戦場に咲く正義の剣
朝霧の中、俺たちは最前線の前哨基地にいた。
敵軍との小規模な衝突が続いており、新人部隊の訓練と実戦を兼ねた派遣任務。
俺も「作戦補佐」として帯同しているが、正直、空気が重い。
そんな中——
「おっそーい! もう出発するよ! 準備できてないの、誰ー?」
やけに元気な声が響いた。
「……お前か、騒がしいのは」
「ん? あ、君が噂の異世界人か! ふふっ、思ったより普通っぽいな!」
がしっと肩を掴まれた。見上げると、日焼けしたような健康的な肌と、短く整えられた金髪。
快活そうな少女が、ニカッと笑っていた。
「ファーナ・ゼルヴァ! 前線部隊の魔導剣士だよ! よろしく!」
「藤本東弥……まあ、一応作戦補佐みたいなもんだ」
「へぇ、戦えないのに前線にいるんだ。すごいじゃん!」
悪気がないのはわかるが、言い方がどストレートすぎる。
「別に戦いたくて来てるわけじゃない。できる範囲でやってるだけだ」
「へー。でも、できる範囲って、自分で決めたら限界になっちゃうんだよね。あたしは、やれるまでやる派なんだ!」
眩しい。いや、うるさい。けど——嫌な感じじゃない。
その日の任務は、近くの村に現れた敵偵察部隊の排除。戦力も少なく、普通にやれば消耗戦だ。
「……少し、作戦を変更する」
俺は村の地形を見ながら、遮蔽のある場所を活用し、最小戦力で最大の効果を出すよう隊を再編成した。
だが——
「え、あたし囮なの!?」
ファーナが叫んだ。
「お前の速度と突破力なら、陽動に適任だ。周囲はカバーする」
「いやいや、命かけることに慣れてるけど! こんな目立つ配置、普通嫌がるよ!?」
「……でもやるんだろ?」
「……やるけど!」
なんなんだこいつ。言いながら目が燃えてるし、すでに剣に魔力を纏わせてるし。
作戦は見事に成功した。
ファーナが大胆に突っ込んで敵を引きつけ、俺の予測通りに敵は待ち伏せ地点に誘導された。
そこにセリナとレイナが挟撃。イリーナの補助魔法も効いて、短時間で制圧完了。
そして任務終了後——
「なあ! 東弥!」
焚き火の側で、ファーナが元気よく話しかけてきた。
「今日の作戦、めっちゃ面白かった! こんなに計算された戦い、初めてだった!」
「……そうか」
「最初、君のこと戦わない人って見くびってたけど……すごいな。自分のできることを全力でやってる。かっこよかった」
「……別に、かっこよくなんてない。俺はただ、死なせたくないだけだ」
「それ、すっごくかっこいいんだけど」
そう言って、ファーナは不意に真面目な顔になる。
「東弥。あたしさ、強くなりたくて剣を握ったんだ。平民出身だから、騎士団で生き残るには力だけが頼りで……」
「……」
「でも、今日ちょっとだけわかった。強さって、一人で突っ込むことじゃないんだなって」
言いながら、彼女は拳を握った。
「だから、これからも君の戦い方を、あたしに教えてよ! 一緒に、生き残って戦おう!」
一直線で、真っ直ぐで、眩しすぎるほどの信頼。
俺は目を逸らしながら、わずかにうなずいた。
「……ああ。できるだけ死なせないように努力する」
「うんっ!」
その日、俺の中で何かが確かに変わった。
戦えないからこそ、戦いを知り、守れるものがある。
そして——その隣には、命を燃やして剣を振るう仲間がいる。
(……これが、俺のいる戦場なんだな)