第8話「決戦の舞台」
花宮陽菜
土曜日の午後、あたしたちは生徒会の選挙活動を計画するという名目で、ゆうくんのマンションに集まっていた。でも、まとまりのないアイデアと雑談の合間に、あたしはもう、あたしたちが進展しているのか、ただ時間を潰しているだけなのか分からなくなっていた。あたしの赤髪と、ポニーテールに緩く結んだ紫のメッシュが、繊細なリボンのついた半袖ブラウスの上に落ちていた。ジーンズのスカートと履き心地のいいスニーカー。あたしの緑の瞳は宙を彷徨い、討論会での椿の毒のある言葉に囚われていた。
ゆうくんのマンションは広々として、でもシンプルだった。玄関で靴を脱ぐと、三人掛けのソファ、アームチェア、そして小さなソファが置かれたリビングが出迎えてくれた。クッションに囲まれた低い木製のテーブルが、あたしたちの作戦本部。左手には、あたしをめちゃくちゃ嫉妬させるゲーム機がずらりと並んだテレビラック。壁で仕切られたキッチンでは、勇太先生が何かをかき混ぜているのが見えた。彼の黒髪は無造作な団子に結ばれ、灰色のTシャツと黒のスウェットパンツ姿だった。
隣のフラヴちゃんは、熱心に身振り手振りを交えている。彼女のウェーブのかかった黒髪が、白いタンクトップとジーンズのショートパンツの上で揺れていた。ゆうくんのように鋭い黄色の瞳は輝いていたけど、討論会が彼女を打ちのめしたことを、あたしは知っていた。あたしたちの新しい味方、星野さんは彼女の隣に座り、腕を組んでいた。彼女の暗い緋色の髪が、冷たく分析的な紫の瞳を縁取っている。黒の長袖ブラウスとプリーツスカート、そして赤い蝶ネクタイは、エレガントな雰囲気を醸し出していた。
バレーボール界のスター、宮崎くんは、そわそわと落ち着きなく足を組み直している。彼の癖のある白い髪が午後の光を反射し、眼鏡が彼の青い瞳を際立たせていたが、その瞳はじーっとフラヴちゃんに釘付けだった。青いスポーツTシャツと灰色のハーフパンツ姿は、まさに「アスリート」そのもの。フラヴちゃんの弟、アレクサンダーくんは、あたしの前で退屈そうに携帯をいじっていた。彼の短い金髪と、画面に固定された青い瞳が、緑のポロシャツとジーンズと対照的だった。
他の皆が計画に夢中になっているように見える中、あたしの心は上の空だった。
宮崎くんはカチャと眼鏡を直し、興奮気味に言った。「俺、スポーツ部の代表として、バレー部、サッカー部、それにチアリーダーからの支持は取り付けられます。でも…」彼は気まずそうに後頭部を掻いた。「野球部は林先輩のせいで、ほとんどライバル側っす…それに、チェス部、音楽部、放送部。開盟の強い文化部には、知り合いが誰もいないんすよ。」
あたしはにやりと、からかうように笑った。「ちょっと、宮崎くん。チアリーダーのこと、よーく知ってるんだね?」
彼はトマトみたいにカァッと赤くなり、フラヴちゃんに向かって手を振った。「ち、違います、フラヴィアン先輩!試合の時に話すだけで、仕事ですから、誓って!」
フラヴちゃんは眉をひそめ、きょとんとした。「なぜわたくしに弁解をなさるのか、理解できませんわ、宮崎くん。」
アレクサンダーくんは腕を組みながら、ぶつぶつと呟いた。「理にはかなってる。多くの生徒が、うちの運動部の名声目当てで入学してくるからな。それを煽るのは、いい戦略になるかも。」アレクサンダーくんはキッチンの方へ顔を向けた。「兄上、僕たちを助けてくれる人、誰か知らない?」
ゆうくんはキッチンから振り向いた。団子頭が揺れる。「直接は干渉できないよ、アレックス。でも、率直に言って、君たちは自分のクラスメイトも知らないのか?君たちのクラスに、そういう部活のメンバーがいるだろう。」彼の声は丁寧だったが、どこか叱責するような響きがあった。
宮崎くんは屈託なく笑った。「勇太先生、すげーっす!この前の練習でのブロック、マジで神でした!」
ゆうくんはふっと半笑いを浮かべた。「コーチに頼まれた時だけ、手伝ってるだけだよ、宮崎くん。大したことじゃない。」
「大したことないですって?」宮崎くんは目を輝かせて叫んだ。「勇太先生、もうほとんどチームの補欠選手じゃないですか!」
あたし、フラヴちゃん、星野さん、そしてアレクサンダーくんは、ぽかーんとして顔を見合わせた。いつの間にそんなに親しくなったの?(あたしの心の声が叫んだ:ゆうくんはバレーボールが大好き。メモ完了!)
