5歳児たちの婚約破棄 ~クレア視点~
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「ぼく、クレアとの婚約、破棄する!」
広間に響き渡ったリュシアンの声に、私は持っていたクッキーを粉々に潰しそうになった。
「……はい?」
目の前に立つのは、金色の髪をなびかせた第三王子、リュシアン5歳。
(今までずっと仲良しだったのに…… いきなり、どうしたの? 気でも狂ったの?)
リュシアンは小さな拳を握りしめ、真剣な顔で叫んだ。
「クレア、君はお菓子をポロポロこぼすし、くれるクッキーはいつも食べかけだし、笑うと『ヴォー、ピギー』って鼻が鳴るし、木登りばかりしてリスと戦ってるし……! 全然、お姫さまっぽくない!」
(さっすがリュシアン~ 私のこと、よく分かってるぅ!)
「それに、昨日もらった泥団子、犬のフンだったじゃないか!! ぼくは怒っているんだ!」
(え、本当に? あれ犬フンだったの? 私、素手で触っちゃったんだけど……)
「ぼくはもっと、おしとやかで、『リュシアンさま~』って呼んでくれる、絵本に出てくるようなお姫さまが好きなんだ!」
(だ、ダメだ…… リュシアンの話、頭に入ってこない…… オシッコしたくなってきた……)
「だから、クレアとの婚約は破棄だ!」
(耐えろ……耐えるのよ、クレア……! リュシアンが真剣なんだから……)
「……えっ、泣いてるの?」
(でも……)
「と……」
「え?」
(やっぱりもう無理……)
「トイレ行きたくなっちゃった~~!!」
ダダダッと走り去った私は、数分後、すっきりして戻ってきた。
(ふぅ~ 生き返った~)
「で、リュシアン、何の話だっけ? 私がクマを素手で倒した話?」
「いや、そんな話してないよ!! ……ていうか、クレア、クマを素手で倒したの!?」
リュシアンの顔が青ざめ、足がプルプル震え出した。
(あれ? リュシアン、知らないんだっけ? 私が『クマ殺しのクレア』って呼ばれてること…… 昨日もクマに襲われてたアリたち助けたのに……)
仕方ないので、私は嘘をつくことにした。
「あ、間違えた。アリだよ、アリ!」
「アリ!? ……あ、そ、そうだよね、アリだよね……」
リュシアンはホッとした顔になった。
(うん、誤魔化せた。よしよし)
「とにかく、クレアとの婚約は破棄だ!」
(そっかぁ~。でも、これでクッキーを独り占めできるし、まぁいっか)
「じゃあ、婚約破棄ってことで! ありがと! これで1人でクッキー食べ放題だわ~」
私はぺこりとお辞儀して、スタスタと広間を後にした。クマから助けたアリの大群を引き連れながら……。
---
それから数日後。
「なんか、つまんないな~」
私は木陰でクッキーをかじりながら、ポツリと呟いた。
リュシアンのもとに行かなくなってから、クマと戦うばかりの日々。
木登りに付き合ってくれる子もいないし、食べかけのクッキーを食べてくれる人もいなかった。
「はぁ~ つまんない~」
そのとき、1匹のリスが私のクッキーをひったくっていった。
(あっ、アイツは……! この間倒したクマ四天王『ア・クマ』の仲間!!)
私は魔法の杖(木の枝)を握りしめ、リスを追いかけた。
町の大通りも、路地裏も、ジャングルも、砂漠地帯も……
全力で追いかけて、とうとう木の上に追い詰めた、そのとき。
「クレア!」
リュシアンの声が飛んできた。
(え、なんでリュシアン!?)
どうやら、いつの間にか王城の中に迷い込んでいたらしい。
「……あっ、見つかった」
「うん。ぜんぶ見てた。木に向かって叫んでたのも」
「ち、違うのよ! これは……その……伝説の聖剣エクスカリバーを探してたの!」
(く、苦しい…… エクスカリバーはクマ四天王倒さないと手に入らないのに……)
「うそだ!」
「うそよ! だからなに!?」
私は堂々と言い放った。
リュシアンは困った顔で、でもまっすぐ私を見て言った。
「クレア……やっぱりぼく、婚約破棄やめる」
「……は?」
「婚約破棄、取り消し!」
「えっ、なんで!?」
「クレアがいないと、つまんない。お姫さまたち、リスと戦ってくれないし、笑ったとき鼻が鳴るのも……かわいいと思うようになった」
(……え、やだ、そんなこと言われたら……顔が熱いんだけど!)
「へ、へんなの!」
「ぼくと、また婚約してくれる?」
リュシアンは、小さな手をそっと差し出した。
私は、その手を思いっきり握り返した。
「うん、いいよ! でも、また婚約破棄したら、次はリュシアンのクッキー全部、犬のフンになるからね!」
「え、それだけはやめて……!」
「アリみたいにプチっと潰すからね!」
「それも絶対やめてください……!」
リュシアンはまた震えていたけど、私たちは一緒に笑った。
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それから数年後。
リュシアンとは、今でも仲良し!
いや、もっと仲良しになった。
王宮では「最強のバカップル」と呼ばれてるけど、そんなこと、私たちには関係ない。
だって、リュシアンは私の「最強の相棒」なんだもん!
ちなみに、クマ四天王を撃破して、伝説の聖剣エクスカリバーも手に入れました。
イエ~イ!
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