表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/95

第7話「ファントム」

竹内勇太


 木村大地が校門をくぐったその日から、俺は奴が計算された脅威だと分かっていた。刃のように鋭い眼差し、毒を隠した笑み、そしてゲームの駒をすべて握っているかのような立ち姿——奴は教師なんかじゃない、死刑執行人だ。


 友美に奴の経歴を深く掘らせたが、返ってきたのはパンくず同然の情報だけだった。ありきたりな履歴書、偽造を疑うほどクリーンな経歴。木村は失敗するためにここへ来たんじゃない。破壊するために来たんだ。だが、何を?誰を?


 今、奴は俺の目の前にいる。学校近くの悪臭漂う路地裏で、腐ったゴミと錆の臭いがもわっと立ち込める中、街灯の弱い光が、これから起こることを知っているかのようにチカチカと揺れていた。奴はコツ、コツとゆっくり歩み、銃口を俺の胸に向け、その一歩一歩がひび割れたアスファルトを叩く金槌のようだ。路地の入り口には、花宮さん とフラヴィアンが恐怖で顔を真っ白にして、ガチガチに固まっている。花宮さんはフラヴィアンの手を握りしめ、その目は大きく見開かれ、切り裂くような風に髪が乱れている。フラヴィアンは涙で腫れた目で、今にもくずおれそうだった。田中くんは、刈り上げた髪が光を反射させ、薄青い瞳が疑念に揺れながら、彼女たちの隣でためらっていた。その細い眉はひそめられ、服従と不確実性の間で引き裂かれている。木村は、まるで王のように彼らの横を通り過ぎる。その完璧な灰色のスーツ、冷たい勝利の仮面を浮かべた顔。


「その手、僕に見えるところに置いておきたまえ」奴は命じた。その声は柔らかいが、カミソリのように鋭く、俺の目をじっと見つめ、俺を屈服させようとしていた。


 俺は胸の高さまで両手を上げた。殴り倒した男たちの血がまだ拳に生暖かく、心臓はドクドクと鳴っている。恐怖からじゃない。花宮さん とフラヴィアンが危険に晒されているこの緊張感からだ。木村は銃を持ち上げ、黒い銃口が致死的な約束を込めてキラリと光る。「もっと高く」奴はドスの利いた声で唸った。「君のような男を、そうふらふらさせておくわけにはいかないからね」


 俺は挑発するように、歯を食いしばりながら笑ってやった。汗で髪が顔にべったりと張り付いている。


「随分と必死だな、木村先生?」と、俺は挑発し、腕をさらに上げた。筋肉がピキピキと張り詰め、いつでも動けるように。死ぬこと自体は怖くない——死など何度も直面してきた。だが、この子たちを守り損ねること?それだけは許されない。


 奴は瞬きもせず、俺から目を逸らさずに田中くんの方へ首を向けた。「君はここまで役に立った」その声には軽蔑がじわりと滲んでいた。「さあ、シルバーハンドさんと花宮さんを連れて学校に戻りなさい。すぐにだ」


 田中くんはゴクリと唾を飲み込み、薄青い瞳が揺れ、声が震えた。「で、でも、木村先生…先生は何を—」


 木村はチッと舌打ちし、まるで田中くんが邪魔者であるかのように、その顔を嫌悪に歪めた。「命令に従え!」と、奴は声を荒げた。引き金に置かれた指が、その限界に近い忍耐を物語っていた。


 それが隙だった。奴の注意が逸れた、その瞬間。


 俺は踏み込んだ。世界がスローになる。俺の脈拍の音だけが、ドクン、ドクンと耳元で鳴り響く。木村が引き金を引こうとしたが、俺は既に奴の手首を掴み、力任せにバキッと捻り上げていた。銃口が天を向く。


 ズドン!


