最後の大仕事☆
麻矢がはぁあ、と頭を抱えて盛大に溜め息をついている後ろで――
「え、麗奈ちゃんそれって……やっぱガチ?」
至軟は珍しく真面目腐った顔で麗奈を問い直し。
「え、うおぉまじか!?今朝のニュースとかでもやってた、あの新聞の三面の記事とかに載ってそうな事やらかした人かっ!!」
こういう関係はとことん楽しむ傾向にある領可は相変わらずで。
類香は、壁にもたれてすっかり呆れ返った顔でいる麻矢の気を何とか留め様と
「だ、大丈夫だよっ、よくある事だって」
……かなり混乱している。
こんな事がよくあったら日本の未来は絶望的だ。
憂麻は麗奈の肩をがたがた揺らしながら目をつり上げてそういう事は早く言えを連呼し、琉峡は白くなって固まっていた。
「あはは参っちゃうわねぇ、ばれちゃったわぁ~」
「参っちゃうわねぇ、じゃねぇよっ!!」
亜美と甘音は何やらひそひそと話し込んでいるし。
二人の会話を聞いていると、どうやら今回の件については知っていたようで。
それでもこの二人は呑気なものだった。
「でもさ、あの殺人犯、なかなかに美形だよね」
「あっは、分かる分かる。まつげとか長くてさ。ホント殺人なんて勿体ない事したよね~」
「うんうん。何かアレだよ。綺麗な狂人って事でいろんな人が魅了されちゃって、ファンサイトできちゃったって」
「うぅえっへ、知ってるソレ。でもサイトが立ち上がる度に消されて、また立ち上がってって感じだから、なかなか辿り着けないとかなんとか」
どうやら情報通なのはこの学園内に限らないらしい。おっかない奴等だ。
そしてよくもそんなに冷静でいられるものだ。
相手はいくら綺麗でも冷酷な殺人犯。そいつから脅されてるってのに……。
まぁ、かなりの美形ではあったけどさ。
でも領の方が百倍綺麗で可愛くて可愛くてさらに可愛いぞ。
少し興奮気味になっている領可の顔をちらりと見やると視線が合って、ふわり、といつもの笑顔を向けてくれた。それが無性に嬉しくて――。
思わず耐えられなくなった至軟は領可の腕を引っ張って、思わず広い部屋の隅――皆の視界の届かない所――に連れ出していた。
「――と、いう事なのよ」
はぁ…とため息を零しながら、姉貴はこうなってしまった経緯を一通り話してくれた。
比等学園の衣装担当の二人も合流し、ゲーセンのプリ機を片っ端から制覇していたその時、事は起きた。一人のとにかく綺麗な――特に長髪の黒髪のツヤがはんぱ無い――二十代前半辺りの男性が近寄ってきて
『貴方達の学園は――毎年素敵な文化祭をしていますが。私がさらに素敵なものにして差し上げよう。二日目の正午……ぜひ胸躍らせて待っていて下さいね』
そう言って、麗奈に脅迫状――本人曰く、脅迫状では無く狂迫状――を持たせられたらしい。
「そっれが、ホントーーーーーにっ、綺麗な方だったのよ!!!!それで魅了されちゃってどうしようも無くてねっっ!!!!!!」
こんな事を言うのもアレだけれど、姉貴の周りにいる男女共々綺麗なのばかりで、そういうのには並ならぬ免疫があるはずだ。それは姉貴だけじゃ無くて、会長にも亜美にも甘音にも言える事。(比等の二人も常識外れに可愛いらしい。て事はこの二人にも多少なりとも免疫があるはずだ)
そんな人外なメンバーがそろっていたにも関わらず、誰一人としてその殺人鬼に反応出来なかった。
て、事は。
オレ達誰もが会った事が無い程の美貌の持ち主だという事だ。
第一派手にやらかしてるくせに未だに捕まらないのは、その並ならぬ美貌のせいらしいし。
「でも、次は大丈夫よ。免疫出来たもの」
どうだか。
相手は見た目も中身も人外なのだ。今後どうなってくるかなんて分かったものじゃない。
「あら嫌だ。憂麻あなたおねいちゃまを疑うのかしら」
「………」
ケンカなんだか争いなんだか判らない会話をする隣で優雅に花凛が脚を組み――麻矢と比でない程大きなため息をついて小さく呟いた。
「だが……非があるのは麗奈だけでは無い。私にだって非はある。…………もっと、しっかりしないといけないな」
髪をふわっとかきあげて、もう一度ため息をつく。
顔を覗きこむと本当に複雑そうな表情。
やっぱ、会長にとっての最後の文化祭であり、最後の大仕事だ。
成功させようと今まで努力を惜しまずしてきたのは学園中の誰もが知る事実。
そんな文化祭に今話題になっている殺人鬼からの脅迫状。皆会長の為に成功させよう、と口を揃えて言う、よりによって今年のこのイベントに。この事実に一番ショックを受けているのは間違いなく花凛だろう。
「だけどっ、情けない事に……私はどうしたら良いか分からないんだ!!」
歯をぐぐっとかみ締めて。頭を抱え込みながら、泣きそうな表情で、それでも泣かずに。
そして顔を力強く持ち上げて
「皆、この文化祭の成功の為に……力を貸して欲しい」
そう、言ったのだ。