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看護班の天使、でも爆弾

 朝の光が、宿舎の窓をやわらかく照らしていた。

 俺はというと、深夜まで作戦資料を読んでいたせいで寝不足気味だ。


「……ふぁぁ。眠い……」


 そう呟きながらドアを開けた瞬間、目の前に人影が。


「東弥く〜んっ!」


 柔らかい何かが、俺の胸に飛び込んできた。


「っ……!? み、ミリア!?」


「おはようございます〜っ! 今日は特別に、朝ごはん作ってきたんですぅ!」


 笑顔満開で俺の腕にしがみつきながら、包みを差し出してくるミリア・スノウ。


 小柄な体に、ふわふわの金髪。そして大きな青い瞳。


「今日は早番だったのでぇ、東弥くんに元気を出してもらおうと思って〜!」


「お、お前な……こういうのは、ちょっと……」


「えへへ〜。恋人さんっぽくないですかぁ?」


「……いや、だから、それは誤解を生むからやめろ」


 ……というか、確実に誰かに見られてる気がする。


 視線の方向に振り向けば、案の定、柱の陰から誰かがこっちを睨んでいた。


「……なんか朝からうるさいと思ったら、やっぱりアンタかい」


 セリナだ。寝起きのまま、髪がちょっと跳ねている。


「な、なにその距離!? 近すぎでしょ!? 朝からいちゃつくとかバカじゃないの!?」


「い、いちゃついてないし……!」


「あのぅ、セリナさんも食べますか? 多めに作ってきたんですよぅ〜」


「そ、そんなのいらないわよ! アンタだけで十分でしょ!? 東弥には!!」


「セリナ……?」


「べ、別にっ! 怒ってるわけじゃないし!」


 お前の言動の9割は怒ってるように見えるんだが。


====


 訓練場では今日も魔導演習。俺は後方支援としてミリアの補佐につくことになっていた。


「東弥くん、そっちの人、ちょっと火傷してます〜!」


「了解。手当ては?」


「大丈夫です〜、わたしにまかせてくださいね〜♪」


 そう言って、ミリアは手をかざし、淡い光を発する回復魔法を詠唱する。


 途端、兵士の傷がみるみるうちに癒えていく。


「……すごいな。もう一人前じゃないか」


「えへへ、ありがとうございますぅ。東弥くんに褒めてもらえると、がんばれちゃいます〜」


 その笑顔は、まさに癒し。


 兵士たちが「天使……」と口を揃えるのも、うなずける。


 だが、問題はその「無自覚爆弾力」だ。


「ねえねえ東弥くん、はいっ、あーん♡」


「お前……演習中だぞ」


「でも、ちょっとだけ糖分摂ってほしいな〜って思ってぇ……」


 そう言ってクッキーを差し出してくるミリア。


「……それは後で、部屋に戻ったらにしよう」


「じゃあ、お部屋であーんですねっ♪」


「違う、そうじゃない」


 誤解を生む。あらゆる方向に誤解を生むぞこれは。


 そして案の定——


「東弥。少し来い」


 不意に背後から冷たい声が響いた。


 振り返れば、そこにはレイナがいた。


 演習用の鎧姿のまま、じとっとこちらを見ている。


「訓練後の打ち合わせをしようと探していたが、どうやら……邪魔者が多すぎるようだな?」


「いや、違う。これは偶然で——」


「貴様、恋愛禁止令の存在を忘れたとは言わせんぞ?」


「そんなつもりは本当に——」


「ならば、勘違いされるような行動は慎め。特に……ああいった天然型の女子にはな」


 ぴしりと指を差されるミリア。けれど本人は、きょとんとしている。


「わたし、何か変なことしましたぁ?」


「してないようで、しているから問題なのだ……まったく、貴様には監視が必要だな」


「ま、監視って……」


 レイナはミリアを横目に、ふぅっと小さくため息をついた。


「……やはり、私が常に傍にいるべきかもしれんな」


「えっ、何その流れ」


「護衛という名目だ。私情ではない。あくまで、規律のためである。勘違いするな」


 いや、今のは誰がどう聞いても私情だろう……!


====


 夜。資料を読みながら、ベッドに腰掛けていると——


「東弥くん、まだ起きてますかぁ?」


 ノックの音と共に、ミリアの声がした。


「……ああ、起きてる。何か用か?」


「ちょっとだけ……お話、してもいいですかぁ?」


 扉を開けると、パジャマ姿のミリアがいた。ゆるめの上着に、ぺたんとした寝癖。


「えへへ、寝る前にちょっとだけ、東弥くんとおしゃべりしたくてぇ……」


 そう言いながら部屋に入ってくる。いや、これ完全にアウトだろ。


「……この状況、誰かに見られたらどうなるか分かってるか?」


「ん〜、分かんないです〜。でも、東弥くんなら怒らないですよね?」


「……怒らないけど、頭が痛くなる」


「じゃあ、なでなでしてあげますねぇ〜」


「違う、そうじゃない!!」


 ……ミリアは天使だ。


 だけど、その無自覚な爆弾力は、今後とんでもない火種になるに違いない。


 俺の理性が、どこまで持つかは——正直、分からなかった。


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