第2話「ヒーローの影」
竹内勇太
シューティングゲーム施設のファサードは、やけに印象的だった。金属パネルがデジタルサイネージの光でギラギラと輝き、ゲームのプロモーション映像を垂れ流している。シミュレートされた市街地を駆け抜けるプレイヤー、未来的な武器から放たれる光弾、リアルタイムで加算されていくスコア…
俺の目の前で、友美が満面の笑みを浮かべて立っていた。
「イケてるでしょ?ここ、今日オープンなんだ!あたしたちが開店前にテストプレイできるよう、VIPチケット、ゲットしといたよ!」
俺はため息をつき、腕を組んだ。(はぁ…これが、あいつの言う『チョー楽しいこと』とやらか)
「そう!」と、彼女は嬉しそうに答えた。
「シューティングゲーム…か」と俺は呟いた。
「その通り!」
周りを見渡して、軽い頭痛を覚えた。アレクサンダー、フラヴィアン、花宮さん、高橋さん、田中くん、それにミツキちゃんまで…(またか…俺の生徒たち)
俺は再び**ふぅ…**と息を吐き、ポケットに両手を突っ込んだ。
夏の暑さが重くのしかかるというのに、目の前の連中はそんなこと気にも留めていない様子でワイワイと盛り上がっている。俺は、無造作な黒髪のお団子頭に、気だるげな黄色の瞳。ダボダボの黒Tシャツにグレーのカーゴショーツ、履き古したスニーカーという格好で、なぜこんな面倒な誘いに乗ってしまったのかと自問自答しながら、ただ皮肉を全身から漂わせていた。
アレクサンダーは、金髪をぐしゃっとさせ、青い瞳を輝かせ、青いスポーツTシャツにカーキのショーツ姿で、相変わらず、遊ぶ気マンマンだな。俺の妹、フラヴィアンは、滑らかな黒髪と黄色の瞳で、涼しげな白いブラウスにベージュのキュロットパンツ。どっかのCM撮影から抜け出してきたみたいだ。花宮は、紫のメッシュを入れた赤髪をポニーテールにして、首からはあの十字架のネックレス。相変わらずハリケーンみてえな女だ。その隣には高橋。長いサーモンピンクの髪に、ゴスロリ服とは全く不釣り合いな赤いリボンでサイドポニーテール。
斎藤は、いつものからかうような雰囲気でニヤニヤしている。隣にいる恵は、この中で唯一落ち着いているように見える。ミツキちゃんは、ミニマリストな格好で、すでに何かを分析しているような顔だ。そして田中は、いかにもゲーマーって感じだな。
最後に、友美。横に編んだ藍色の髪に、タクティカルなバックパック。――明らかに、何かを企んでいる。
「お前のせいで、時間を無駄にさせられる」と俺は文句を言った。
「どの口が言ってんのよ、先輩。暇さえあればアニメ見るかゲームしてるだけのくせに」と彼女は言い返した。
俺は目をそらした。「そういう問題じゃない。」
斎藤が笑いながら、俺の肩を**バンッ!**と叩いた。「文句言うなって。絶対楽しいから。」
隣にいた恵が、からかうような口調で頷いた。「ただのゲームですよ、勇太くん。」
俺はまたため息をついた。俺が気にしてるのは、そういうことじゃない。「君たち、僕が生徒たちとまた一緒にいること、何とも思わないのか?」
フラヴィアンがクスクスと笑う。「心配しすぎですよ、兄上。」
アレクサンダーが、さも当然というように付け加えた。「何か問題があるなら、とっくに学校から連絡が来てますよ。それに、あなたはただの非常勤講師でしょう。」
高橋が腕を組んで、ニヤリと笑う。「そうですよ、ユウ先生。少しはリラックスしたらどうです?きっと楽しいですから。」
(ユウ先生?なんだその呼び方は…)
俺の視線が花宮と合った。彼女は少し緊張しているようだったが、笑顔で頷いた。「きっと、楽しいですよ。」
俺は深呼吸した。「わかった…だが、僕も手加減はしないぞ。」
友美は悪戯っぽく笑い、その目に挑戦的な光を宿した。「わたしが望んでるのは、まさにそれだよ。」
彼女は俺に近づき、その意図をよく知っている俺の耳元で、ヒソッと囁いた。「――ようやく、わたしと戦ってくれるんだね、ワイト・ガントレット。」