 銃声が空気を引き裂き、雷鳴のような轟音が路地裏に響いた。花宮さんの悲鳴がキャーッと聞こえ、弾丸は闇に消える。空いた手で奴の目を狙ったが、木村は速かった——悪魔のような動きだ。奴は体を回転させ、俺の腕をゴッと強打した。骨がギリッと軋むほどの衝撃。銃は宙を舞い、ゴミ袋の山の中にカランと音を立てて落ちた。


 俺たちは息を切らしながら距離を取った。肺が焼けるように熱い。俺は後ろへ飛び、奴と少女たちの間に割って入った。花宮さん とフラヴィアンは今、俺の背後にいる。田中くんは衝撃でカチンと固まっていた。


 木村はクククと低く、毒々しい声で笑った。その音に、俺はギリッと奥歯を噛みしめた。


「君は本当に、ただの教師ごっこをしていただけの子供じゃないのかね?」と、奴は挑発した。その目はサディスティックな喜びにギラギラと輝いていた。


 ジャケットの下から、奴はスッと二本のナイフを取り出した。逆手に握られ、刃が下を向いている。その刃が、薄暗がりで牙のようにキラリと光った。緊張が走る。ナイフ。


 奴は稲妻のように速く突進してきた。俺に後退するスペースはない——花宮さん とフラヴィアンがすぐそこにいて、無防備だ。最初の一撃は右から。ナイフがヒュッと風を切り、その音が顔のすぐそばを通り過ぎる。俺は後ろへ飛び、刃の風が肌を冷たく撫でた。奴はマシーンだ。パンチのたびにナイフが回転し、リーチを広げる。一つ一つの動きが、俺を追い詰めるために計算されていた。


 ザクッと、前腕に切り傷が走る。燃えるような痛み。スッと、もう一太刀が胸を切り裂き、シャツが破れ、熱い血がじわりと滲む。頬にもう一撃。血で視界がじわっと滲み、アスファルトにポタポタと滴り落ちた。


 肺が燃えるようだ。息が切れ、汗と血が顔を伝う。*二年間のブランクがここまで響くのか?*いや、違う。木村大地は、格が違う!奴の一撃一撃が罠で、一歩ごとに俺を追い詰めていく。奴は俺が消耗していることを知っている。この路地裏が檻で、花宮さん とフラヴィアンが餌であることも。


 その時、一瞬の隙が生まれた。奴が滑ったのだ。濡れたアスファルトで右足がためらい、腕が上がりすぎ、胴体ががら空きになった。俺の体は思考より先に動いた。拳が奴の腹にゴッと沈み込み、乾いた衝撃音が雷鳴のように響く。俺は回転し、持てる力のすべてを込めて、蹴りを奴の胸に叩き込んだ。


 木村はドカッと吹き飛び、ナイフが手から滑り落ちた。一本は俺のそばに、もう一本は奴の近くに。俺は床のナイフを拾い上げた。冷たい刃が手のひらに収まり、血が腕を伝う。息をするたびに、胸がズキッと痛んだ。


「いけー、ゆうくん!フェンシングやってたんでしょ!」


 花宮さんの叫び声が、空気を切り裂いた。その声は震えていたが、燃えるような希望が込められていた。まるで、血まみれで、痛みと混沌の中にいる俺が、この状況を覆せると信じているかのように。


「私がやっていたのは剣だ」と、俺は木村から目を離さずに呟いた。血が床にポタリと落ちる。「ナイフは…得意じゃない」


 剣が俺の武器だった——長く、正確で、戦略を立てる余地がある。ナイフは野蛮で、汚く、生々しい。だが、今はこれしかない。木村は倒れたが、猫のような精密さで空中で体勢を立て直し、着地した。その目は憎悪にギラついている。もう一本のナイフは数センチ先にあり、奴はそれを超自然的なほど滑らかな動きで拾い上げた。俺たちは睨み合った。路地裏の静寂が息苦しく、俺の肺が空気を求めて喘ぐ音だけが響いていた。


