第6話「新たな仲間と古い傷」
フラヴィアン・シルバーハンド
首筋が熱くなり、自分の血が耳元で脈打つ音が聞こえましたわ。わたくしの足音は重く、タッタッタッ、と誰もいない舞台裏の廊下に響きます。討論会が終わるや否や、わたくしは嵐のように舞台を降り、はるちゃんの呼びかけを無視して、兄上がいるであろう照明室へ直行したのです。彼がそこにいると、わたくしには分かっていましたです。
兄上。わたくしの、お兄。
彼はそこにいました。壁に寄りかかり、まるで世界がわたくしの頭上で崩壊しなかったかのように、携帯をいじっています。その落ち着き払った態度が、わたくしの怒りに油を注ぎましたです。
「一体どういうことでしたの、ユウタ?!」
わたくしの声は張り裂けんばかりに、静寂の中で爆発しました。彼は驚きもせず顔を上げ、苛立たしいほどゆっくりと携帯をポケットにしまいました。
「あなたは!」わたくしは一歩踏み出し、震える指を彼に向けました。「あなたは、わたくしたちの家族がまるでゴミであるかのように語られるのを、ただ黙って見ていましたわ!わたくしがただの使い捨ての苗字であるかのように!それなのにあなたは、臆病者のように、ただ静かにそこに立っていただけです!」
彼はため息をつきました。その疲れた響きは、わたくしの中の嵐とは対照的でした。「フラヴィアン、これが政治です。批判に耐えられないのなら、このゲームに参加すべきではなかった。」
「批判ですって?!」わたくしの声が1オクターブ上がりました。「彼らはわたくしを攻撃しましたのよ!わたくしたちの過去を武器として使った!まるで、わたくしがただの…ただのレッテルであるかのようです!」
「彼らは間違ってはいません。」
その言葉に、怒りは含まれていませんでした。もっと悪いことに、それはまるで医者が診断を下すような、臨床的な冷静さで言われました。肺から空気がすべて抜け出しましたわ。
「あなたは…彼らに同意すると、そうおっしゃるのですか?」
兄上が一歩前に出ました。初めて、彼の先生という仮面にひびが入るのを見ました。その声には、わたくしが滅多に見ることのない、長年の重みを伴う疲労が滲んでいました。「シルバーハンドの名がそれほど誇らしいものだったなら、フラヴィアン、私も、エドワードも、ゴミのように捨てたりはしなかった。」
ズキン…もう一人の兄の名前。床が足元から消え去ったかのようでした。あの雨の夜に玄関のドアが閉まる音。彼が出て行った後の、あの巨大な家の圧迫するような静寂。兄上の、冷たく、砕かれた眼差し。
「あ、兄上…」わたくしの声は、か細い囁きでしたです。
彼は手で顔を覆いました。その厳しさは和らぎ、いつもの疲れた表情に戻りました。「申し訳ありません、フラヴィアン。ですが、これが真実です。会長になりたい、リーダーになりたいと望むなら、これよりもっと酷い一撃に耐える必要があります。」彼はわたくしに近づき、髪をくしゃりと撫でました。愛情のこもった仕草のはずなのに、今のわたくしをさらに混乱させるだけでしたです。
「フラヴちゃん!」
声が空気を切り裂きました。ハッとして振り返ると、色とエネルギーの塊のようなはるちゃんが、こちらへ走ってくるのが見えました。顔を赤くし、息を切らしています。首からは赤い十字架のネックレスが揺れています。
「どこを探してもいなかったんだよ!大丈夫?!何があったの?!」
目が熱くなり、こらえていた涙がこぼれ落ちました。わたくしが答える前に、兄上は踵を返しました。「失礼します。」
ガシッ!はるちゃんが、瞬きする間に彼の腕を掴みました。「フラヴちゃんをこんな状態のまま置いていくつもり?!」
「ええ」彼は感情のこもらない声で答えました。「彼女のこと、お願いします。」彼は彼女の驚くほど強い握力から、腕を解こうとしました。
彼女は一歩後ずさり、その冷たさに傷ついたようでした。でも、彼女はごくりと唾を飲み込み、彼女が大好きなアニメのヒロインのように背筋を伸ばしました。「そんな風に置いていくべきじゃない!」彼女は再び彼の腕を掴み、きっぱりと言いました。「あたしだってお姉ちゃんだよ、勇太。あたしなら、妹たちを絶対こんな風にしない。フラヴちゃんを一人にすべきじゃない!」