空気が、ピリッと張り詰めた。
花宮が、状況の変化に戸惑ってぱちぱちと瞬きするのが見えた。「友美さん…?」
斎藤が、興奮したように笑う。「勇太、お前、ハメられたな。」
彼はそう言って、俺の肩にポンと手を置いた。
俺は友美を見据え、その目に宿る挑戦の色を確かめた。「…それがお前の望みか。」
彼女は笑う。「ええ。最後の戦いよ。」
俺は、口の端を吊り上げた。「受けて立つ。」
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ゲームシステムが設定を読み込み始め、準備エリアの天井にあるホログラムには、今回使用するマップが表示された。――見捨てられた港。金属製のコンテナが至る所に散らばり、いくつかの木箱が遮蔽物として置かれ、背景には巨大なクレーン、そしてリアルな環境をシミュレートするための人工的な植生エリアが広がっていた。斎藤が腕を組み、そのシミュレーションを見ながらニヤリと笑った。「懐かしいな、おい。」
俺は奴を横目で見ながら、台からライフルを手に取った。「まあ、少しな。」
向こう側では、花宮、フラヴィアン、ミツキちゃんがすでにチーム編成に文句を言っていた。「勇太先生、斎藤さん、アレクサンダーが敵チームなんて、ずるい!」と、花宮が腕を組んで頬を膨らませる。フラヴィアンは唇を尖らせて友美を見た。「友美さん、わざとこのようにチームを組みましたのです!」。ミツキちゃんも頷いた。「これでは均衡が取れていないのではないかしら。」
俺たちのチームでは、高橋が勝ち誇ったように笑っていた。「ふふふーん、あちしは勝ち組だね。」田中が眉をひそめた。「なんで俺が勇太先生のチームにいることには誰も文句言わねえんだ?」
花宮とフラヴィアンは顔を見合わせ、同時に答えた。「あんた、どうせ真っ先にやられるからよ。」
「おい!」
「同感」と高橋が笑う。
「お前もかよ、高橋さん!?」
俺はその騒ぎを無視し、武器の分析を続けた。システムにはいくつかのオプションがあり、そのデザインは未来的で派手で、かつて俺たちが古い戦いで見たものに似ていた。高橋は、連射速度の速いコンパクトなサブマシンガンを手に取った。小さく、軽く、素早い動きに最適だ。アレクサンダーと田中は、弾倉が上部に配置された、流線的なデザインのP90に似た武器を選んだ。斎藤はスナイパーライフルを手に取り、俺の選択を見て笑った。俺が選んだのは、かつて使っていたM114に明らかにインスパイアされた、未来的なアサルトライフルだった。
「癖みたいなもんだろ、なぁ?」と、奴がからかってくる。
「ただ、こっちの方が面白そうだっただけだ」と俺は答えた。
斎藤は武器の細部を指差した。「お前の昔のやつは緑で、青とピンクの模様が入ってたよな。こいつは赤と紫だ。誰かさんを思い出すぜ。」
考える間もなく、俺は奴の顔に銃床を叩き込んだ。
「ぐはっ!何しやがる、勇太?!」
「くだらねえこと言ってんじゃねえ。」
高橋がこちらを横目で見た。「さっき、懐かしいって何の話してたわけ?」
俺と斎藤は顔を見合わせ、素早く話をそらした。「何でもねえ。」「昔のゲームの話だよ。」「ああ、それだ。」
彼女は目を細めた。「あんたたち、嘘つくの下手すぎ…」
アラームが鳴り、ホログラムのディスプレイにカウントダウンが表示された。3…フラヴィアンがピストルを構え、深く息を吸った。2…友美が肩を回し、真の捕食者のように笑う。1…機械的な音声が空間に響き渡った。「ラウンド、スタート!」
カウントがゼロになると同時に、軽い悪寒が首筋を走った。準備室の白い空間が、まるでインクが吸い取られるように俺の周りで溶け始める。床、壁、天井までもがデジタル粒子へと分解され、新たな環境へと変わっていく。コンクリートのひび割れた床、錆びついた金属のコンテナ、そして背景には打ち捨てられたクレーン。風の音と古い金属の軋む音が、没入感を高めていた。