 俺の顔は血の地図のようになり、切り傷がヒリヒリと痛み、片目の視界がぼやけている。木村は息を切らしながらも、汗ばんだ顔で笑っていた。その目は病的な自信に満ちている。戦闘の騒ぎが、群衆を引き寄せていた——路地の入り口には生徒たち、通行人たちが指をさし、その声は毒のようにヒソヒソと囁いていた。「勇太先生だ!」「彼、戦ってる!」「やっぱり危険な人だったんだ!」その言葉の一つ一つがナイフとなり、木村の仕掛けた罠をさらに深く抉っていく。俺に関する噂は、学校で既に火事だったが、今やドカンと爆発し、俺がその燃料だった。奴はすべてを画策したのだ——この路地裏も、この戦いも、この目撃者たちも。


 何を言っても無駄だ。警察のサイレンがピーポーピーポーと空気を切り裂き、葬送の鐘のように、刻一刻と近づいてくる。友美に助けを求める?不可能だ。彼女を危険に晒せば、彼女の社会復帰の努力をすべて無に帰し、彼女の——そして俺の——正体を危険に晒すことになる。*クソッ。*木村は俺を追い詰めた。奴はそれを分かっている。俺の体はガチッと固まり、苛立ちが燃え上がり、筋肉が悲鳴を上げ、血が蛇口のように流れ続ける。どうやってこの状況を覆す?


「危ない、ゆうくん!」


 その時、パニックに満ちた叫び声が路地裏に響き、俺の集中を断ち切った。花宮さんだ。声は途切れ、その目は絶望に大きく見開かれている。


 俺の体は本能で動いた。世界がスローモーションになる。キラリと刃が煌めき、死のように速く、俺の目に迫る。俺は後ろへ飛んだが、切り傷が眉の上に深く刻まれ、血がドッと噴き出し、片目を塞いだ。痛みは稲妻のようだったが、ためらわなかった——死は俺を止められないが、この子たちを守り損ねることは、できない。俺はナイフをより強く握りしめ、血で滑る指で、緊急性に駆られて突進した。


 俺たちの刃がガキンッと衝突し、金属音が爆ぜ、火花が砕けた星のように飛び散った。木村は戦法を変え、ナイフをレイピアのように扱い、俺にはほとんど見えないほどの速さで突きを繰り出した——胸、首、脚、一撃ごとに肉を抉り、俺をじりじりと追い詰めていく。俺は反射で避けていたが、動きは鈍く、弱々しく、切り傷は増え、血がシャツをびっしょりと濡らしていく。背中が壁にドンとぶつかった。冷たく、ざらついたコンクリート。逃げ場はない。クソッ。


 木村はクハハと笑い、その目はサディスティックな喜びに輝いていた。「僕に勝てると思ったのか?」と、奴は憎悪を滲ませて囁いた。「君は無に等しい」


 俺が反応する前に、奴は回転し、強烈な蹴りが俺の脇腹を捉えた。ゴッ!ハンマーで殴られたかのような衝撃。肺から空気がヒュッと抜け、俺の体は木箱の山に叩きつけられた。バキバキッ!と木が砕ける音が、俺のかすれた呻き声と混じり合った。起き上がろうとしたが、腕はぷるぷると震え、視界はぐらぐらと揺れ、血がもう片方の目にも流れ込んでいた。息をするたびに激痛が走り、すべての動きが拷問だった。


 奴の脚…人間のものじゃない。あれは ブルータルな力、訓練、何かそれ以上のものだ。*こいつは一体、何なんだ?*俺の心は叫んでいたが、体はほとんど反応しなかった。群衆は増え、声はざわざわと大きくなり、サイレンはすぐそこまで迫っていた。フラヴィアンはしくしくと泣きじゃくり、その声が俺の胸を引き裂く。花宮さんは声を枯らして叫んでいた。「ゆうくん、立って!お願い!」彼女の絶望は重荷だったが、同時に、炎でもあった。


 奴の脚…あんなに強力なのか?いや。あれは—


___________________________________________________


木村大地


 チェックメイト


 竹内勇太は壊れた木箱の間に倒れていた。胸が苦しそうにぜえぜえと上下し、顔からは血が赤い絵の具のように流れている。路地裏は腐ったゴミと錆の臭いがぷんぷんと立ち込め、街灯の弱い光がちかちかと揺れていた。まるで、この空気自身が僕の勝利を予感しているかのようだ。思ったよりも、容易いことでしたね。彼は腕が立つようでしたが、僕ほどではなかった。


