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コメディー短編(異世界恋愛)

5歳児たちの婚約破棄 ~クレア視点~

作者: 多田 笑

メインストーリーは、こちら↓

https://ncode.syosetu.com/n2994kj/

「ぼく、クレアとの婚約、破棄する!」


広間に響き渡ったリュシアンの声に、私は持っていたクッキーを粉々に潰しそうになった。


「……はい?」


目の前に立つのは、金色の髪をなびかせた第三王子、リュシアン5歳。


(今までずっと仲良しだったのに…… いきなり、どうしたの? 気でも狂ったの?)


リュシアンは小さな拳を握りしめ、真剣な顔で叫んだ。


「クレア、君はお菓子をポロポロこぼすし、くれるクッキーはいつも食べかけだし、笑うと『ヴォー、ピギー』って鼻が鳴るし、木登りばかりしてリスと戦ってるし……! 全然、お姫さまっぽくない!」


(さっすがリュシアン~ 私のこと、よく分かってるぅ!)


「それに、昨日もらった泥団子、犬のフンだったじゃないか!! ぼくは怒っているんだ!」


(え、本当に? あれ犬フンだったの? 私、素手で触っちゃったんだけど……)


「ぼくはもっと、おしとやかで、『リュシアンさま~』って呼んでくれる、絵本に出てくるようなお姫さまが好きなんだ!」


(だ、ダメだ…… リュシアンの話、頭に入ってこない…… オシッコしたくなってきた……)


「だから、クレアとの婚約は破棄だ!」


(耐えろ……耐えるのよ、クレア……! リュシアンが真剣なんだから……)


「……えっ、泣いてるの?」


(でも……)


「と……」


「え?」


(やっぱりもう無理……)


「トイレ行きたくなっちゃった~~!!」


ダダダッと走り去った私は、数分後、すっきりして戻ってきた。


(ふぅ~ 生き返った~)


「で、リュシアン、何の話だっけ? 私がクマを素手で倒した話?」


「いや、そんな話してないよ!! ……ていうか、クレア、クマを素手で倒したの!?」


リュシアンの顔が青ざめ、足がプルプル震え出した。


(あれ? リュシアン、知らないんだっけ? 私が『クマ殺しのクレア』って呼ばれてること…… 昨日もクマに襲われてたアリたち助けたのに……)


仕方ないので、私は嘘をつくことにした。


「あ、間違えた。アリだよ、アリ!」


「アリ!? ……あ、そ、そうだよね、アリだよね……」


リュシアンはホッとした顔になった。


(うん、誤魔化せた。よしよし)


「とにかく、クレアとの婚約は破棄だ!」


(そっかぁ~。でも、これでクッキーを独り占めできるし、まぁいっか)


「じゃあ、婚約破棄ってことで! ありがと! これで1人でクッキー食べ放題だわ~」


私はぺこりとお辞儀して、スタスタと広間を後にした。クマから助けたアリの大群を引き連れながら……。


---


それから数日後。


「なんか、つまんないな~」


私は木陰でクッキーをかじりながら、ポツリと呟いた。


リュシアンのもとに行かなくなってから、クマと戦うばかりの日々。

木登りに付き合ってくれる子もいないし、食べかけのクッキーを食べてくれる人もいなかった。


「はぁ~ つまんない~」


そのとき、1匹のリスが私のクッキーをひったくっていった。


(あっ、アイツは……! この間倒したクマ四天王『ア・クマ』の仲間!!)


私は魔法の杖(木の枝)を握りしめ、リスを追いかけた。


町の大通りも、路地裏も、ジャングルも、砂漠地帯も……


全力で追いかけて、とうとう木の上に追い詰めた、そのとき。


「クレア!」


リュシアンの声が飛んできた。


(え、なんでリュシアン!?)


どうやら、いつの間にか王城の中に迷い込んでいたらしい。


「……あっ、見つかった」


「うん。ぜんぶ見てた。木に向かって叫んでたのも」


「ち、違うのよ! これは……その……伝説の聖剣エクスカリバーを探してたの!」


(く、苦しい…… エクスカリバーはクマ四天王倒さないと手に入らないのに……)


「うそだ!」


「うそよ! だからなに!?」


私は堂々と言い放った。


リュシアンは困った顔で、でもまっすぐ私を見て言った。


「クレア……やっぱりぼく、婚約破棄やめる」


「……は?」


「婚約破棄、取り消し!」


「えっ、なんで!?」


「クレアがいないと、つまんない。お姫さまたち、リスと戦ってくれないし、笑ったとき鼻が鳴るのも……かわいいと思うようになった」


(……え、やだ、そんなこと言われたら……顔が熱いんだけど!)


「へ、へんなの!」


「ぼくと、また婚約してくれる?」


リュシアンは、小さな手をそっと差し出した。


私は、その手を思いっきり握り返した。


「うん、いいよ! でも、また婚約破棄したら、次はリュシアンのクッキー全部、犬のフンになるからね!」


「え、それだけはやめて……!」


「アリみたいにプチっと潰すからね!」


「それも絶対やめてください……!」


リュシアンはまた震えていたけど、私たちは一緒に笑った。


---


それから数年後。


リュシアンとは、今でも仲良し!

いや、もっと仲良しになった。


王宮では「最強のバカップル」と呼ばれてるけど、そんなこと、私たちには関係ない。


だって、リュシアンは私の「最強の相棒」なんだもん!


ちなみに、クマ四天王を撃破して、伝説の聖剣エクスカリバーも手に入れました。


イエ~イ!

最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
おお、クレア視点! ところでシリーズ設定の話。 いまのところ、五歳児ものに手ごたえを感じているようなので、シリーズも五歳児シリーズにした方が、シリーズ内循環ももう少し狙えそう、とか思ったり、思わなか…
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