空気が重くなりました。兄上は歯を食いしばり、その目は侵入不可能な壁となりました。「花宮さん」彼の声は、初めて聞くような冷たさでした。それは「勇太先生」の声ではありませんでした。「私の家族の問題に、首を突っ込まないでいただきたい。」
はるちゃんは息を呑み、その緑の瞳を大きく見開きました。でも、彼女は引き下がりませんでした。「そうかもしれない…あたしが口を出すべきじゃないのかも…」彼女は低い、しかし挑戦的な声で言い返しました。「でも、だからって、彼女を見捨てることにはならない!」
二人は睨み合いました。その沈黙は刃のように鋭かったです。不意に、わざとらしい咳払いがその緊張を破りました。
振り返ると、薄暗がりの中に二つの人影が。弟のアレクサンダーが腕を組み、このドラマにはうんざりだ、という顔をしています。隣には、落ち着きなく拳を握りしめている直美。
「高橋先輩が、何か言いたいそうだ」アレクサンダーが、ぶっきらぼうに言いました。
わたくしたち三人は直美を見つめました。彼女は身を縮め、震える声で言いました。「あちし…お姉ちゃんに無理やり…今の副会長は、あちしのいとこで、家族が…椿に勝ってほしくて…あちし、選べなかったんだ…」
彼女の言葉が胸に突き刺さりました。兄上の言葉が響きます――'もっと酷いことに耐えろ'。深呼吸をしました。理解しましたわ。リーダーであるということは、弱さがないことではなく、他者の弱さを理解することなのだと。わたくしは背筋を伸ばしました。「直美ちゃん。」
彼女は驚いて顔を上げました。
「話を聞く前にあなたを判断してしまい、申し訳ありませんでした、直美ちゃん」わたくしは、小さな笑みを浮かべ、しかしきっぱりとした口調で言いました。「ですが、それでも変わりません。わたくしは負けませんわ。そして、あなたが間違った側を選んだのだと、証明してみせますです。」
直美は静かに、そして、はにかむように微笑みました。その目には涙が浮かんでいます。「頑張って、フラヴちゃん。」
「話は済みましたか?もう行っても?」アレクサンダーはため息をつきました。
「うん、うん」と直美。二人は去っていき、その足音は影に飲み込まれていきました。
兄上は眉をひそめました。「なぜあの二人が一緒に?」
はるちゃんは口元を覆い、いたずらっぽい笑みを浮かべています。わたくしは腕を組み、兄上を横目で見ます。
「何です?」彼は、訝しげに尋ねました。
はるちゃんとわたくしは、共犯者のように視線を交わし、声を揃えて言いました。「「別に〜」」
彼は目を細め、気難しいお爺さんのようなため息をつきました。「なぜか、これが頭痛の種になる気がするのだが…?」
わたくしは笑いました。心からの笑いでした。討論会が終わってから初めて、胸の重荷が少し軽くなるのを感じましたです。はるちゃんがわたくしの手を握りしめ、彼女のネックレスがスポットライトの弱い光を浴びて輝きます。椿、直美ちゃん、シルバーハンドや酒井の名も――もう、何もわたくしを止めることはできません。ええ、できないのです。
そうですわ、わたくしは、
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花宮陽菜
陽が地平線に隠れる頃、ようやく落ち着きを取り戻したフラヴちゃんが、この前も来たカフェに行きましょう、と提案しましたです。
「作戦をきちんと立てましょう、はるちゃん」と、彼女は言いました。その金色の瞳は、まるで討論会などなかったかのように、強い輝きを放っていました。あたしはただ頷きました。だって、ホットチョコレートと、彼女のあのエネルギーに抗える人なんて、いるわけないじゃないですか。
カフェは温かく居心地が良く、甘いキャラメルの香りが空中に漂っていました。ザワザワ…周りの会話の囁きが、カップの触れ合う優しい音と混じり合います。あたしはテーブルにつき、温かいマグカップを両手で包み込みました。一方、フラヴちゃんは、まるで自分の人生がかかっているかのように、小さなメモ帳に何かを書き殴っています。真剣な表情ですが、その瞳は店の温かい光の下でキラキラと煌めいていて、まるで最終決戦の計画を練る英雄のようでした。
ジャジャーン!
