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超短編小説『千夜千字物語』

『千夜千字物語』その32~偶然

作者: 天海樹

マイコが大学の帰りに友達とカフェでお茶をしていると、

どこかで見たことのある人が店に入ってきた。

初めは思い出せなかったのだが、

後から数名の外国人が合流したところである人を思い出した。

ただこんなところにいるはずもなく、

他人の空似だろうとまた友達との話に興じた。


家に帰ると玄関に見知らぬ靴があった。

リビングに入ると、

そこにいたのはカフェで見た男性だった。

マイコが驚いていて母親にカフェでの出来事を話すと、

母親は少し安心したようにその男性を紹介した。

「友達の息子さんで、カノアキラさん」

大学との共同研究のために

バンクーバーから来たことを付け加えると、

マイコはまた驚いてその場に座り込んでしまった。

今度はどうしたのか訊くと、

2年前にバンクーバーに行った時に

観光案内をしてくれた人だと話すと、

「あの時の?」

今度はアキラが聞き返した。

驚きの連続になぜかみんなで笑い合った。


二人きりになると母親が

「話があるの」

と些か神妙な面持ちで話し始めた。

彼の母親は親友であり、

向こうで結婚をして離婚して、

そして20年前に病気で亡くなったと。

まだ幼かった彼は素敵な方に養子に貰われたけれど、

彼のことが気になり内緒でずっと連絡をとっていたことも明かした。

今回は日本に来るにあたって

母親の話を聞かせて欲しいというので招待したのだと。

「日本にいる1週間泊まってもらうから」

母親はそう言ってお風呂に行った。


一人になったリビングでぼーっと考えていた。

3度目の偶然、母親との深い繋がり。

ほんの少し運命を感じ、

ほんの少しアキラのことを意識するようになった。


マイコは向こうでの恩返しのこともあり、

暇があればアキラの道案内を買って出た。

アキラの母親が育った街、学校、実家があった場所。

昨日見せた昔のアルバムにあった母親の写真と

今見ている風景と重ね合わせているのか、

時々感慨深げにその場に佇んでいたりした。

そして

「母が育ったこの国や人々と触れ合うことで、母を感じていたかった」

と、向こうで日本人相手に

ボランティアで観光案内をやっている理由を教えてくれた。


そんなアキラとの日常はあっという間だった。

成田空港まで見送りに行くと

今度いつ会えるかわからない不安が、

思いを伝えたい気持ちに拍車をかけた。

その時、

「マイコ、好きだ。また絶対に会いに来る」

アキラが先に言った。

自分と同じ気持ちであったことがうれしくて、

マイコはアキラに抱きついた。

自然と涙が出た。

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