「それで終わりですか?あなたが、あの噂の男なのですか?」僕は挑発し、ナイフをくるくると手の中で弄びながら、ゆっくりと歩み寄った。さあ、これで終止符を打ちましょう。


 だがその時——空中で何かがキラリと光った。高速で回転するナイフが、静寂を切り裂く。僕はひらりと身をかわしたが、頬に細く、しかし正確な一筋の切り傷が走った。熱い血がじわりと流れ、僕は驚きで目を見開いた。その衝撃は、まるで殴られたかのようだった。


 竹内勇太が立っていた。彼はまるで、瓦礫の山に叩きつけられたことなどなかったかのように、忌々しいほど落ち着き払って、ブレザーの埃をパンパンと払っている。


「あなたの最後の一撃、気になっていたんですよ…」彼は言った。その声はしっかりとしており、黄色い瞳が、僕の脈拍をドキリとさせるほどの強さでギラギラと輝いていた。「実に…興味深い。つまり、それはこういうことでしょう…」


 彼はブレザーを脱ぎ捨て、シャツの袖をまくり上げた。その時、僕の目に信じられない光景が飛び込んできた。細い金属製の合金が彼の腕を滑るように覆い、第二の皮膚のようにキラリと光りながら、カシャ、カシャと音を立てて正確に腕に装着されていく。あれはありふれた義肢などではない。あの技術…奴だ。


「…君が相手なら、私も本気を出せる。このクソファントムが!」と、彼は叫んだ。その声は、雷鳴のように路地裏に響き渡った。


 僕の仮面が剥がれ落ちた。笑みがにやりと広がった。広く、電気が走るような笑みだ。興奮が胸の中でメラメラと燃え上がる。ついに!


「ついに見つけましたよ!」僕は唸った。ナイフを持つ手が震えている。怒りからではない。純粋なアドレナリンからだ。


「このクソクルセイダーが!」


___________________________________________________


竹内勇太


 木村はただの毒々しい笑みを浮かべた教師なんかじゃなかった。奴のズボンの下に隠されたエクソギア——あの蹴りの威力、外科手術のような正確さ——が、奴の正体を物語っていた。奴はレッドファントムだ。そして今、路地裏で花宮さん、フラヴィアン、そして田中くんが俺の背後で無防備に晒されている。その緊張感が、錨のように俺にずしりと重くのしかかる。


 奴は走ってきた。その顔は、怒りと恍惚が入り混じった病的な表情に歪んでいる。ためらっている暇はない。俺は地面にぐっと足を踏みしめ、腕の金属合金が冷たいエネルギーをバチバチと発しながら、奴に向かって突進した。


 木村は義肢のブルータルな力を信じ、再び蹴りを繰り出してきた。だが、今度は準備ができていた。俺は腕を上げ、合金がゴッという衝撃を吸収する。その金属音は、葬送の鐘のようにカーンと響き渡った。後退する代わりに、俺は奴の機械の脚を両手で掴んだ。その冷たく、人工的な重さを感じる。高度な接続部だったが、完璧ではなかった。奴はじたばたともがき、パニックに目を見開いたが、俺は全力で引っ張り、ギャリギャリという金属の軋む音と共に、義肢の一部を引き剥がした。


 木村は後ろによろめき、バランスを崩し、衝撃で顔面蒼白になった。俺は輝く破片をしばらく手に持ち、顔からだらだらと流れる血をそのままに、それをまるでガラクタのように、軽蔑を込めて地面に投げ捨てた。


「もっといいものを見たことがある…」と、俺は呟き、手の甲で頬の血を拭い、奴に視線をぐっと固定した。


 木村の目に怒りがカッと爆発した。「ふざけるな!!」奴は叫び、盲目的な暴力で突進してきた。一撃一撃が純粋な憎悪だった。脚が損傷し、奴の技術は崩れたが、その力はまだ計り知れない。奴はナイフを切りつけるためではなく、道を切り開くために使い、俺をじりじりと後退させた。俺は腕の金属メッシュで斬撃を受け流した。ブロックするたびに火花がバチバチッと降り注ぎ、金属対金属の甲高い音が路地裏に響き渡る。