でも、あたしの心はまだ遠くにあった。椿が討論会でフラヴちゃんについて言ったこと。あれはただの政治的な挑発じゃなかった。何か、もっと別のものが…
あたしの表情が真剣になったのに気づいたのか、フラヴちゃんが首を傾げた。「はるちゃん?どうかしましたの?」
あたしはごくりと息を飲んで、目を伏せた。「ごめんね、フラヴちゃん…あたし、あなたのお母さんのご実家、酒井家について、調べちゃったんだ。」
一瞬、シーンと静寂が訪れた。フラヴちゃん、アレクサンダーくん、そしてキッチンにいたゆうくんまで、やっていたことを止めてあたしを見つめた。
「お気づきになるのが、少し遅かったようですわね」フラヴちゃんが最初に、小さくため息をついて言った。
「うん、遅いね」アレクサンダーくんがさりげなく付け加えた。
キッチンにいたゆうくんが、顔色一つ変えずに言った。「遅すぎるくらいだ…」
心臓がバクンと跳ねた。彼ら…平気なの?あたしはさらに気まずくなった。「で、でしゃばるつもりじゃなかったんだけど、討論会でああいうこと言われた後だと、どうしても気になっちゃって…」
星野さんは、こうなることを知っていたかのように、口の端で微笑んだ。宮崎くんは、まだ状況を理解しようとぱちぱちと瞬きしている。
「シルバーハンドやサカイの苗字を知ると、皆、必ず調べますのよ」フラヴちゃんがこともなげに言った。
すると、ゆうくんが言った。「へぇ、お前たち二人はまだそんなことと付き合ってるのか…」彼は上の戸棚の扉を開けながら続けた。「僕はもう関係なくて、本当に良かった…」彼は、安堵の小さな笑みを浮かべた。
アレクサンダーくんがため息をついた。「兄上が羨ましいよ。兄さんは、どっちの家の苗字も使ってないから。」
ゆうくんはふんと鼻で笑った。「僕は与えられた名前すら使ってない。苗字を使うわけないだろ?」
宮崎くんはうーんと眉をひそめたが、彼が何かを尋ねる前に、フラヴちゃんが割って入った。「ゆう…いえ、兄には、個人的な事情がありますの。」
あたしとアレクサンダーくんは顔を見合わせた。フラヴちゃんがわざとらしく話題を逸らしている。でも宮崎くんは、それをあっさりと受け入れた。彼のフラヴちゃんへの恋心は、もう隠しようもなかった。
その時、ゆうくんがキッチンから出てきて、手作りの軽食でいっぱいのトレイを置いた。クロワッサン、ケーキ、そして手作りクッキー。(ゆうくんの手作り…!!)「さあ、冷めないうちに食べろ。」
あたしがクッキーの一つを手に取った、その時。ゆうくんが一切れのケーキを取るのが見えた。レッドベルベットケーキ。そして、それをそっと星野さんの前に置いた。
「ほら、ミツキちゃん。アレクサンダーから君が来るって聞いて、君が一番好きなのを買っておくようにって、うるさかったからな。」
ガーン!
あたしの思考回路はショートしたどころじゃない。粉々に砕け散った。
ミツキちゃん????
星野さんは目を大きく見開き、ほんのり赤くなった。「あ、ありがとうございます、ジャッ…いえ、ニイ…勇太先生!」
あたしの世界がガラガラと崩れ落ちていく。(彼女、彼のことジャックって呼ぼうとした?それともニイ?兄さん?兄ちゃん?にいにい?!)