彼女はトロフィーのように誇らしげにメモ帳を掲げました。「わたくしたちの壮大な選挙キャンペーンの第一稿ですわ、はるちゃん!」
彼女がテーブルに広げた紙の山から一枚を手に取り、その熱意についていこうとしました。アイデアは…壮大でした。すごく、壮大すぎました。
「フラヴちゃん、これ、すごいけど…どうやって実現するの?」
彼女はきょとんと瞬きしました。「どういう意味です?」
あたしは無意識に赤いネックレスに触れながら、慎重に言葉を選びました。「だって、ここには学校祭より大きなイベントを企画して、生徒たちの心を掴むって書いてあるけど…そんな予算、あたしたちにはないよ。」
「わたくしは裕福ですわ」彼女は、むっと意地っ張りな顔で腕を組みました。
「うん、でも、全部自分で出すわけにはいかないでしょ?それでは公正な選挙とは言えません。」
フラヴちゃんは、まるで子供のように顔をしかめました。あたしは笑いをこらえながら、別の紙を手に取ります。「それに、こっち。野球部を使って宣伝するって書いてあるけど…あたしたち、野球部に知り合いなんていないよ。」
「ですが、椿にはいますわ」彼女は、指でテーブルをとんとんと叩きながら呟きました。
「でしょ。これじゃ、勝負にならないよ。」
沈黙。フラヴちゃんは眉をひそめ、考え込んでいます。「誰か…同じくらい影響力のある誰かが必要ですわね…」
その時、あたしの頭に電撃が走りました。(そうだ!ピカッ!)
「宮崎白郎!」
彼女は片眉を上げました。「どなたです?」
「一年生だよ!宮崎白郎!バレー部のスター選手!」あたしは興奮して説明しました。「学校中で大人気で、ファンクラブまであるんだよ!彼を味方に引き入れれば、人気面でのバランスは取れるはず!」
フラヴちゃんは静かにあたしを見つめていました。一瞬、この案も却下されるかと思いましたわ。彼女は顎に手を当て、金色の瞳を細めて分析しています。そして、ゆっくりと、感心したような笑みが彼女の顔に広がりました。彼女は両手でテーブルをバンッと叩きました。
「ジーニアス、はるちゃん!」
カフェ中のお客さんがあたし達の方を振り返りました。あたしは椅子に沈み込み、顔が火事のように熱くなるのを感じます。カァァ。「フラヴちゃん…声、大きい…」
「失礼、失礼!」彼女は笑いながら、夢中でメモ帳に書き込んでいます。「オーケー、オーケー。ですが、まだ宣伝が足りませんわ。デザインが得意な誰かが必要です…」
あたしはため息をつきました。その名前は、舌の上で重かったです。「あたしが知ってる中で、そういうのが本当に上手なのは、直美ちゃんだけだよ。」
「ですが、彼女は椿の側ですわ」フラヴちゃんが、苦々しい声で続けました。
どさっ。あたしたちは二人とも、まるで示し合わせたかのようにテーブルに突っ伏し、肘をついて、完全に敗北した顔を見合わせました。
「陽菜さん…」
「フラヴィアンさん…」
最初に立ち直ったのはフラヴちゃんでした。彼女は背筋を伸ばし、その顔には再び、今度はいたずらっぽい笑みが戻っていました。「ご存知、はるちゃん。あなた、こういうの、とても得意ですわね。」
「へ?何が?」あたしの目は皿のようになりました。
「分析、推理、点と点を繋ぐこと」彼女はペンでメモ帳を指しました。「あなたは、わたくしの壮大な計画の、わたくしが何世紀もかけても見つけられなかったであろう穴を、すべて見つけ出しましたです。」
ズキン!心臓が跳ねました。あたしはトマトのように赤くなり、マグカップに視線を落としました。「そ、そんなことないよ…ゆう–というか、勇太先生も前に似たようなことを…」
フラヴちゃんの笑みはさらに大きくなり、彼女は自信に満ち溢れて椅子に寄りかかりました。「ならば、わたくしたちにも勝機はありますわ。」
「どういうこと?」