 奴の蹴りが俺の膝を捉え、痛みが脚をズキッと走った。俺はぐっと呻き、一歩後退する。


 奴はその隙を見逃さなかった。ナイフが振り下ろされたが、それは俺の守られた胸を狙ったものではなかった。木村はそれほど馬鹿ではない。刃は俺の体の側面、胴体を覆うメッシュとズボンの間の、わずかな弱点を狙ってきた。


 俺は腰をひねって避けようとしたが、ナイフの先端が肉をザシュッと引き裂き、脇腹に深く、焼けるような切り傷を残した。


 痛みに呻きながら、肺から空気が漏れる。熱い血がじわりと流れ出し、シャツの側面を濡らしていく。鋭い痛みと混じり合った疲労感が、鉛のように俺の体をずしりと引っ張った。


 *まだ立っているのか…クソッ。*呼吸をするためのほんの一瞬、スペースが必要だったが、木村は容赦しなかった。奴の目は熱に浮かされた狂気にギラギラと輝き、俺は歯を食いしばった。路地裏の入り口に群がる野次馬たちの重圧を感じる。奴を殺すのは簡単だ。だが、ここじゃない。みんなの前では…この三人の前では、できない。


 だが、代わりの手を考えている時間はなかった。(すまない、フラヴィアン。こんなもの、お前に見せたくなかった…)


 怒りに我を忘れた木村は、荒々しい蹴りをぶんぶんと空中に放ち続けた。俺はほとんどを避け、受け流しながら、ただ待った。そして、隙が生まれた。不用意な真っ直ぐな蹴りが、俺の左側をかすめていった。奴は自分のミスに気づき、目を見開いた。これで終わりだ。


 俺の指先が合わさり、メッシュが手の先端で鋭い刃へと形を変えた。俺の右腕が、真っ直ぐに、容赦なく、奴の首を狙って突き進んだ。


 ズドン!


 銃声が空気を切り裂いた。木村の義肢に弾が当たり、バチバチッと火花が散って、奴のバランスを崩した。怪我はさせていないが、俺を殺意のトランス状態から引き戻すには十分だった。奴はよろめき、その顔は衝撃で凍りついていた。


 俺はその瞬間を捉え、地面に足をぐっと踏みしめて突進した。切りつける代わりに拳を握りしめ、奴の顎に強烈な一撃を叩き込んだ。その衝撃で奴の体は空中でくるりと回転し、ドサッという乾いた音を立ててアスファルトに激突した。


 俺はハア、ハアと息を切らし、筋肉が燃えるように痛み、血が流れ続ける中、何とか立ち続けた。木村大地は地面に倒れ、その顔は埃と血にまみれていた。だが、俺一人で勝ったわけじゃない。俺の視線は、戦いの流れを変えた路地の入り口の三人へと向かった。


 田中くんはまだ銃を握りしめ、刈り上げた髪は汗で光り、薄青い瞳は大きく見開かれ、細い眉はアドレナリンでピクピクと震えていた。彼の隣で、花宮さんは怒りと安堵で震え、拳を握りしめ、まるで田中を殴りたいかのように空を叩いていた。フラヴィアンは顔を覆い、指の間から覗き込み、その目には涙がキラキラと光っていた。


「なんで頭を狙わなかったのよ?!」花宮さんは叫び、田中くんの肩をバンバンと叩いた。その声は感情で震えていた。


「やろうとしたんだよ、いいだろ?!これで撃つのがどんなに大変か分かってんのか?!」田中くんは言い返した。その声は大きかったが、まるで命拾いしたかのような、神経質な笑みを浮かべていた。


 俺はふうっと重いため息をつき、痛む腕をさすりながら、彼らに近づいた。田中くんの手から、まだ熱い銃を受け取った。


「君たちに、今、山ほど説教したいところだが…」俺は一度言葉を切り、彼らの目を見つめた——意地っ張りな勇気を持つ花宮さん。脆いが、芯の強いフラヴィアン。衝動的だが、忠実な田中くん。「ありがとう」