ゆうくんは彼女に優しく微笑んだ。「学校じゃないんだ。そんなに畏まらなくていい。」
「あ、はい、勇太さん…」星野さんは少し恥ずかしそうに頭を下げた。
あたしはまだカチンと固まったまま、心の中で叫んでいた。(あの優しい笑顔…あたしには一度も見せてくれたことないのに!!!)
その時、何かがゆうくんの注意を引いた。彼はポケットから携帯を取り出し、画面を読んで眉をひそめる。彼のリラックスした表情が蒸発し、滅多に見せない冷たい真剣な仮面に取って代わられた。
「少し、外に出てくる」彼は携帯をしまいながら言った。「何か買ってきてほしいものがあれば、今のうちに言え。」
「いえ、結構ですわ」星野さんは赤いケーキから目を離さずに答えた。フラヴちゃんと宮崎くんも首を横に振った。
だが、アレクサンダーくんは身を乗り出し、にこっと笑った。「週刊漫画の最新号。」
彼が言い終わる前に、フラヴちゃんが彼の手をピシャリと叩いた。「それは優先事項ではありません、アレクサンダー。」
ゆうくんはソファの肘掛けに放ってあった上着を手に取り、ドアへ向かった。でも、出る直前、彼はあたしたちの方を振り返った。片眉を上げ、フラヴちゃんに何かを言うかのように見えたが…彼の視線はあたしの方へ移った。あたしは彼が何かを言うと思った…でも、彼はためらった。
そして、あたしが何かを尋ねる間もなく、彼は星野さんの方を向いた。「ミツキちゃん、何かあったら僕に電話しろ。すぐ戻る。」
胸の中に、イラッとした熱がこみ上げた。あたしだけじゃなかった。隣のフラヴィアンが、居心地悪そうに身じろぎした。
どういう意味よ、「僕に電話しろ」って?なんで星野さんに責任を押し付けるわけ?あたしとフラヴちゃんもここにいるのに!あたしたちは信用できないってこと?!
星野さんは、それとは対照的に、まるでそれが世界で一番普通のことであるかのように、静かに頷いた。
ゆうくんはカウンターの上の財布を掴み、マンションを出ていった。
あたしとフラヴちゃんは顔を見合わせた。どちらも口には出さなかったけど、同じくらいムカムカしているのが、痛いほど分かった。
でも、彼は一体何を言いたかったの?あたしはため息をつき、本当に大事なことに集中しようと努めた。
あたしたちはまた選挙活動の話に戻った。
「勝ちたいなら、ただ支持を集めるだけじゃダメかしら」と、星野さんが腕を組みながら口火を切った。「椿先輩のチームを叩き潰さないと。」
あたしは眉をひそめた。
「でも、フラヴちゃんにやったみたいに、卑怯な手で攻撃するのは嫌だよ。」
隣でフラヴちゃんは黙っていたけど、彼女がジーンズのショートパンツをギュッと握りしめているのが分かった。
アレクサンダーくんがコホンと咳払いをして、みんなの注意を引いた。
「椿理香について、もう少し調べてみたんだ。」
宮崎くんが、好奇心いっぱいに身を乗り出した。「で、何を見つけたんだ?」
「彼女の家族の会社、今ちょっと官僚的な問題に巻き込まれてるみたいだ」と、アレクサンダーくんが説明した。「それが彼女に影響してるのかもしれない。討論会でフラヴィアンにあんなにきつく当たったのも、そのせいかも。」
ズンッ!
部屋の空気が重くなった。
他の子たちは理由がよく分かってないみたいだったけど、あたしにはフラヴちゃんがもっと緊張したのが分かった。ゆうくんが前に、シルバーハンド家の人生は人が思うほど単純じゃないって言ってた。彼らのお母さんの実家のことを知った今、その言葉がフラヴちゃんとアレクサンダーくんにとって、ただのコメントじゃなかったのは明らかだった。
変な沈黙が流れる。
それを破ったのは、フラヴちゃんの溜息だった。「選挙活動や支持だけで勝つ必要はありませんわ」彼女は自信に満ちた姿勢に戻って宣言した。「ええ、それらは不可欠です。でも、有権者は生徒であって、大人ではありません。具体的な変化を考えて投票するわけではないのです。結局、ほとんどの子は理想じゃなくて、好き嫌いで選ぶのですわ。」
星野さんは、その分析に同意するように頷いた。
「ですから」フラヴちゃんは続けた。その眼差しは決意に満ちていた。「投票前の最後の討論会で、わたくしが椿さんを打ち負かせばいいだけのことですわ。」
そして、彼女は鋭い笑みを浮かべた。「それは、二週間後ですけれど。」
空気中の緊張がビリビリと伝わってくる。椿さんが勝てると思ってんなら、大間違いだ。フラヴちゃんは、それを証明する気マンマンだった。
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その週は、マジでめちゃくちゃで、あたしたちの選挙活動は開盟高校で燃え上がった!あたしは狂ったみたいに走り回って、心臓はバクバクで、首の赤い十字架のネックレスが揺れていた。あたしの赤髪も、紫のメッシュを後ろで結んだポニーテールも、ぐちゃぐちゃ。緑の瞳はキラキラしてたけど、もう、ヘトヘトだった!
