表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/21

告白ゲーム、地雷原

 作戦は順調——のはずだった。


 敵の補給路を断ち、連絡網を混乱させるため、6人での奇襲任務。戦場の裏側で行われるこの隠密作戦は、表の戦力とは違う、小回りの利く部隊——つまり俺たちに託された。


「よし、ルートαは制圧済み。次は西側の中継拠点へ」


 俺は地図を見ながら指示を出す。周囲の5人は、真剣な表情でそれに応じた。


 レイナが無言で剣を納め、イリーナが周囲の魔力をスキャン、セリナとファーナが前衛で進み、ミリアが中衛で回復と支援に集中する。


 連携は取れていた。昨日の夜、ぎこちなくも共有した時間が、不思議とチームとしての一体感を生み出していた。


 けれど、それが破綻するのは、いつだって些細な感情からだった。


「よし……この中継所も制圧完了だな。東弥、次は?」


 セリナが振り向いた時、ミリアが手を上げた。


「あの〜……ひと休み、しませんか? みんな、ちょっと疲れてるかもです〜」


 そう、正しい提案だった。


 ただ、その「休憩時間」で、事件は起きた。


「よし、じゃあひとまず食料補給しつつ、交代で見張り——」


「ねえ、東弥くん」


 イリーナが、ふと悪戯めいた笑みで俺を見る。


「ちょっとだけ、ゲームしない? 戦場でも、心の潤いって大事でしょ?」


「……今この状況で、ゲーム?」


「真剣なものじゃないわ。ちょっとした、心理テストみたいなもの。ふふ」


 俺は警戒した。イリーナがこうして仕掛けてくる時、たいてい何かが起こる。


「たとえば……この中で、もし1人を選ぶとしたら誰?みたいな質問」


「……は?」


 レイナが小さく眉をひそめる。


「東弥が、誰か1人とペアを組むとしたら、誰を選ぶのか……って」


「ふざけるな。任務中に私情を持ち込む気か?」


 レイナが即座に突っぱねたが、それでもイリーナは止まらない。


「いいじゃない。選ばれたら嬉しい子もいるかもしれないわよ?」


 そう言って、意味ありげにミリアとセリナを見る。


「……え? あ、あたし……べ、別に、選ばれても困るし?」


「う、うぅ……わたしは、東弥さんとペアだったら、嬉しいかなって……」


 地雷原に足を踏み入れた瞬間だった。


「そんなの、私が選ばれるに決まってる。能力的にも、信頼度でも」


 レイナが冷静に言い放つ。


 が、その冷静さが、逆に他の少女たちを刺激した。


「へぇ、信頼度? でも、東弥が一緒にいて落ち着くのは、たぶん私じゃないかしら?」


「ちょっと待って! あたしが一番、東弥のことわかってると思うんだけど!」


「わ、わたしも……わたしなりに、東弥さんのこと、いっぱい考えてて……!」


「そ、それなら……俺が、誰と組みたいかは……!」


 気づけば全員の視線が俺に集中していた。


 静まり返る作戦拠点の片隅。木々のざわめきの中で、俺の鼓動が妙に大きく響く。


(やばい……これは選んでも地雷、選ばなくても地雷だ……!)


 全方向地雷原。


 それが、この告白ゲームの正体だった。


「……あのな」


 俺はゆっくりと立ち上がった。意を決して言う。


「この中で、誰と組んでも——俺はちゃんと信頼してる」


 沈黙が広がった。だが、俺は続ける。


「だから、1人に絞るとかじゃなく、全員と組む前提で作戦は組む。感情で選ぶなら、それは作戦じゃない」


 その言葉に、数秒の間があった。


「……つまんない答えね」


 イリーナがふっと笑う。


「でも……東弥らしいわ」


「くっ……まぁ、それくらい冷静じゃないと、東弥じゃないか」


 セリナが口を尖らせる。


「……貴様、意外と策士か」


 レイナも目を細めた。


 けれどその時、ぽつりと、ファーナがつぶやいた。


「……あたしは、選ばれたかったな」


 その言葉に、全員が一瞬、言葉を失った。


 けれど次の瞬間、ミリアが手を上げる。


「じゃあ、今度は順番で、東弥さんに言いたいこと言っていきませんか?」


「えっ、まだやるの!?」


 俺の叫びは誰にも届かなかった。


 ——そして次の瞬間、背後の茂みから敵の気配。


「……全員、配置につけ! ゲームは終わりだ!」


 俺の指示で全員が即座に行動に移った。


 が、彼女たちの目にはまだ、戦いの火よりも、別の火が燃えていた。


(……好きって、なんでこんなにめんどくさいんだろうな)


 心の中で、俺はそうぼやいた。


 それでも。


 守りたくなるのは、こういう彼女たちだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