告白ゲーム、地雷原
作戦は順調——のはずだった。
敵の補給路を断ち、連絡網を混乱させるため、6人での奇襲任務。戦場の裏側で行われるこの隠密作戦は、表の戦力とは違う、小回りの利く部隊——つまり俺たちに託された。
「よし、ルートαは制圧済み。次は西側の中継拠点へ」
俺は地図を見ながら指示を出す。周囲の5人は、真剣な表情でそれに応じた。
レイナが無言で剣を納め、イリーナが周囲の魔力をスキャン、セリナとファーナが前衛で進み、ミリアが中衛で回復と支援に集中する。
連携は取れていた。昨日の夜、ぎこちなくも共有した時間が、不思議とチームとしての一体感を生み出していた。
けれど、それが破綻するのは、いつだって些細な感情からだった。
「よし……この中継所も制圧完了だな。東弥、次は?」
セリナが振り向いた時、ミリアが手を上げた。
「あの〜……ひと休み、しませんか? みんな、ちょっと疲れてるかもです〜」
そう、正しい提案だった。
ただ、その「休憩時間」で、事件は起きた。
「よし、じゃあひとまず食料補給しつつ、交代で見張り——」
「ねえ、東弥くん」
イリーナが、ふと悪戯めいた笑みで俺を見る。
「ちょっとだけ、ゲームしない? 戦場でも、心の潤いって大事でしょ?」
「……今この状況で、ゲーム?」
「真剣なものじゃないわ。ちょっとした、心理テストみたいなもの。ふふ」
俺は警戒した。イリーナがこうして仕掛けてくる時、たいてい何かが起こる。
「たとえば……この中で、もし1人を選ぶとしたら誰?みたいな質問」
「……は?」
レイナが小さく眉をひそめる。
「東弥が、誰か1人とペアを組むとしたら、誰を選ぶのか……って」
「ふざけるな。任務中に私情を持ち込む気か?」
レイナが即座に突っぱねたが、それでもイリーナは止まらない。
「いいじゃない。選ばれたら嬉しい子もいるかもしれないわよ?」
そう言って、意味ありげにミリアとセリナを見る。
「……え? あ、あたし……べ、別に、選ばれても困るし?」
「う、うぅ……わたしは、東弥さんとペアだったら、嬉しいかなって……」
地雷原に足を踏み入れた瞬間だった。
「そんなの、私が選ばれるに決まってる。能力的にも、信頼度でも」
レイナが冷静に言い放つ。
が、その冷静さが、逆に他の少女たちを刺激した。
「へぇ、信頼度? でも、東弥が一緒にいて落ち着くのは、たぶん私じゃないかしら?」
「ちょっと待って! あたしが一番、東弥のことわかってると思うんだけど!」
「わ、わたしも……わたしなりに、東弥さんのこと、いっぱい考えてて……!」
「そ、それなら……俺が、誰と組みたいかは……!」
気づけば全員の視線が俺に集中していた。
静まり返る作戦拠点の片隅。木々のざわめきの中で、俺の鼓動が妙に大きく響く。
(やばい……これは選んでも地雷、選ばなくても地雷だ……!)
全方向地雷原。
それが、この告白ゲームの正体だった。
「……あのな」
俺はゆっくりと立ち上がった。意を決して言う。
「この中で、誰と組んでも——俺はちゃんと信頼してる」
沈黙が広がった。だが、俺は続ける。
「だから、1人に絞るとかじゃなく、全員と組む前提で作戦は組む。感情で選ぶなら、それは作戦じゃない」
その言葉に、数秒の間があった。
「……つまんない答えね」
イリーナがふっと笑う。
「でも……東弥らしいわ」
「くっ……まぁ、それくらい冷静じゃないと、東弥じゃないか」
セリナが口を尖らせる。
「……貴様、意外と策士か」
レイナも目を細めた。
けれどその時、ぽつりと、ファーナがつぶやいた。
「……あたしは、選ばれたかったな」
その言葉に、全員が一瞬、言葉を失った。
けれど次の瞬間、ミリアが手を上げる。
「じゃあ、今度は順番で、東弥さんに言いたいこと言っていきませんか?」
「えっ、まだやるの!?」
俺の叫びは誰にも届かなかった。
——そして次の瞬間、背後の茂みから敵の気配。
「……全員、配置につけ! ゲームは終わりだ!」
俺の指示で全員が即座に行動に移った。
が、彼女たちの目にはまだ、戦いの火よりも、別の火が燃えていた。
(……好きって、なんでこんなにめんどくさいんだろうな)
心の中で、俺はそうぼやいた。
それでも。
守りたくなるのは、こういう彼女たちだった。