渡り、魁斗くんは完全に無反応だった。


「お前…俺をからかってるのか?!」


「さあ?」と百合子は瞬きした。


「はああああああっ?!」


 あたしは笑いすぎて息ができなかった。そして、こうして、あたしたちの遊園地での一日は始まったのだった。


「大人」たちが到着する前に、あたしたちはいくつかのアトラクションを楽しんだ。そして今、綿あめを食べながら、少し休憩していた。


 遊園地は広くて、アトラクションでいっぱいだった。あたしたちはまず、定番の木製ジェットコースターに乗った。古くて危なっかしく見えるけど、相変わらず一番人気のアトラクションの一つだ。コースターが**ガタガタガタ…**とゆっくり登っていく間、度胸のある子たちは手を上げていたけど、魁斗くんみたいな怖がりの子たちは、目をぎゅっと閉じて座席にしがみついていた。


 最初の落下が来たとき、叫び声が風と混じり合った。直美ちゃんとフラヴちゃんが完全に落ち着いている隣で、魁斗くんがギャーギャーと叫んでいるのを見て、あたしは笑ってしまった。


 その後、百合子がメリーゴーランドに行きたいと言い張った。彼女が金色の馬を選ぶと、星野さんが乗るのを手伝い、フラヴちゃんは満足そうな笑みを浮かべて見守っていた。あたしと沙希は、ゆっくり回るアンティークな馬車に乗り、直美ちゃんは純粋に楽しむために馬の一頭の上で片足立ちをしようとして、係員に追い出されそうになっていた。


 今、みんなで綿あめを手に、中央広場の近くで休憩していると、ついに四人の「大人」たちが現れた。


 斎藤さんが最初に目に入った。スポーツジャケットの下にシンプルな黒いシャツ、それにダークジーンズを履いている。その態度はいつもリラックスしているけど、鋭い眼差しは周りのすべてに注意を払っていることを示していた。


 恵さんは彼の隣にいて、紺色のロングスカートに、ふんわりとした白いブラウスを着ていた。彼女の明るい栗色の髪はゆるいポニーテールに結ばれ、その穏やかな表情は、まるで公園を歩くお姫様のようだった。


 友美さんが最後にやってきた。白い短いキャミソールワンピースの上に、水色のカーディガンを羽織っている。彼女の紺色の髪が風に揺れ、その青い瞳は、グループが再会したのを見て、興奮で輝いていた。


 そして…ゆうくんが現れた。


 彼は肘まで袖をまくった白いボタンシャツの上に黒いベストを着て、それに合う暗い色のパンツと茶色のブーツを履いていた。いつもの無造作なお団子頭が軽く揺れる。片方の肩にだけバックパックをかけ、その表情は少し退屈そうだった。


 フラヴちゃんが最初に口を開いた。「ようやくお見えになりましたのですね。」


 斎藤さんは笑った。「ちょっと渋滞に巻き込まれてな。でも、お前ら、俺たち抜きで結構楽しんでたみたいじゃねえか。」


「ええ、そうですわ!」友美さんは腰に手を当てた。「でも、これで全員揃ったんですから、本当のお楽しみはこれからですわよ。」


 彼らが話している間、あたしの隣で小さな影が動くのを感じた。百合子がゆうくんのそばに寄り、彼ベストの裾をちょんちょんと引いた。彼は驚いて下を見た。


「やあ、おチビちゃん。」


「ねえ、かっこいいお兄ちゃん。百合子にアイス買って?」彼女は、ためらうそぶりも全くなくお願いした。


 グループ全員がその光景を見ていた。フラヴちゃんと直美ちゃんが笑いをこらえている。ゆうくんは数回ぱちぱちと瞬きをしてから微笑み、彼女の髪を優しくくしゃっと撫でた。


「後で買ってあげるよ。」


「やったー!」百合子は輝くような笑顔を見せた。


 フラヴちゃんは腕を組んだ。「大した特典ですわね、陽菜?」


 直美ちゃんは頷いた。「そうそう、はるちゃん。妹ちゃんのほうがあんたより進展あんでしょ。」


「なっ?!変なこと言わないでよ!」彼女たちはあたしの反応に笑ったが、すぐにもっと多くのアトラクションへと向かった。


 今度は観覧車。グループは二人か三人に分かれた。あたしは直美ちゃんとフラヴちゃんと一緒に乗り、沙希と百合子は星野さんと一緒だった。アレクサンダーくんと魁斗くんが一緒になってしまい、後者から多くの不満の声が上がった。


