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16.決闘

 ソフィア先生の部屋で授業開始ぎりぎりまで過ごした僕たちは、ようやく教室へ戻ることにした。三分の一ほどしか片付いていない部屋を見て、少し落胆しながら、放課後にまた整理を続けようと考えていた。


 だが、それは叶わなかった。教室の前にたどり着く前から、誰かが口論している声が聞こえてきたのだ。


「たかが武僧風情が、無敵だとでも思ってんのかよ!」

「はぁ!?なんだと!」

「俺が女を殴らねぇとでも思って好き勝手ほざいてんじゃねぇぞ!」

「ハッ、あんたに勝てるわけねぇだろ!」

「なんだと!?」

「あんたも、あのクソ野郎も、女のケツばっか追いかけてるだけじゃねぇか!こっちはとっくにウザくて仕方ねぇんだよ!」


 教室へ飛び込むと、以前僕を嘲笑していたミニスカートの女子生徒が、デニスの襟首をつかんでいた。彼女の赤い瞳は、獣のような鋭い光を放っていた。


 そして、二人は決闘を申し込んだ。放課後、闘技場で対決することになった。


 闘技場は独立した校舎内にあり、かなり広い。実戦訓練や、学校対抗の大会などが行われる場所だ。校舎全体に防御魔法が施されているだけでなく、それぞれの戦闘エリアにも対応した防護魔法がかかっている。例えば、魔法戦エリアには魔法防護、物理戦エリアには物理防護が適用される。


 そして、今回の決闘が行われるのは、魔法と物理の両方が許可された総合決闘エリア。当然ながら総合防護が施されている。


 使用できるのは殺傷力のない模造武器のみ。しかし、スキルの使用は許可されており、決闘は片方が降参するか、教師が続行不可能と判断するまで終わらない。そのため、破壊や負傷は珍しくない。これまで死者は出ていないが、重傷者が出ることは時折ある。


 それでも、学校側は決闘を禁止していない。むしろ、ある程度は奨励されているようにも思える。


 冒険者にとって、迷宮ではどんな状況が起こるかわからない。対応できない者は、命を落とすだけでなく、仲間や、場合によっては街全体にまで被害を及ぼす可能性がある。命さえ失わなければ、治療すれば済む話だ。


 というわけで、ごめんね、表姉。今日は決闘を見に行くことになったよ。部屋の片付けは、また明日。


 闘技場へ向かうと、すでに多くの生徒が観戦に集まっていた。僕たちも席を確保する。遅れてきたヴェローニカは、まるで矢のようにレベッカの胸に飛び込み、思いきり甘えていた。


 試合場では、デニスが模造の拳甲を装備し、手首を回しながら軽く跳びはねてウォーミングアップをしていた。一方の対戦相手は、両腕を胸の前で組み、目の前に大剣を立てている。


「ザカリー殿、いかが思われる?どちらが勝つであろうか?」

「わからない。」

「おぉ~~~~~、マスターって、彼女のことめっちゃ高く評価してるんだね。」


 デニスは勇者の仲間であり、彼に認められるほどの実力者だ。さらに、実戦関連の授業の成績も優秀だった。そんな彼に賭けない僕の態度が、レベッカには意外だったようだ。だが、僕には明確な理由がある。


「彼女の戦いを見たことがないから、判断できない。」

「さすがマスター!」


 僕はただ事実を述べただけなのに、レベッカとオフィーリアはなぜか満足そうな表情になった。


「彼女はサクティ。天職はバーサーカー。この職業はあまり人気がなく、見たことがある人も少ない。先生たちも特別に気を配っているようだし、ただ者ではなさそうね。」


 サクティは、迷宮実習でも二人の友人としか組まない。おそらく、天職の特性上の問題だろう。教師たちもそれを容認しているため、彼女がほかの生徒の前で戦うのは、今回が初めてだった。


「バーサーカーってどんな天職なの?」ヴェローニカが聞くと、レベッカが答えた。

「バーサークする天職だよ。」

「バーサークって何?」


 レベッカが答える前に、試合が始まった。


「あああああああああああーーーーー!!」


 デニスが叫び、小腿に力を込めた。スキル【縮地】を発動し、一瞬でサクティの目の前に迫る。サクティは自信に満ちた笑みを浮かべ、デニスも全力の拳を放った。


『ガンッ!』


 大剣で受け止めたものの、衝撃はサクティの身体に伝わり、数歩後退するほどだった。


 デニスは彼女に態勢を整えさせるつもりはなかった。すぐに次の攻撃を仕掛ける。高速の拳撃が繰り出され、その一発一発が重い。サクティは大剣を使ってかろうじて防いでいたが、デニスの蹴りが彼女の左腕を捉え、サクティは防護結界まで吹き飛ばされた。


 デニスが追撃しようとした瞬間、突如として急停止した。反射的に両手を構えたが、すでに遅かった。


 サクティの大剣がデニスの肩に振り下ろされ、一撃で彼の腕がちぎれるかと思うほどの衝撃を与えた。


 そこから、サクティの猛攻が始まった。まるで大剣に重量がないかのように振り回し、連続で打ち込む。デニスは防戦一方となり、必死に回避しながら反撃の機会を窺っていた。


 そんな中、周囲の生徒たちはサクティを応援し始めた。普段から態度の大きいデニスが苦しむ姿は、見ていて痛快だったのだろう。


 しかし、僕が気になったのは、サクティの友人二人の表情だった。彼女たちは不安げな顔をしていたのだ。


「……あれが【狂暴化】か。」


 デニスはサクティの強撃に合わせ、スキル【反撃】を発動。お互いの攻撃が交錯し、サクティは血を吐きながらも大剣を振り下ろし、デニスを場外まで吹き飛ばした。


 デニスは立ち上がろうとしたが、膝をついた。


 そして、サクティも白目をむいて倒れた。


 教師が二人の状態を確認し、試合の結果を告げた。


「両者戦闘不能、引き分け!」


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