 三人は目をぱちくりさせ、俺が身構える前に、まるで俺が地面に彼らを繋ぎ止める唯一のものであるかのように、一斉に飛びついてきた。俺は避けようとしたが、筋肉が悲鳴を上げ、アドレナリンは尽き果て、彼らはぎゅうぎゅうと俺にまとわりつき、泣き、笑い、同時に喋っていた。


 花宮さんはぶつぶつと文句を言いながら、俺の腕をぽかぽかと軽く叩いている。フラヴィアンは俺の肩に顔をうずめ、しくしくと静かに泣いていた。田中くんは、まるで遊園地から出てきたかのように、その日一番の勝ちを得たかのようににこにこと輝いていた。


 *(これから、どうやってこれを説明するんだ?)*俺は思った。疲労がずっしりとのしかかり、血はまだ滴っている。「分かった、分かったから、もういい。離れろ、離れろ」と、俺は呟き、彼らを弱々しく押しのけた。体を動かすたびに、全身がズキズキと痛んだ。


 だがその時、背筋にぞくりとした悪寒が走った。木村が、ゆっくりと、しかし意図的にむくりと起き上がっていた。花宮さんは息を呑み、フラヴィアンは後ずさり、田中くんは緊張し、まるでまだ銃を持っているかのように空を握りしめた。俺は身構え、呼吸を整えた。金属合金が、シャツの袖からシューッと音を立てて再び現れる。まだ終わりじゃない。


 木村は汚れた顔を手で拭い、指が血で染まる。その目は、狂気と満足が入り混じった光で輝いていた。彼は、広く、不気味な笑みを浮かべた。「ええ…僕の秘技を見せる時が来たようですね」


 俺はゴクリと唾を飲み込み、筋肉が緊張し、頭がフル回転する。このクソ野郎、まだ何か隠し持っているのか?


 奴は眉をひそめ、俺の向こう、まるで何かを後ろに見たかのように視線を動かした。「しかし、あれは何だ?!」


 俺の体は本能で反応し、くるりとその場で振り返った。何もない。路地裏は空っぽで、影とゴミがあるだけだ。その馬鹿げた策略に気づいた時、俺は再び振り返った——そして、木村が走っているのを見た。背を向け、ゴミ袋につまずきながら、義肢をギーギーと軋ませて。


「に、逃げるんですよォ!」と、奴は叫んだ。その声は、彼が泥棒のように通りの暗闇に消えていく間、わんわんと響き渡った。


 俺たちは麻痺したように立ち尽くし、静寂が路地裏に重くのしかかった。フラヴィアンはぱちぱちと瞬きをし、まだ涙で濡れた顔で混乱していた。花宮さんは口を開けたまま、笑うべきか叫ぶべきか迷っているようだった。田中くんが、後頭部をポリポリと掻きながら、静寂を破った。「あいつ、あのアニメのネタを使ったのか?」


 花宮さんは、通りから目を離さずに、呆然と答えた。「ええ、使ったわね」


 俺は疲れ果て、体中の痛みに耐えながら頷いた。「完全にやったな」


 俺はため息をつき、戦いの、そして噂の重みがどっと肩にのしかかるのを感じた。俺の本能は、木村を追いかけ、奴がこれ以上何かを企む前に仕留めろと叫んでいた。だが、俺は周りを見た。腕をさすりながら、混乱を整理しようとしている花宮さん。目を拭い、脆いが、それでも立っているフラヴィアン。そして、俺が頼めば戦争にでもついてきそうな、その薄青い瞳を輝かせている田中くん。


 俺は一瞬目を閉じ、路地裏の冷たい空気を肺に満たした。*俺はもうクルセイダーじゃない。俺は、代理教師だ。*俺の偽装はまだ生きていたが、この子たち——彼らが、今の俺の現実だった。


 俺は彼らに向き直り、ポケットに手を突っ込み、顔で血が乾いていくのを感じながら言った。「帰るぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