「で、はるちゃん…」あたしたちが一番高いところにいる時、直美ちゃんがあたしの腕を掴んだ。「ゆうくんと二人きりになりたかったとか?」


「なってない。」彼女は笑い、フラヴちゃんはドラマチックにため息をついた。


 その後、「運命の塔」というアトラクションに行った。ゆっくりと上昇し、突然高速で落下するタワーだ。百合子が行きたいと言い張り、心配した沙希がやめさせようとした。


 結局、みんなで一緒に行った。その結果は、叫び声、さらなる叫び声、そして…魁斗くんが気絶しかけたことだった。この楽しいセッションが終わった後、あたしたちはお菓子とお土産の店の近くで止まった。


 ゆうくんは約束を果たし、百合子にアイスクリームを買ってあげた。彼女はそれを嬉しそうに受け取ると、沙希に見せに走っていった。


 その間、あたしは奇妙なことに気づいた。沙希が、宝石店のショーウィンドウの近くに立ち、銀色のギターのキーホルダーをじーっと見つめている。


 ゆうくんも気づいた。彼は彼女に気づかれないように近づき、キーホルダーを手に取った。


「すみません。これを一つください。」


 沙希の目がぱちくりと大きく見開かれた。「そ、そんなことしなくてもいいです!」


 ゆうくんは軽く微笑み、彼女に小さなキーホルダーを渡した。「プレゼントだと思って。」


 彼女はためらったが、それを受け取り、大事そうに握りしめた。その顔に、小さな笑みが浮かんでいた。


 その光景を見て、あたしは面白いことに気づいた…いつも静かに観察しているだけの沙希が、ゆうくんと話すときは、少しだけ自分を解放している。


 その時、斎藤さんが隣に来て腕を組んだ。「あいつ、妙に子供の扱いに慣れてるよな?」


 あたしは彼を見て、混乱した。「どうしてそう言うんですか?」


 斎藤さんはため息をついて、フラヴちゃんとアレクサンダーくんの方を見た。二人は他のメンバーと夢中で話している。


「このことは誰にも言うなよ。特に、あの二人にはな。」


 あたしの好奇心はさらに増した。斎藤さんは再びゆうくんの方を見た。ほとんど懐かしむような眼差しで。


「あいつらの両親は、子育てに興味があるタイプじゃなかったんだ。だから、勇太は小さい頃から、ほとんど一人で弟妹を育ててきた。だからあの二人は、あいつにあんなに懐いてるんだよ。」


 あたしが返事をする前に、友美さんが反対側から現れ、斎藤さんの肩に腕を置いて、楽しそうな笑みでこちらを見た。


「私の抜きでコソコソ話してるの?」


「お前は本当に何にでも首を突っ込むよな」と斎藤さんは目を回した。


「もちろん!」彼女は笑い、それから百合子と沙希と遊んでいるゆうくんを見た。「でも、正直、彼がこうしているのを見るのは、ちょっと面白いわね。」


「どういう意味?」とあたしは尋ねた。


 友美さんは首を傾げた。「大学で初めて会ったときから、あの真面目でちょっと退屈な男として見るのに慣れてたから…でも、学校での交換留学に行ってから、彼は違うの。子供たちと接する時、別の勇太が現れるみたい。」


 友美さんは、百合子と沙希と交流するゆうくんを見て、続けた。


「分かるかしら」と彼女は話し始めた。「彼はいつも無関心な顔をしてるの、授業中ですらね。でも、子供たちを相手にしている時の、別の勇太がいることに気づいたの。先日、学校で一年生の生徒が問題を抱えていて、私にもどう対処していいか分からなかった。担当の先生が試しても、その子はもっと心を閉ざしてしまった。勇太が偶然現れて、数分で、彼はその子を話させ、何が起きているか理解させ、さらには元気づけることまでできたの。私が彼のその別の側面を見たのは、それが初めてだった。」


 斎藤は片眉を上げた。「お前、学校で何してるんだっけ?」


「非常勤の先生だけど、私の専門はソーシャルワーカーに近いの。家庭で困難を抱えている生徒や、適応に問題がある子たちなんかを相手にしてるわ。」


「なるほどな」斎藤さんは頷き、それから楽しそうな目でこちらに振り向いた。あたしが反応する前に、彼は肘であたしの腕をツンと突いて、コメントした。


「たぶん、だからお前とはうまくいかねえんだろうな、花宮さん。あいつはたぶん、まだお前のことを子供だと思ってるんだぜ。」


 あたしの脳がフリーズした。「な、なんですって?!」


 斎藤さんは笑った。「あいつは、他の何よりも先に、父親みたいなもんだったからな。」


 友美さんは眉を上げて、驚いていた。「本当?」


「ああ。」


 友美さんは再びゆうくんの方を見て、微笑んだ。「うーん…じゃあ、結局のところ、先生っていうのは彼にとって天職なのかもね。」


 あたしは黙って、目の前の光景を見ていた。もしかして、心の奥底で、ゆうくんはもうそのことを知っていたのだろうか?