「わたくしの天才的な発想と、あなたの頭の回転の速さ。二人一緒なら、兄上と同じくらい優秀ですわ!」彼女は、まるで宇宙の最大の秘密を明かしたかのように、ウィンクしました。
あたしの脳がショートしました。「待って、何?兄上?!」
彼女の顔が一瞬で真っ赤になりました。カァァッ!「な、何か言いましたかしら?!いえ、何も言っていませんわ!」彼女は必死に顔の前で両手を振って、自分を隠そうとしています。あの威風堂々としたフラヴィアン・シルバーハンドが、完全に動揺しています。
「フラヴちゃん…」あたしは目を細め、疑わしげに言いました。「『兄上』って、どういう意味?」
「か、家族の秘密ですわ!」彼女は、アニメの悪役のような大げさなトーンで叫びました。明らかに、話題を変えるための苦し紛れの言い訳です。
「とにかく!」彼女は驚くべき速さで平静を取り戻し、話題を変えました。「ターゲットは決まりましたわ。宮崎くんです。そして、彼に接触するのを手伝ってくれる当てがありますです。」
あたしは彼女をじっと見つめましたが、今回は見逃してあげることにしました。今のところは。フラヴちゃんが勝機があると言うのなら、あたしは彼女を信じます。「この選挙、勝とうね。」
彼女はテーブルの上で握りこぶしを突き出しました。その金色の瞳は、もはや傲慢さではなく、共有された決意で輝いています。あたしはため息をつきましたが、笑顔を抑えきれませんでした。自分の拳を、彼女の拳にコツンと合わせました。
「うん、勝つよ!」
(彼女が天才で、あたしが頭の回転の速さ…一緒にいれば…あたしたちはチームだ。そして、初めて、ただの副会長候補じゃなくて、パートナーなんだって感じた。)
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フラヴィアン・シルバーハンド
一年生の廊下に、ひそひそと声が響き渡ります。ですが、この胸の痛みはそのせいではありませんでしたわ。怒りと、もっと深い何か…古傷がズキンと脈打つような感覚ですの。あの方と顔を合わせるなど一番したくないことでしたが、椿に勝つためには、このプライドを飲み込むしかありません。黒髪が背後でさらりと流れ、私の黄色の瞳はまっすぐ前だけを見つめ、手の微かな震えを隠すように。
「フラヴちゃん、その子、本当に手伝ってくれるの?」隣ではるちゃんが尋ねました。彼女の鮮やかな赤髪が照明の下でキラキラと輝いています。その後ろで結ばれた紫のメッシュが揺れ、首元の赤い十字架のネックレスが、彼女の疑念に満ちたエメラルドグリーンの瞳を映していましたわ。
「ええ、きっと力になってくれますわ」と、喉の奥の詰まりとは裏腹に、しっかりとした声で答えました。「ですけれど、あちらがそう望むかどうかは分かりませんの。」
「どうして?」はるちゃんは眉をひそめます。
わたくしはため息をつきました。真実が重く肩にのしかかります。「なぜなら…わたくしたちの関係は、少し、複雑なのです。」
彼女がさらに尋ねる前に、わたくしたちは教室のドアの前で立ち止まりました。生徒たちが笑い、携帯をいじり、本をめくっています。そして、奥の席に、たった一人で座っている星野光希の姿が。ヘーゼルナッツのような暗い緋色の髪が肩まで落ち、毛先が内側にカールして、淡い光を捉えています。襟元の赤い蝶リボンが、物理学の本にじっと向けられた彼女の紫の瞳を際立たせていました。冷たくて、孤高。まるで、本の玉座に鎮座する氷の女王のようですわ。彼女を見るだけで、胃がきゅっと縮みましたわ。恐怖ではありません。彼女がわたくしを軽蔑していると知っているからですの。
「フラヴちゃん、震えてるよ?」はるちゃんが、アニメのキャラクターのように目をまん丸にして囁きました。
「し、してませんわ!」と反論し、すっと背筋を伸ばしましたが、私の手は意地悪く硬直したままでした。
彼女の机まで、こつ、こつと足音を響かせながら歩み寄ります。私の黄色の瞳は揺れていましたが、声を振り絞りました。「ほ、星野さん。」