星野さんは裏方の女王だった。彼女は何夜もかけて、スローガンやポスター、デザイン、それに学校のストーリー用の動画を作ってくれた。「フラヴィアン・シルバーハンド:心あるリーダーシップ」っていうのが、開盟のスクールカラーである青い背景に金色の文字で、そこら中に貼られていた。
火曜日の休み時間。あたしとフラヴちゃん、星野さんで食堂に向かってると、廊下のポスターの前で立ち止まってる直美ちゃんを見つけた。彼女のサーモンピンクの髪が、赤い蝶のリボンで結んだサイドポニーで揺れている。オレンジ色の瞳は見開かれ、制服はいつものようにだらしない――シワだらけのシャツに、緩んだ緑のネクタイ。
「うわ…これ…いいじゃん」彼女は、ちょっとショックを受けたみたいに言った。
制服の赤い蝶ネクタイをきっちり締めて、クリップボードを手に持った星野さんは、はにかんで微笑んだ。
フラヴちゃんとあたしは、演説の達人になった。水曜日には食堂のテーブルの上に登って、フラヴちゃんはもう次期会長みたいに輝いてた。彼女の黒髪がセーラー服の上で揺れ、黄色い瞳は燃えていて、緑のネクタイは完璧。
「開盟の生徒の皆さん、わたくしたちは誰もが声を持てる学校を望んでいますわ!」彼女の声は、クリアで力強かった。
副会長のあたしは、サポート役で叫ぶ。「フラヴちゃんと一緒だ!みんなもそうだろ!?」
みんなが拍手して、あたしたちは一年生と二年生の教室でそれを繰り返した。フラヴちゃんはみんなを「同級生の皆さん」と呼び、あたしは場を和ませるためにジョークを言った。
宮崎くんとフラヴちゃんとあたしは、あたしたちのバレーボールスターのレーダーから外れていたクラブを訪ねた。木曜日に、あたしたちはチェス部、音楽部、放送部のクラスメートと話した。
「花宮先輩、僕、先輩たちにキャンペーンを広めるように話せますよ」と、眼鏡をかけた男の子が興奮して言った。彼の制服のシャツは少しシワになっていた。
宮崎くんは、白い髪を部屋の明かりで輝かせ、赤いネクタイを曲げながら、不器用にメモを取っていた。「よし、でも…イベントで彼らにどう話しかければいいんだ?」
フラヴちゃんはいつも通り丁寧に答えた。「宮崎くん、あなたのそのエネルギーだけで十分ですわ。」
(あたしは内心笑った――彼、あたしより緊張してるじゃん!)
スポーツ部では、話は盛り上がった。バレー部、サッカー部、チアリーディング部では、宮崎くんがフラヴちゃんの隣で自信満々に輝いていた。
でも、野球部では、事態は複雑になった。フラヴちゃんがチームに力強く話している間、あたしは隅にいる林くんに気づいた。彼の黒髪が茶色の瞳にかかり、制服の緑のネクタイは緩んでいて、その不満そうな眼差しは「椿はもうここで勝った」と叫んでいるようだった。
あたしは宮崎くんに囁いた。「なんかヤバそうな空気感じる。」
彼はゴクリと唾を飲み込み、眼鏡を直した。
フラヴちゃんは緊張を無視して、選手一人一人の手を取り、「私たちが夢見る開盟を応援してください、同級生の皆さん」と言った。
アレクサンダーくん、あたしたちの情報担当の天才は、椿さんの家族に夢中だった。金曜日に、彼は椿さんの会社の法的な問題に関する記事をスマホで見せてきた。彼の金髪は乱れ、青い瞳は画面に釘付けで、シャツは少しだらしない。
「これが彼女の自信に影響してるかもしれない」と、彼ははっきりとした声で言った。
あたしは眉をひそめた。「ていうか、彼女、ビビってるってこと?」
彼は頷いた。「たぶんね。フラヴィアンは討論会でこれを使えるかも。」あたしは黙っていた――椿をそんな風に攻撃するなんて…なんか、汚いよね?