 グループは公園を歩き、午後の終わりの始まりを楽しんでいた。色とりどりの光が灯り始め、魔法のような雰囲気を作り出し、周りの人々の楽しげな声がすべてをさらに活気づけていた。たくさん歩き回り、たくさん食べた後、誰かがついに次のアトラクションを提案した。


「お化け屋敷はどうかしら?」フラヴちゃんが提案し、公園の反対側にある巨大で薄暗い屋敷を指差した。


 あたしの視線がその方向へ向かい、体は即座に固まった。その場所はホラー映画からそのまま出てきたようで、人工的な霧がドアから流れ出し、わざと壊された窓が退廃的な雰囲気を与えている。遠くで雷が鳴り響き、まるで宇宙そのものがあたしにそこへ入るなと言っているかのようだった。


「あら、楽しそう!」星野さんはかすかに微笑んで言った。「それに、そんなに怖いはずないわ。」


「そう思うか」斎藤さんは缶コーヒーを一口飲むと、入り口の看板を指差した。「一度に入れるのは四人だけだそうだぜ。」


「つまり、分かれなきゃいけないってことね」直美ちゃんは、あたしに悪寒を走らせるような笑みを浮かべて、腕を組んだ。あたしがよく知っている笑顔だ。


 あたしの本能が、何かがおかしいと叫び始めていた。フラヴちゃんと直美ちゃんが、一瞬だけ視線を交わした。短いが、意味深な視線。


 そして、直美ちゃんは素晴らしいアイデアが浮かんだかのように、パンと手を叩いた。


「じゃあ決まりね!あちし、はるちゃん、フラヴちゃん、それにユウ先生で一緒に行こ!」


 あたしの心臓が止まった。「はぁ?!な、なんで?!」


「また『ユウ先生』?」ゆうくんはため息をついた。


「なんとなくよ」とフラヴちゃんは天使のような笑みで答えた。


「でも、あたしは――」


「よし!じゃあ決まり!」彼女はあたしが断ろうとするのを遮り、逃げる前にあたしの腕を掴んだ。


 助けを求めてゆうくんの方を見たが、彼はただため息をついて、ポケットに手を入れた。「どうでもいいよ。」


「ゆ、勇太さん、そんなにあっさり受け入れなくても!」


 彼はあたしに疲れたような一瞥を送り、明らかに議論する気力がないと言っていた。


 そして、あたしが気づく前に、フラヴちゃんはもうあたしをお化け屋敷の入り口へと引っ張っていた。あたしは感じていた。知っていた。これは罠だ。


 お化け屋敷への入り口は威圧的で、暗くて人工的な霧に満ち、ドアはきしみ、中からは時折叫び声が聞こえてくる。グループは興奮していた――一部は、他の人たちよりも。


「グループを決めましょう」と斎藤さんが提案し、一度に入れるのは四人だけという看板を読んだ。


 恵さん、友美さん、アレクサンダーくん、そして星野さんが最初に入り、次に斎藤さん、百合子、沙希、そして魁斗くんが続いた。フラヴちゃんが、いたずらっぽい笑みを浮かべてあたしの腕を掴んだ。


「じゃあ、はるちゃん、そろそろ行きましょうか?」


 あたしは数回瞬きした。「あ?うん、いいけど…」


 隣にいたゆうくんは肩をすくめ、あたしたちの前を歩き始めた。「さっさと終わらせよう。」


 あたしたちが入った瞬間、間違いを犯したことに気づいた。屋敷は暗く、湿っぽく、冷たく、古い木の匂いが空気に満ちていた。奇妙な音が廊下に響き渡り、壁には影が動いていた。


 数メートル一緒に歩いたところで、突然、フラヴちゃんが直美ちゃんの腕を掴んだ。


「直美ちゃん」と彼女は芝居がかった声で言った。「怖くて死にそう、捕まえてて!」


「あたしも怖いわ、フラヴちゃん」直美ちゃんは友人を抱きしめ、後ろを振り返った。「はるちゃん、ユウ先生、二人で大丈夫だよね?」


「待って、何――?」


 あたしが抗議する前に、二人は別の廊下へと走り去り、あたしはゆうくんと二人きりにされた。


 あたしはごくりと唾を飲んだ。暗闇が、今はずっと濃く感じられた。弱い光が、白い布で覆われた家具を照らし、二階からは足音が聞こえる。遠くで何かが落ち、あたしは飛び上がり、考える間もなくゆうくんの腕を掴んだ。