彼女は少しだけ顔を向け、その紫色の瞳がわたくしを侮蔑で切りつけました。「あら…先輩。何かご用かしら?」その口調は、まるでわたくしが鬱陶しい虫であるかのように、気だるげでしたわ。
**(この無礼者…!)**血が頭に上りましたわ。
「あなたにお願いが…」胸の詰まりと戦いながら、そう言いました。
「お断りしますわ」彼女は冷たくそう言うと、まるでわたくしが存在しないかのように、本に視線を戻しました。
「まだ何も聞いてないじゃない!」はるちゃんがカッとなって叫び、ネックレスが揺れます。
光希さんは彼女に目を向け、口調は柔らかくなりましたが、それでも鋭いものでした。「申し訳ありません、花宮先輩。ですが、フラヴィアン先輩が関わることには、わたくし、興味がありませんので。」
歯をぎりりと鳴らし、黄色の瞳がギラリと光りました。「ちっ、あなたなんかいなくてもいいわ!」踵を返し、黒髪を風になびかせ、ずんずんと教室を出ました。なんて厚かましい!自分を何様だと思っているのかしら?わたくしはフラヴィアン・シルバーハンドですのよ!
でも、廊下で胸の圧迫感がぎゅーっと強まり、息苦しくなりました。立ち止まると、肩が震えているのが分かりました。彼女の言う通りかしら? お願いに来たのであって、喧嘩をしに来たわけではないのに。でも、星野さん相手では…いつもこうなってしまうのです。
「フラヴちゃん!」はるちゃんがはぁはぁと息を切らしながら駆け寄ってきました。彼女の緑の瞳が、私の強がりの奥を見抜いていました。「どうしたの?」
床に目を落とし、声が詰まりました。「わたくし…もっとうまくやるべきでした。でも、できませんでしたの。なぜなら…」ごくりと唾を飲み込み、真実を口にしました。「星野さんとわたくしには、過去があるのです。そしてそれは、決して癒えることのない傷なのですわ。」
はるちゃんはぽかんとしていましたが、静かに待っていてくれました。深呼吸をして、わたくしを壊したあの時に、心を戻しました。
「中学校の時、生徒会長に立候補しましたの」腕を組み、黒髪が肩にかかるのを感じながら、黄色の瞳に涙がにじむのが分かりました。「光希さんは、わたくしの副会長でした。小学校からの、一番の親友。**わたくしたちは一心同体でしたの。**お腹が痛くなるまで笑い、星空の下で約束を交わし、二人で学校を変えようと誓いましたわ。」声が震え、記憶がガラスの破片のように突き刺さります。「生徒会では、わたくしたちは無敵でした。でも、任期の終わりに、また立候補しようとしたのです。すると、わたくしの家族が――母方の一族が、それに大反対しました。『子供の遊びだ』と。酒井の名にはもっと価値があると。」
顔をしかめ、怒りと痛みが混ざり合いました。「わたくしは無視しました。光希さんなら、私の影であり、心である彼女なら、そばにいてくれると信じていました。でも彼女は…」声が途切れ、涙が熱く込み上げました。「**彼女は、わたくしを見捨てたのです。**彼らに同意し、わたくしを無責任だと言い、そして何より…わたくしに敵対して、立候補したのです。」
はるちゃんの緑の瞳が、少年漫画のようにカッと見開かれました。「ライバルになったってこと?!」
頷くと、胸が押しつぶされそうでした。「世界が崩れ落ちるかのようでしたわ。魂を分けた姉妹同然の親友に、裏切られたのです。わたくしは怒りに我を忘れ、彼女を罵りました。彼女はただ、あなたには決して分からない、とだけ。**(その言葉が、裏切りそのものよりも痛かったのです…)**それ以来、わたくしたちは赤の他人。彼女はわたくしをゴミのように扱い、そしてわたくしは…彼女を失った自分を憎んでいるのです。」顔を覆い、声は囁きになりました。