でも、一番頭から離れないのは、金曜日の放課後のことだった。
フラヴちゃんが中庭で即席の演説をしていて、本館裏の噴水の周りに人だかりができていた。夕暮れの光が彼女の黒髪を照らし、制服は完璧で、彼女の声が響き渡る。「一緒に、開盟を輝かせましょう!」
宮崎くんが隣で群衆を盛り上げ、彼の赤いネクタイが揺れていた。
その時、あたしはゆうくんを見つけた。木陰に立って、黒髪をきっちりとしたお団子にまとめ、白いシャツの袖をまくり、グレーのズボンを履いて、少しだらしない雰囲気。彼の黄色い瞳はフラヴちゃんに固定されていて、その表情はプライドと…なんだろう、心配が混じったような感じだった。
あたしはニヤニヤしながら、こっそり近づいた。「フラヴちゃんのこと、誇らしいでしょ、勇太先生?」
彼はあたしの方を向いて、その眼差しが和らいだ。「花宮さん、僕は…むしろ怖いんだ。」
ドキッ!
あたしは心臓が止まるかと思った。「怖い?なんで?」
ゆうくんはためらって、視線をフラヴちゃんに戻した。「僕が君たちの年頃だった時、同じことをしていた。いや…しているフリをしていた。」
頭がグルグルした。どういうこと、フリって?
彼は黙り込み、顔が固くなった。聞きたい。どうしても聞きたい。でも…彼のあの言葉。「もう…違うんだ…」それが警報みたいに頭の中で鳴り響いた。
聞きたかったけど、彼の眼差しが何かを物語っていて、あたしをためらわせた。ダメ、この話はヤバい。
でも、ゆうくんはあたしを見て、その目はもっと冷たくなった。まるで、あたしが彼の過去について考えてるのを知ってるみたいに。
「僕が君たちの年頃だった時」彼は低い声で言った。「生徒会に立候補した。でも、会長とかじゃなくてね。僕は…役に立ちそうな人間を選んで、生徒会に入れてたんだ。」
あたしは空気を変えようと笑った。「え?影の黒幕的な?」
ゆうくんが横目でキッと睨んできて、あたしの笑いは途中で止まった。フラヴちゃんの言葉を思い出した。「私の選挙活動に、口出ししないでほしいのですわ。」
お腹が冷たくなった。口を開いたけど、言葉が詰まる。ダメだ。でも、心の奥で何かが、知らなきゃダメだって叫んでた。
「ねぇ、ゆうくん…」ゴクリと唾を飲んだ。「それって、あなたが…ヒーローだった頃の、訓練の一環だったりする?」
ゆうくんの背筋がピシッと固まった。彼の黄色い瞳が見開かれ、一瞬焦点がずれた。彼はショックを受けた顔であたしを見て、まるで秘密を暴かれたみたいだった。あたしの顔は心配でいっぱいで、心臓の音がうるさくて、周りの声なんて聞こえなかった。
「まあ…」彼は囁くように言った。「そう言えるかもな…」
あたしは固まって、噴水の前で話しているフラヴちゃんと宮崎くんを見た。彼女の声が力強く響き、宮崎くんが興奮して身振り手振りしている。頭がクラクラする。ヒーロー?ゆうくん?生徒会?
でも、彼を見て、彼がその秘密の重みを隠そうとしているのが分かった。もう、違うんだ。
深呼吸した。「勇太先生、今は選挙に集中しなきゃ。来週、あたしたちは勝つよ。」
彼はあたしを見て、半笑いを浮かべた。「ああ、花宮さん。」
群衆がフラヴちゃんに拍手を送り、あたしも微笑んだ。椿さん、覚悟しなさい。