 彼はため息をついた。「彼女たちがこうすること、分かってたんだろ?」


「あたし――そ、そんなの、あたしのアイデアじゃない!」


 彼は首を横に振ったが、あたしの腕を振り払わなかった。ただ、暗い廊下をあたしを導きながら、歩き続けた。


 あたしたちの足元で床がきしんだ。新しい音がするたびに、心臓が速くなるのを感じた。廊下の突き当たりに古い彫像が現れ、あたしたちが通り過ぎる時、その頭がゆっくりとこちらを向いた。


「あっ!」


 あたしの体は勝手に動き、気づいた時にはもう一度ゆうくんの腕にしがみつき、顔を彼のシャツの袖に押し付けていた。


 彼は立ち止まった。彼の視線をあたしの上に感じ、自分がほとんど彼にぶら下がっていることに気づいた。顔が熱くなり、ゆっくりと離れ、震える指で彼のシャツの袖を放した。


「さ、先に進む?」あたしの声は低く、ほとんど囁きのようだった。


 彼は一瞬あたしを見つめ、それからため息をついて、あたしの髪を軽く手でくしゃっとした。


「君はしょうがないな。」


 あたしが言い返す前に、大きな音が響き、白い影が隣の部屋の一つからあたしたちの方へ走ってきた。


 あたしは叫び、考える間もなく、また彼の腕を掴んだ。ただ、今回は、彼が近くに引き寄せてくれた。すごく、近くに。


 恐怖が過ぎ去り、あたしたちはどれだけ近くにいるかに気づいた。あたしの顔は彼の胸に押し付けられ、彼のしっかりとした心臓の鼓動を感じることができた。ドキドキ。彼の匂い、ミントと何かウッディな香りの混じった軽い香りが、あたしの感覚を満たした。


 彼はまだあたしの腕を掴んでいて、その指はあたしの肌にしっかりと触れていた。沈黙が、あたしたちの間に重くのしかかった。


 あたしはゆっくりと顔を上げ、彼の目と合った。その目は真剣だったが、いつもの冷たい壁はなかった。彼は…違って見えた。あたしの心臓がドクンと跳ねた。


「花宮…」彼が低い声であたしの名前を呟き、あたしはそこで溶けてしまいそうだった。


 しかし、何かが起こる前に、隣の部屋から機械的な笑い声が響き渡り、その瞬間を壊した。白い影が再び現れたが、今度は明らかに衣装を着た従業員だった。


 ゆうくんはふんと鼻を鳴らし、あたしの腕を放して一歩下がった。「…君が家の中で発作を起こす前に、さっさとここから出よう。」


 あたしはまだその瞬間に囚われ、すべてを処理しようとしていた。心臓は胸の中で飛び跳ね、足は弱々しく感じられた。


 あたしはただ頷き、彼が残りの道を案内してくれる間、ゆうくんについていった。でも、一つだけ確かなことがあった。フラヴちゃんと直美ちゃんは、後でたっぷりお説教されることになる。


 あたしたちがお化け屋敷から出ると、最初に気づいたのは空の色だった。強烈なオレンジ色が地平線を染め、公園全体を夕暮れの光で金色にしていた。


 二番目に気づいたのは…周りの虚無感だった。


「あれ…みんな、どこ?」とあたしは呟き、辺りを見回した。少なくともフラヴちゃんか直美ちゃんがどこかの角に隠れて、あたしたちの顔を見て笑っているのを期待していた。何もなかった。


 隣にいたゆうくんは腕を組み、真剣な眼差しが公園を彷徨った。「わざとだな」と彼は、一片の疑いもなく断言した。


 あたしは彼の方を向き、パニックが胸を締め付けた。「ど、どうしよう?!」


 彼は重いため息をつき、首筋をこすった。明らかに不快そうだ。「彼らを探したいか?」彼は周りを見回し、視線を逸らしてから続けた。「それとも、何か他のことをしたいか?」


 チャンスが、目の前に現れた。危険なチャンス。ごくりと唾を飲んだ。


 これが、あたしのチャンスだ。ただ「彼らを探しに行こう」と言って、これを終わらせることもできた…あるいは、何か違うことをすることもできた。たぶん、二度と勇気が出ないような、何かを。


 深呼吸をして、自信のかけらを一つ一つ集めた。


「あたし、ゲーセンに行きたい!」


 ゆうくんは瞬きし、少し驚いていたが、すぐに肩をすくめた。「いいよ。行こうか。」

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