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共同作戦、距離が縮まる夜

 俺たちは今、同じ天幕の下にいた。


 夜の前哨基地。月光に照らされた簡易野営地には、5人の少女と1人の男——つまり、ヒロイン全員+俺という、どう考えても緊張感しかないメンバーがそろっていた。


 理由は簡単。明日、初めて「6人での合同作戦」があるからだ。


「……戦力バランスとしては理想だが、性格バランスは壊滅的だな」


 俺のぼやきは風に消えた。


「なに? 今なんか言ったかしら、東弥?」


 イリーナがにこりと笑いながら詰め寄ってくる。


 隣ではレイナが腕を組み、警戒態勢。


「私情を任務に持ち込むつもりはないが、無用な感情の交錯は避けろ。作戦に支障を来す」


「……わかってるわよ、ふふ。理性的なお方」


「誰のこと言ってるのよ、気取った女……」


 セリナが低くうなり、イリーナと視線が交差した瞬間——


「は、はいっ! みんな仲良く! ……できませんかぁ?」


 ミリアが涙目で仲裁を試みるも、火に油だった。


「わ、わたしはただ、明日のために、ちゃんと心をひとつにした方がいいって……」


「……ミリア、それな。あたしも賛成! このメンバー、力はあるけど、空気最悪だし!」


 ファーナが笑いながら場をかきまわし、今度はレイナが静かに立ち上がる。


「作戦会議を開始する。全員座れ」


 その瞬間、空気が変わった。


 さすがは王国騎士団のエリート。軍の訓練で鍛えられた威圧感が、ヒロインズの喧騒を一瞬で黙らせた。


「……さすが、レイナだな」


「当然である」


 少しだけ、胸を張っていたのが、なんか可愛かった。


 会議は順調に進み、俺が作成した作戦案に全員が意見を出す形で形を整えていく。


 予想外だったのは、イリーナとセリナが意外と戦術で共鳴し、珍しく同じ意見を出したことだ。


「ふん、たまには意見が合っただけ。勘違いしないでよね」


「ええ、私が合わせただけ。光栄に思いなさい?」


 ……結局、言い合いにはなるんだけどな。


 夜も更け、作戦も決まり、各自が就寝準備に入る。


 ただし。


「で、寝床、どうするの?」


 ファーナのその一言で、また空気が凍った。


 この天幕、6人が横になるにはギリギリの広さしかない。


 つまり、誰がどこで寝るかが重大問題になる。


「当然、東弥とは一定の距離をとる。誤解を招く配置は避けるべきだ」


 レイナが冷静に言うが、その目はなぜか俺の横を警戒していた。


「はいはい、私の隣に東弥くんが来るのは偶然だよねぇ?」


 イリーナがすでに布団を自分の隣に二枚敷き始めている。


「いや、それ完全に誘導してるじゃん!」


 セリナが突っ込みつつ、無言で俺の腕を引いて自分のほうへ引き寄せる。


「……っ、べ、別にアンタが隣でも、我慢してあげるだけだし!」


「東弥さん……わたし、寒がりなんですぅ。寄り添って寝てもいいですか……?」


「だ、ダメだそれは戦場では不適切……っ」


「いやいや、もう! あたしが真ん中入っていい!? 間取れば平和じゃない!?」


 ファーナの提案はまともだった。が——


「東弥の隣は私だ。以上」


 レイナのひと言が、全てを強引に終わらせた。


 結局、俺の左右にレイナとセリナ、その隣にファーナとイリーナ、足元にミリアという歪な配置で夜を迎えることに。


 布団に横たわると、レイナのぬくもりがすぐ隣にある。

 もう片側ではセリナの寝返りの音がするたびに肘がぶつかる。


(これ、睡眠というより神経戦じゃないか……)


 だが、不思議と悪い気はしなかった。


 ぎくしゃくしながらも、俺たちは、同じ作戦のために集まっている。


 感情も、立場も、何もかも違う6人が、一つの布団の下で同じ明日を見ている。


(……生き残らないといけないな、全員で)


 まぶたを閉じる。その瞬間、誰かの声が、耳元で囁いた。


「……東弥、起きてる?」


 セリナか。もしくはレイナ。どちらともとれる低い声。


「……ん、なんだよ」


「——明日は、守ってあげるから」


 どちらだったか、もう判別はつかなかった。けれど。


 その言葉に、俺の胸は、静かに熱を帯びていった。


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