(バーチャル・リアリティか)。頭に装着したヘルメットは、ゲームのHUDのように視界の隅に情報を表示している。遅延は感じられない。(このシミュレーターの技術レベルは、馬鹿げてるな)。胴体のタクティカルベストの重みは本物で、衝撃を記録し、被弾の感覚をシミュレートするようにプログラムされている。景色が変わると同時に、俺の普段着は完全な戦術装備へと置き換わった。他の奴らも同じだ。俺たちは特殊作戦の兵士になっていた。
(ただのゲームだが、感覚は完全にリアルだ)
最初のアラームがデジタル空間に鳴り響き、混沌が始まった。俺は鳴ると同時に走り出した。「斎藤、変なことはするなよ。お前はスナイパーじゃない。」
「気楽に行こうぜ、ただのゲームだ」と奴は答えた。
俺は奴を無視し、素早く青いコンテナの後ろに陣取った。田中は、何の戦略もなしに開けた場所を走っている。**(なぜあいつは、あんな馬鹿みたいな動きをしているんだ?)**そう思うが早いか、一発の正確な銃弾が奴の頭を撃ち抜いた。**バンッ!**衝撃で奴は「ぐわあああ!痛え、死んだ!」と大げさな叫び声を上げて仰向けに倒れた。
*(何なんだ、今の?)*俺は呆然とした。その瞬間、ヘルメットから友美の声が響いた。「先輩、言い忘れてたけど、弾は本物だからね。だからこのプロテクター着てるんだもん!」
俺は眉をひそめ、少し身を乗り出して辺りを分析した。三つのターゲットが見える。木箱の後ろで忍び寄るミツキちゃん、完璧な姿勢で歩く恵、そして珍しく真剣な顔つきで辺りを見回すフラヴィアン。(だが、友美は…どこにも見当たらねえ。予想通りか)
問題は、花宮も見えないことだった。俺は辺りを見回し続けたが、その時、不意の閃光が注意を引いた。(スコープの反射――!)
即座に身をかがめた。**バン!**弾丸がコンテナで跳ね返り、大きな音を立てる。銃弾が当たった場所を横目で見ると、空中で回転する白い弾の大きさに目を見開いた。
(なんだこりゃ?!これ、気楽なゲームじゃなかったのかよ!このデカさは何だ!もしゴーグルしてなかったら、目が吹っ飛んでたぞ!!!)
俺は体勢を維持した。花宮がスナイパーライフルを持っているなら、開けた場所に出るのは自殺行為だ。ゲームは進み、プレイヤーは一人、また一人と脱落していく。ミツキちゃんは静かに動いていたが、アレクサンダーが隣のコンテナから飛び降りてきたのに気づかなかった。「ミツキ、もらった」と、彼女が反応する前に奴は発砲した。**バン!**ベストへの衝撃に、ミツキちゃんは一歩後ずさる。「チッ…クソガキが。」彼女はそう吐き捨ててゲームから離脱した。
アレクサンダーが祝う暇はなかった。高橋が援護のために走り込んできたが、正確な一発が彼女のベストの側面を捉えた。「あ、マジで?!」彼女は、恵が静かに銃を下ろすのを見て文句を言った。「もっと注意しないと、高橋さん。」
アレクサンダーは新たなポジションに走ろうとしたが、それまで地面に倒れていたフラヴィアンが、勝ち誇った笑みで素早く身を起こした。「トドメを刺しておくべきだったわね、弟よ。」彼女は発砲し、アレクサンダーの背中を撃ち抜いた。彼は大げさに叫びながら地面に倒れ込む。「フラヴィアン、この裏切り者!」
「ゲームのルールですもの、ダーリン〜。」
だが、フラヴィアンが予期していなかったのは、斎藤がすでに彼女を狙っていたことだった。彼女が体勢を立て直す前に、奴は一発の正確な弾丸を放った。彼女はベストへの着弾を見て、驚いた。「なんですって…」
「よくやったぜ、お姫様」と斎藤がコメントした。これで、向こう側は恵、花宮、そして友美だけが残った。恵が動き始め、花宮が援護射撃で彼女をカバーし、斎藤を後退させる。
*(チャンスだ)*俺は側面からコンテナの山の間を駆け抜け、射線を避けた。恵は斎藤に集中しすぎている。花宮は彼女を守り続けているが、俺が背後にいることには気づいていない。俺は身をかがめ、ライフルを構え…バン!バン!
