覚悟☆
ブー、ブー、ブー、ブー。
次の日の朝、憂麻は携帯のバイブ音で目を覚ました。
眠たさに目をこすりながらスカイブルーの携帯をスライドさせると、そこには比等さんからのメール。
――朝っぱらから何だろう…。
from 比等さん
sb 送っておくね
おはよう。昨日話し合いは出来たかな?
ってまぁ、出来てないんだろうなと思ってこのメールを送ったんだけどさ。
ウィルから聞いたんだけど、結構凄い内容だよ。嫌だと思ったら、今すぐこのメールを消して、君たちは文化祭に専念する事。覚悟が出来ているなら、ここから先の本文を読んでね。
要件はざっとまとめるとこんな感じ。
1、ウィルの妹のルルィちゃんを誘拐した奴らの本職は人身売買。
2、その際の標的は未成年の綺麗な男子。
さぁ、ここまで来れば分かるよね?君たちに奴らをおびき出す囮になって欲しい。
強制はしないけど、ここまで読んだなら協力してくれるよね?やっぱり一晩一緒にいただけあって、ウィルに情がわいちゃったんだよね、オレ。みんな、宜しくね?
―end―
何て言うか……
比等さん、流石だな……そんな事まで見抜いてたなんて。
でも確かに内容は過激だ。過激過ぎる。だから正直、琉峡は巻き込みたくない。
ぽすっと枕に頭をうずめながら琉峡の寝顔を見る。
巻き込みたくない。こいつだけは。
ブー、ブー、ブー、ブー。
再び携帯のバイブ音。
また、比等さんから。
『二回もごめんね。でもこれは憂麻個人にあてたものだから、許してね。琉峡と仲が良いのは誰って聞いたら、憂麻だって麗奈ちゃんが言ってたから。
忠告しておくよ。琉峡を行かせるのはやめた方が良い。琉峡は空手の全国大会行った時、テレビ映ったでしょ?あれ以来奴らは琉峡に目を付けたみたい。だから危険だと思うんだよね。一番有効な囮になってくれそうだけど危険過ぎる。憂麻からもよく言っておいてくれない?』
信じらんない……琉峡が。
頭が真っ白になる。もしもこれが本当なら、危険だ。やっと自分の気持ちが分かって、琉峡もオレの気持ちを受け止めてくれたのに。
人身売買が本職の奴らに目を付けられていた……?
「ゆーま?おはよ」
どうやら気が動転している内に目が覚めたらしい。おはようと返すとにこりと微笑みをくれる。
その微笑みを見ているとやりきれなくなってきて……。
――何でこいつなんだよ。
何で……。何で、オレの大切な人を奪おうとするの……。
「頼む……行かないで」
「だめだよ。オレは行く」
「……え?」
これまた動転している内に自分の携帯に来ていた比等さんからのメールを読んでしまったらしい。
「いやー、実は最近オレストーカーされてて。一人じゃ不安だから行く」
マジかよ。もうそんな事されてたのか。
「これ、読んで」
「?うん」
琉峡に比等さんから来ていたメールを読ませる。と、だんだん表情が険しくなっていった。
「そのストーカー、奴らかもしれない。珍しく外人さんだったから……」
琉峡がストーカーされるのは珍しくないが、外人と来たら……やっぱりそうかもしれない。
「オレは行く」
「っ……」
「自分ばっかり安全じゃ嫌だもん、ね?」
にこりと微笑みをもう一度くれるけれど、その微笑みには覚悟が見え隠れしていて、オレがどうこう言える事じゃないと理解した。