15.デレル先生
15.デレル先生
「ザカリー!!!!!!」
飛び込んできたのはデニスだった。彼はネリーと僕が一緒にいるのを見るや否や、すぐに突進して拳を振り上げたが、それをオフィーリアが阻止した。オフィーリアだと気づいたデニスは一瞬驚いた様子を見せたが、次には恋するような表情に変わった。
「俺が君を助け出してみせる!」
オフィーリアが反論しようとしたが、デニスの視線は再び僕とネリーへと向かった。
「ネリーを放せ! オフィーリアだけじゃない、俺の妹にまで手を出すつもりか!」
そして今度はネリーに向かって怒鳴った。
「だからあのビリ君には気をつけろって言ったのに! なんで言うことを聞かないんだ!」
ネリーは口を開きかけたが、何も言わずにまた口を閉じた。
「さあ! 俺と来い! 先生に頼んでAクラスに移してもらうから!」
デニスはネリーの腕をつかもうとしたが、再びオフィーリアがそれを阻止した。今度はレベッカまで立ち上がった。
その行動がどうやらデニスの怒りに火をつけたらしい。
「ザカリー! お前を殺してやる!」
彼は再び僕に向かって突進してきたが、響いたのは「ガン!」という甲高い音だった。ネリーが持っていた木杖で、デニスの後頭部を思い切り殴った音だった。
しかし、デニスは武僧であり、後頭部に少しのダメージも負っていなかった。
「このビリ君のために、ネリーが俺を殴ったのか!」
「ガン!」
「手を出すな……」
僕は半身盾を構え、ネリーの前に立ちはだかった。デニスは右手を押さえ、苦痛の表情を浮かべていた。勢い任せに突っ込んできた彼に対し、僕はネリーへ向かってきたその腕に的確に盾をぶつけ、彼の攻撃をそらしたのだった。
デニスは立ち上がり、まだ何か言おうとしたが、ちょうどその時、始業の鐘が鳴り響いた。彼は「覚えてろよ!」と悪役のような捨て台詞を残し、教室を後にした。
ヴェローニカも鐘の音が鳴ると同時にピクリと体を震わせ、顔をしかめながら立ち上がった。
「ヴェローニカが行っちゃう……」
「うぅ……ヴェローニカ、寂しいよぉ……!」
「レベッカ姉さん……」
二人は最後に抱き合いながら泣き、先生が教室に入ってくるまでそのままだった。レベッカは随分とノリノリで芝居に付き合っていた。
*
「みなさん、ようこそ。私はFクラスの担任、デレルです。」
デレル先生はゆっくりと教室を見渡しながら話し始めた。
「クラスにはいろいろと変化があったようですね。自己紹介をして、互いに顔を覚えておきましょう。」
その言葉とは裏腹に、彼女の視線は僕に釘付けだった。まるで全身を舐め回すかのような視線に、僕は思わず背筋を震わせた。
順番が回ってきた僕は、立ち上がって名乗った。
「僕はザカリーです。最近【魔王】になりました。天職は【商人】です。」
短い自己紹介の間に、デレル先生は僕の机の前まで来ていた。身をかがめ、両手で僕の机に手をつき、背後の生徒たちへと視線を送った。
「魔王様はこのクラスの希望であり、校長先生の期待でもあります。皆さん、彼をしっかりサポートしてくださいね。」
そう言ってから、彼女は僕に目を向け、魅力的な笑顔を浮かべた。
「ザカリー君が何か困ったことがあれば、私も手伝いますから。」
デレル先生の服は胸元が大きく開いたデザインで、その深い谷間がかすかに見えていた。僕は思わず視線をそらし、その結果オフィーリアとレベッカの冷たい視線に晒されることになった。
どうやら僕の反応が気に入ったらしい。デレル先生は満足げに背筋を伸ばし、豊かな胸を小さく揺らしながら、得意げに教壇へ戻っていった。
*
「なんで!なんで!私に知らせてくれなかったの!」
ヴェローニカはソフィア先生の胸に顔をうずめ、泣きじゃくっていた。その姿はあまりにも痛々しく、見ているこちらの胸が締めつけられそうだった。
休み時間の鐘が鳴ると同時に、僕たちは教室を飛び出し、ソフィア先生の元へ逃げ込んだ。三日ぶりに訪れた部屋は、相変わらず物が散乱していた。僕はその片づけを手伝いながら、Fクラスの混乱について聞いた。
ヴェローニカは話を聞くと、あまりの驚きに言葉を失った。
「私も交換が終わった後に聞いたのよ。」
「そんな……。」
「まぁ、私は後勤科だから、連絡が来なくても不思議じゃないけど……」
「ただ?」
「教えてくれたのは、別の後勤科の先生だったのよ。」
「それって……変じゃない?」
「でしょ?まるでわざと私に隠してるみたいで。」
「どうして……?」
「もうひとつ教えてあげるわ。最初は生徒が騒いでただけで、普通なら許可なんて下りないの。でも、ある先生が賛成して、校長先生を説得したらしいの。」
「誰?」
「情報はないわ。」ソフィア先生は言葉を切り、少し考え込んだ後、顔を上げて言った。「でも、大体見当はつくわ。」
「「「誰?」」」
僕とオフィーリア、レベッカが声をそろえて尋ねると、ソフィア先生は重々しく答えた。
「デレルよ。とにかく、あの人には気をつけなさいね。」
その言葉を口にする彼女の顔には、不安の色が濃く浮かんでいた。




