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18.ソフィア先生、諦めきれない

「どうして!どうしてなのよ!」


 ソフィア先生は床に膝をつき、力いっぱい叩きつけていた。その様子から、悔しさがひしひしと伝わってきた。


「自分の処女を大事にすることの、どこが悪いっていうの!」

「ソフィア先生、御身、どうかご自愛くだされ……拙者も、同じく……その……」


 オフィーリアさんの慰めは、まったく効果がなかった。


「あなたはもう眷属だから、そんな余裕のあること言えるのよ!」


 ソフィア先生にそう言われ、レベッカさんはそっとソフィア先生の肩に手を置いた。慰めるのかと思いきや、「私も眷属になったよ、イエーイ!」と、勝利のポーズを取った。


 ソフィア先生はあまりの衝撃に目を見開き、今にも吐血しそうな勢いだった。ヴェローニカさんの目も、うるんでいた。


 仕方なく、僕が口を開いた。


「僕の眷属になることなんて、大したことじゃありませんよね?」

「「違うってば!」」


 二人は驚くほど息を合わせて叫んだ。


「見てなさい、私だって絶対に眷属になってみせるんだから!」


 ソフィア先生の研究精神には、本当に頭が下がる。自らを実験台にしてまで挑むとは。


「さあ、どれだけ利息を積めば眷属になれるか試してみましょう!」


 それからソフィア先生は、僕の周囲の人たちから借りては返しを繰り返し、10回以上の利息を積み重ねた。


「私、ソフィアは、ザカリー様の眷属となるため、すべての利息を捧げます!」


 天井を仰ぎ、両手を高く掲げて宣言するソフィア先生。


 …………

 ……


 だが、何も起こらなかった。


「どうしてなのよ!」


 再び床を叩きつける。


「さて、状態欄には何か異変の記載はあったか?」


 オフィーリアさんが提案してくれた。僕は確認し、首を振った。


「やっぱり『価値が不均等です』って書いてあります。」

「眷属になるのに、どんだけ価値あるのよ!」

「されど、何ゆえネリー殿は許されるのか? 眷属たるを疎かに致せば、このように軽んぜられることにもなろうぞ。」

「確かに……」


 再度状態欄を確認すると、今度は説明文が出ていた。


 ちょっと気になったけれど、後にわかったことだが、勇者たちにはこういう機能はないらしい。僕だけが鑑定スキルを持っていたため、自分の状態を見られるのだそうだ。


 説明によると、ネリーさんの処女は僕に捧げる予定であり、さらに一度デートしたことで、既に僕の恋人扱いになっていたらしい。僕から求めなくても、恋人が眷属になりたいと願う場合、一般の独立した人間が眷属を望むよりも、はるかに受け入れやすいという。


 しかも、ネリーさんが眷属になることによって、僕に処女を捧げやすくなるとか……。


「だったら、デートしよう!今すぐに!」


 案の定、ソフィア先生は地面から跳ね起き、僕を指差して叫んだ。


「ダメ!」ヴェローニカさんも飛び出してきて、僕の手をがっちり掴んだ。「マスターは私たちとデートするんだから、私たちとだよ!」

「先週、あなたたちデートしたじゃない!今週は私の番でしょ!」

「ダメだって!私も早くマスターの眷属にならなきゃ!」

「口をとがらせて泣き真似したって、譲るもんですか!眷属の座は絶対に私のものよ!」


 二人の子供っぽいやり取りに、僕は思わず苦笑してしまった。オフィーリアさんも頭を抱えている。レベッカさんだけが、まるで他人事のように口元を押さえて笑っていた。


「されど、ヴェローニカ殿は既にマスター殿と逢瀬を重ねられたゆえ、女房殿と言うても差し支えなきや?」

「そうよ!」


 オフィーリアさんが鋭い指摘をした。


 そこからまた実験が始まった。


 同じように10回以上利息を重ねたが、やはりヴェローニカさんは僕の眷属になれなかった。彼女は最初こそ元気だったが、最後には完全に燃え尽きてしまった。もしこの部屋に風が吹いていたら、彼女が風に舞って消えてしまいそうなほどだった。


 泣きたくても泣けない顔をしたヴェローニカさんを見て、僕は胸がちくりと痛んだ。どうしても、僕が悪者になったような気がしてならなかった。



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