二発の正確な射撃。最初に衝撃を感じたのは恵だった。彼女は立ち止まり、俺の方へ振り向いた。「いい腕ね、勇太くん。」
「すまないな、恵。」彼女は軽く微笑んでからアリーナを去った。
花宮は固まっていた。彼女は恵を倒したのが誰か見ようと振り返り、そこで俺たちの視線が交差した。彼女が何かを言おうと口を開いたが、俺はすでに引き金を引いていた。弾丸は、彼女が反応する前にベストに命中した。彼女は撃たれた場所を見下ろした。「あ…」と、小さな声が漏れた。
「すまない、花宮さん。」
彼女は腕を組んで、唇を尖らせた。「本当に手加減しないんだね?」
「ゲームのルールだ」と俺は肩をすくめた。これで、俺と斎藤対、友美だけだ。
「最後の生き残りか」と俺は呟いた。
斎藤が隣で笑う。「あとはあいつだけだな。」俺が何かを言う前に、一発の銃声が響いた。斎藤が即座に叫ぶ。「ぐわあああ!クソっ、どうやって――?!」
俺が振り返ると、友美がコンテナの上でライフルを構え、まるで映画のワンシーンのように銃口を軽く吹いていた。彼女はまっすぐ俺を見た。今回は、いつものからかうような笑みはない。「ねえ、先輩…」と、普段は穏やかな彼女の瞳が、今は嵐のように荒れていた。「…わたし、ずっとあなたと戦ってみたかったんだ。」
俺の表情が引き締まった。ライフルを構え直す。「望み通りにな…」
今は、俺対友美。そして、あいつは本気で戦う気のようだ。
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花宮陽菜
脱落した七人はフィールド横の部屋に集められ、今起きたことについて興奮気味に話していた。誰もが楽しんだようで、どうやってやられたかを笑いながら語り合っている。でも、あたしはそんな彼らの声なんて、ほとんど聞いていなかった。あたしの目はアリーナに釘付けになっていた。そこでは、ゆうくんと友美さんがまだ立っていて、周りの世界など存在しないかのように、互いを睨みつけていた。
その時、斎藤さんが部屋に入ってきて、あたしに近づいてきた。痛そうに顔をしかめながら肩を揉んでいる。「くそっ、あいつ、一番痛えとこ狙いやがった…」と、彼は友美さんを指差して文句を言った。「ゲームでも容赦ねえな…お、始まるのか?」
あたしは混乱して彼を見た。「始まる?何が?」
斎藤さんが答える前に、アリーナのゆうくんが僅かに身をかがめ、動きを完全に止めた。彼の目は閉じられ、まるで精神を集中させているかのようだ。彼と友美さんの間の沈黙は、それまでのゲームとは全く違うものだった。あたしは気づかないうちに、ズボンの生地を強く握りしめていた。
(何かが違う。もう、これはただのゲームじゃない)
突然、ゆうくんが頭を上げ、素早い動きで前方へ飛び出した。その瞬間、彼がさっきまでいた場所に、手榴弾が落ちてきた。
ドカーン!
