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最強勇者の再利用


「おい、クソババア。いるんだろ。早く出てこい」


 目を覚ましたフラウは光の渦の中にいた。この場所に来るのも、もう何度目になるだろうか。フラウは大きなため息を吐き、この後に姿を現すであろう彼女に向けて悪態を吐いた。


「あぁ、フラウ。迷える魂よ、目を覚ますのです」


「とっくに起きてんだよ、ババア。御託はいいから、早く次の世界に転生させろ」


「あら、もう起きていたのですか、フラウ。相変わらず元気が良いのですね。あんな過酷な世界から帰ってきたばかりだというのに」


 気が付けばフラウの目の前に白いローブを纏った女が立っていた。まるで初めからそこにいたかのように、その女は忽然と姿を現していた。フラウはその奇妙な登場にも動じず、ただただ目の前に現れた女を睨め付ける。


「お前、また朝日を殺しただろ」


 フラウが低い声で言い放った。その声は無限に広がる光の渦の中で奇妙な響きを持っていた。


「そんな事はしませんよ。あの少女が亡くなったのはそういう運命だったのです。そうでなければフラウ、ただのあなたの力不足です。あなたには運命を変える程の力があるのですから」


 女はきっぱりとした口調で答えた。


「あと、私にスキルを使うのはやめて下さい。その眼も、その声も、ひどく不快です」


 フラウは「わかったよ」とため息混じりに答えた。その声はすっかり正常な響きを取り戻している。

 フラウ自身も理解していた。この女は朝日に危害を加えていない。この女も誰かの命令で動いているのだ。恐らくは神と呼ばれる奴らの。


「この場所では余計な事を考えない方が良いですよ」


 女が優しく微笑んで言った。しかし、フラウは考えるのをやめなかった。この女が心を読める事も何度目かの転生で気付いていた。だからこそ、フラウは常に心の中で唱え続けていた。


『絶対に殺してやる。お前も、その後ろにいる奴らも』


「フラウ、あなたは寂しい人です」


 女は心底憐れむような声で言った。


「勝手に言ってろ。クソババア」


 フラウは嘲笑うように言い返す。そして、そのまま女に歩み寄って静かに口を開いた。


「次の世界でも約束はきっちり守ってやる。だから、早く俺を転生させろ」


「わかりました。すぐに転生の準備を始めましょう。ですが、フラウ。よく覚えていてください。あなたは自分の命をぞんざいに扱い過ぎている。今のままでは、その内にあなたがあなたではなくなりますよ。次の世界ではせめて――」


 そこまで言った時、女の喉元に剣先が向けられた。


「いいから黙って仕事をしろ」


 いつの間にかフラウの手に黒剣が握られていた。その剣先は少しも揺れることなく女の喉元を捉えている。


「わかりました。余計なお世話でしたね。では、転生を始めましょう」


 そう言って女は目を瞑り、囁くような声で何事かを唱え始めた。


 女の声は光の渦の中で幾重にも反響し、次第に耳をつんざくような騒音に変わっていった。フラウはその声の中で目を瞑り、遠い昔の事を思い出していた。

 真っ暗な部屋。夜風に揺れるカーテン。淡い月明かりを映す床板。安らかに眠る少女。

 フラウはその記憶の中に留まっていたい気持ちを抑え、再び目を開けた。


「あなたの心に平穏が訪れる事を祈っています」


 いつの間にか声は止み、フラウの目の前には簡素な木製の扉がぽつんと現れていた。そこらへんの民家の中にありそうな小汚い扉だ。女の姿は見当たらなかった。

 フラウはその扉のドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開いた。


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