波乱はオワラナイ
『そっかそっか、お疲れ様』
電話先の尚輝のその声に何故だかほっとする。
比等学園に通う尚輝は、今回ホストクラブの方にヘルプで入ってくれた。いろいろ話しているうちに、いつの間にか頼れる人だなと思うようになっていた。
「本当、いろいろあって……」
『ふふ、まぁ売られちゃう所だったんだもんね』
事が事なだけに、あまり多くの人には事情を話していないのだが、この人なら大丈夫と確信した。
『綺麗だと大変だね』
「いやいやそれなら尚輝先輩もでしょ」
『え、何で』
そしてこの方、半端無く美人なんだけど全く自覚していない。困る事も多々ある、と苦笑いしながら語っていた比等の保健室の天使の気持ちがようやく分かってきた憂麻である。
「何でって。……まぁ良いですけど」
『?』
心底不思議ですオーラをびんびん感じるが、この際無視だ。
とにかく疲れがたまってるみたいだからさっさと寝るようにしろよ、と理事長に口うるさく言われている事もあり、尚輝とは軽く話しをして電話を切った。
琉峡はダブルベッドで小さな寝息をたてながら気持ち良さそうに眠っている。その横に腰掛けて頬をすっと撫でると、少しだけ微笑んだ様な気がした。
心臓がばくばくうるさい。嫌だけれどそれでも、私が何とかしなければ。
侯爵の事とか面倒事が沢山あるからと、片付ける為に一旦帰国した。けれど、いざ侯爵を前にすると……
「ウィル、ルルィは何処かな、ん?」
「日本です」
「へええ?どうして」
侯爵怖い、侯爵怖いです!!
始終背景に黒い何かを蔓延らせながら、笑顔を絶やさないおっかない彼へ必死に冷静なふりをして事を伝えた。
ルルィは人身売買を専門とする組織の一員に惚れてしまった事。
相手が相手な為に誘拐計画で駆け落ちもどきをしようとした事。
「……そう。それでウィル、君はどう思うの?」
「賛成です。ルルィは彼を本気で好きなのだと、よく分かりました。そんな彼らを離ればなれにさせるなんて事、私には出来ません」
本当はすっごく怖い。心臓が痛い。逃げ出したい。けど、比等さんの事もある。
侯爵のおっかない視線に必死に耐えながら次々と言葉を紡ぎ出していると。
「――そう。ウィルがそこまで言うなら、仕方無いかな」
認めてくれた。
ルルィと、ハヤキの事を。
「ありがとうございます。……それと私も……日本へ行きます」
「っ……どうして?」
ちょっと寂しそうな目をしているけれど、私は……比等さんが大好き。
「好きな人が出来ました。とてもとても、大切な――っ、?」
人です、と続けようとしたら、ぎゅうと抱きしめられる。ふわり、と上品な彼の香りが漂って来て、胸が締め付けられるような。
「お前まで、いなくなるの。……私を、置いていくのか」
自分より少し低い位置にある彼の瞳には、不安がゆらりゆらりとしとしているのがよく分かった。
「私は……」
「侯爵。また、遊びに来ます。だから悲しまないで。私達以外にもいるじゃないですか。……あなたの身の回りの世話をずっとし続けていたフェンやレリィ……」
彼らなら、侯爵では無くあなた自身を見てくれるはず。私達よりも、もっと大事にしてくれる。
「ここまで私達を育ててくれた事、感謝します。あなたのおかげで、大事な人を見つける事が出来たし何より……生きている事が出来た。……ありがとうございます」
◇◇◇◇◇◇
比成祭はとにかくドタバタしたけれど、無事に終了させる事が出来た。憂麻、至軟、麻矢、それから琉峡、領可、類香。あいつらには迷惑をかけまくった、いやマジで。
憂麻のじゃあ一週間お休み頂戴、なんて普段なら許可出来ない要望も快く応えさせてはもらった位にな。
今は絶賛お休み期間中。どっか旅行行ってくるとか言ってたな。
比等とウィルは……絶賛ラブラブ中。理事代理を立ててその間に存分に愛を育むらしい。
オレはというとな?
仕事に追われてるよ!!疲れたよもう。
ちくしょー、オレばっか。
嘆きつつ書類に目を通しているその時、携帯が鳴った。
……メールだ。
何だ何だ?
――――は?
それは琉峡からのもの。
内容は
『類と領が事故に!類は集中治療室。領はまだ軽いんだけど目が覚めない!!』
まだまだ、波乱の予感。
かなり強引な気はしますが、文化祭編これにて終了です。次は裏オークション編。おおまかな内容は決めていますが、細かな事はこれから決めていきます。
現在既に執筆開始しているので、宜しければこれからもお付き合い下さいませ^^;)