「だから椿さんの陣営に直美ちゃんがいた時、あんなにイライラしてたんだ…」はるちゃんが呟きました。そして、彼女はキリッと顔つきを変えました。「フラヴちゃん、それは違うよ!直美ちゃんは今でも友達で、ライバルなだけ!それに…あたしが最後まで一緒にいるから!」
ドキッ。心が止まりました。顔を上げると、彼女のエメラルドグリーンの瞳が、わたくしを支えるかのように力強く輝いていました。「はるちゃん…」感謝に声が震えます。二人の視線が絡み合い、彼女の赤いネックレスがキラリと光りました。一瞬、世界にはわたくしたち二人しかいないように感じましたわ。
「…ゴホン」
わざとらしい咳払いが、その静寂を破りました。ハッとして振り向くと、アレクサンダーがそこにいました。短い金髪、腕組み、そして彼の青い瞳は「どこか他に行きたい」とありありと語っていました。「廊下でそんなメロドラマを演じるのはやめてもらえませんか?兄弟だと知られて、恥ずかしいのですが」と、彼は皮肉たっぷりに言いました。
「なぜあなたがここにいるのです?」と、顔をカァッと赤らめながら、黄色の瞳を細めて尋ねました。
「僕の教室はそこだから」彼はぶっきらぼうに指さしました。「で、あんたたちは何してんの?」
はるちゃんがわたくしを見ました。ためらいましたわ。「選挙のために、星野さんの助けが欲しかったのです。」
彼はふんと鼻を鳴らし、目を回しました。「彼女が手伝うわけないだろ。あんたのこと、嫌ってると思ってるんだから。」
「嫌ってなんかいませんわ!」と叫びましたが、声は弱々しくなりました。「本当は…すべてを台無しにした自分を嫌っているのです。」
はるちゃんがきょとんとしました。「アレクサンダーくんは、星野さんと友達なの?」
アレクサンダーは片眉を上げました。「だったよ。フラヴィアンが彼女を『親友』として盗むまではね。」
「あらあら、嫉妬かしら?」はるちゃんが口元を覆い、くすくすと意地悪く笑いました。
「花宮先輩、ものすごくイラッとさせられる時があるって、誰かに言われたことありませんか?」彼がムッとして言うと、はるちゃんはあんぐりと口を開けました。「とにかく、あんたたちの問題だ。僕は知らない。」
彼が通り過ぎようとした時、アイデアが**ピコーン!**と閃きました。「待ちなさい、アレックス!」彼の肩を掴みました。
彼はじろりとわたくしを睨みます。「何だよ。」
わたくしはにやりと狡猾に笑い、黄色の瞳を輝かせました。「もし手伝ってくれたら、あなたが欲しがっている巨大なカタツムリウムを、兄上に買ってもらうよう説得してあげますわ。」
彼の目は輝きましたが、腕を組みました。「うちは金持ちだ、フラヴィアン。自分で買える。」
「あら、そうですの?」と、挑発するように首を傾げました。「あなたのあのお小遣いで?それとも、お父様かお母様に電話を?」
彼の顔が歪みました。彼は両親に何かを頼むのが大嫌いなのです。わたくしは囁きました。「でも、兄上なら…ええ、喜んで買ってくださるでしょうね。だって…わたくしは、兄上を手のひらで転がせますもの。」
「うわあああ!」アレクサンダーはわなわなと震えながら叫びました。「分かったよ!でも、約束は守れよな!」
彼はまるで負けた悪役のように、だんだんと足を踏み鳴らして去っていきました。はるちゃんがぽかーんとした顔でこちらを向きます。「カタツムリウムって何?」
わたくしは笑いました。胸の重荷が少し軽くなった気がします。「カタツムリを飼育する場所ですわ。」
彼女はぞっとして固まり、緑の瞳が嫌悪に歪みました。「うぇっ!そ、そんなこと知らなくてもよかったんだけど…」
わたくしはアハハと笑いました。星野さんの痛みはまだそこにありますが、軽くなっていました。**(はるちゃんがそばにいて、アレクサンダーという新しい駒も手に入れた。椿なんて、過去なんて、何も怖くありませんわ。)**ええ、ゲームは、わたくしに有利に動き始めたのですから。