爆発が小さなボールを辺り一面に撒き散らす。ゆうくんは箱の後ろに飛び込んで弾を避けたが、友美さんはすでに宙にいた。彼女は信じられないほどの柔軟性でコンテナを飛び越え、空中で回転しながら、落下しつつゆうくんを撃つ。ゆうくんは正確に弾を避け、素早い射撃で応戦し、彼女をオリンピックの体操選手のように後方へ飛ばせた。
部屋にいた全員が驚きの声を上げた。友美さんがあんなに機敏だなんて、誰も知らなかったのだ。
ゆうくんはコンテナの間を素早く駆け抜ける。友美さんは別のコンテナの頂上に着地し、弾倉を交換した。彼女が再び攻撃しようとした瞬間、何かが光りながら自分に向かってくるのを捉えた。手榴弾。(あんなの、彼女まで届かない)。あたしはそう思った。だが、友美さんは何かを察して目を見開いた。
ゆうくんが、すでに狙いを定めていた。一発の銃声が響き、手榴弾は空中でゆうくんの弾丸に撃ち抜かれて爆発し、弾を全方位に撒き散らした。友美さんは咄嗟にかがんでそれを避ける。体勢を立て直した彼女は、素早く目でゆうくんを探した。だが、今や彼は狩人だった。状況を逆転させ、すでに彼女の背後を取っていたのだ。二人は追いかけっこを始め、ゆうくんが逃げる友美さんを撃とうと追いかける。
友美さんは彼を遠ざけるためにもう一つ手榴弾を投げ、体勢を立て直そうとした。しかし、ゆうくんは止まらない。彼女が反撃の準備をした時、彼はもうそこにはいなかった。彼はすでにエリアを周り込んでいた。計算されたスピンで、彼は跳躍し、木箱を蹴り飛ばして彼女の方向へ滑らせる。彼女はギリギリでそれを避けたが、その動きで隙が生まれてしまった。ゆうくんは床を滑り、ライフルを拾い上げて再び発砲する。友美さんは、信じられないようなアクロバティックな動きでそれを避けた。
そして、彼女がようやく有利なポジションを取り、彼を追い詰めた時、彼は予想外の行動に出た。
素早い動きで、彼は大きな布を取り出し、それを盾のように前方に投げつけ、自分の体を覆い、彼女が放つ弾丸を防いだ。
(あたしの目は大きく見開かれた。あの光景…あの動き…あたしの心の中では、もうゆうた先生の姿はなかった。あたしが見ていたのは、炎の嵐の中で、緑のマントをはためかせて、あたしを神未来タワーで救ってくれた、あのヒーローだった)
心臓が、ドクンと高鳴った。ゆうくんはその隙を利用して最後の手榴弾を投げる。友美さんは再び後退し、コンテナの後ろに隠れた。だが、彼は彼女がそうすることを読んでいた。彼は彼女を追い、背後から奇襲をかけようとする。しかし、友美さんはすでに彼を待っていた。
二人はコンテナの両側から同時に姿を現した。互いのライフルは空。躊躇なく、二人はそれを捨ててサイドアームのピストルを抜いた。銃撃戦が再開したが、今度は違った。もっと近く、もっと個人的な戦い。**パン!パン!パン!**銃声が港に響き渡る。二人は走り、滑り、あらゆる遮蔽物を利用する。速すぎる。あたしには目で追うのがやっとだった。それはまるで、命懸けのダンスのようだった。
不意に、二人は互いに向かって突進した。友美さんが回し蹴りで彼の武装を解除しようとするが、ゆうくんは前腕でその一撃を受け止めた。**ドッ!**という乾いた音が響く。彼はその勢いを利用して彼女を回し、拘束しようとするが、彼女はもっと速く、その手をすり抜けて再び距離を取った。彼女は空のピストルを彼に投げつけて陽動し、ベストからデジタルのコンバットナイフを抜いた。
ゆうくんは投げられた物を避け、刃物を見ると、後退せずに前進した。友美さんのナイフが空を切るが、ゆうくんはそれを自身のピストルの銃身で受け止めた。**カンッ!**という甲高い金属音が響く。一瞬、二人の顔が数センチの距離まで近づいた。彼は彼女を力強く押し返し、二人は息を切らしながら離れ、再び互いに銃口を向けた。
二人は一秒間、動かずに、ただ睨み合っていた。
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竹内勇太
俺と友美は、互いに銃口を向け合ったまま睨み合っていた。沈黙が支配する。やがて、彼女がそれを破った。
「ねえ、先輩…生徒たちが、そんな目をしてるあなたを見たら、問題になっちゃうかもね」
(目?何の話だ?)
俺は混乱して、瞬きをした。一瞬、集中が途切れた。
それだけで、十分だった。ズドン!
友美の弾丸が、俺のベストに直撃した。
俺は反応もできずに固まっていた。彼女は勝ち誇ったように笑い、銃を下ろす。そして、何の前触れもなく、その場でまるで止まったまま走るみたいに、小さくタッタッタッと飛び跳ねながら、興奮して叫び始めた。
「勝った!わたしが勝った!」
彼女は、たった今賞品を貰った子供のように喜んでいた。
俺は、完全に呆然とした表情で、立ち尽くしていた。俺?俺が考えられたのは、ただ一つだけだった。
(一体、何が起こったんだ?)




