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デートの予定

普通の生活を送ること、普通になること、とは「主人公」にならないことだと思う。

 

 よくアニメの中で描かれるような、幼馴染との恋仲とか、成立しない男女の友情とか、姉弟や兄妹の禁断の恋とか、ラッキースケベとか、何かのストーリ性やこれまで、これからの人生の境遇の特殊性にあふれた生活を送ることは、きっと「主人公」の生き様で普通を指してはいない。


 僕は「主人公」になりたくないのだ。

 

 誰か自分が大切に思う一人のために自信の思いも命もすべてを捨てることが出来るのか。

 叶わない恋に独り涙を流すような、報われない少年になりたいと思うか。

 どん底まで落ちた自分の人生を逆転させるような根気や恨みがあるものだろうか。


 今を楽しみ、不安になって、過去への後悔を重ねて、黒歴史にフラッシュバックをして、まだ来ない未来だからこそ希望を持ち、また不安になって。

 

 それを繰り返し人間として少しずつ進歩を重ねる。

 

 正しいのか間違っているのかよく分からないけど、普通とはそんなものである。



「モウムリ、ボクハモウハシレナイデス」


 いや、うちのチームの二年生キャプテンでエースの一人がそんなこと言うなって。

 しかもお前イケメンだろ。顔上げてないと女の子からの人気下がるぞ。

 

 あ、いや、それでいいのか。男子たちに向けた女子人気をばらつかせるチャンスなのか。

 

 というか、お前この前のバレンタイン信じられない量のチョコもらってたろ。

 陽キャ女子からの義理チョコっぽいのも多かったけど、何人かはお前に恋してる目だったぞ。

 

 僕は加藤さ……、ひなさんからもらった一つと、うちのバスケ部のマネージャーがくれたのと、一応買ってきました感のあるクラスメイト達がまとめて買ったポッキーだけだぞ。

 

 で、なんでその後、男子同士がポッキーゲームしてるとこ見なきゃいけなかったんだよ。

 あの場は面白かったけど、今思い出すと自分の黒歴史を思い出すときより吐きそうだわ。トラウマだよ。

 

 あ、まずい、また関係のない意味不明な悪口を心の中で言ってしまっていた。


 まあ要約すると、なんでゴールデンウィークなのに練習こんなにきついんだよ!


「ぼくも、もう、はしれ、ないよ」

「はーい、次、5対5やるぞー、一分休憩したらすぐに行くぞー」

「「「…………はい!」」」

「おいみんな、間があったけど大丈夫かー?」


 大丈夫なわけないだろ。うちの主人公キャラ野郎が死にかけてるんだぞ。


「先生、きゅうけい、にふん、ついかで、おねがいします」

「しょうがねえなぁ、二分だけな。みんな、筋肉固めて怪我をしないようにだけはしろよー」


 よし、よく言った。主人公キャラ野郎、犬養創志、お前のことを二年生キャプテンとして認めよう。

 この二分間を有効に活用し、ぜひベストパフォーマンスを見せよう。

 

 とりあえず飲み過ぎないよう水分補給して、軽く頭から水を被る。

 全身の熱が少し引くような感覚があって、頭の中身も少しひんやりと冷静になっていく。

 

 それで次は、


「……よし二分経ったな。5対5行くぞ!」


 二分って、こんな短かったっけ。

 

 先生の声はどのプレイヤーよりも響く大きな声だった。



「創志はなんで普通に走れるんだよ。もう走れないとか言ってたじゃん」

「いや、俺は5対5の中では必要な時だけ走ってんの。勇輝は全力疾走するシチュエーションが多すぎるから、必要な時に走れる体力残ってないんだよ。緩急をもっと使いなよ」

「っぐ……、図星っ」


 いや、僕のとにかく焦っちゃうところ、ゆっくり落ち着いてられないところ、そこは課題だけど。

 

 なんか腑に落ちないって。

 もともとのスペックの差を感じちゃうって。


「それって自分で言うやつか?」

「自分で先に言っておけば、『お前図星だっただろー』とか言われなくて済むからね」

「いや、頭がいいのか悪いのか分かんねー」


 彼――犬養創志は僕と同級生のバスケ部のメンバーで、うちのチームではダブルエースの一角でありながら二年生のキャプテンも務めるバスケ部の中心人物だ。

 まあダブルエースといっても、県大会出場が目標なくらいだから、ものすごい実力があるわけではないが。

 

 練習に誰よりも早く来る様子や、謙虚ではあるが自分を卑下しすぎたりはしない性格は同級生だけでなく先輩や後輩にも好かれ、慕われる一つの要因なのだろう。

 

 簡単に言うとすごいいいやつで、もう少し言うとイケメンで、もっと言うと陽キャで、さらに言うとモテ男で、僕と正反対の人間である。

 

 それもあって、どうして僕らが仲良く話せているのかよく分からないが、僕と一、二年生ともに同じクラスで、中学の時からもとより面識があったことが大きいのだろうか。

 今や彼はクラスや部活で最もよく話し、一緒に行動し、相談しあう友達である。

 

 いや、あくまで僕はそう思ってるけど、彼は陽キャだしね。


「そういえば、勇輝はゴールデンウィーク誰かと、どっか行ったりするの?」

「かと…、ひなさんとは明後日のオフに水族館にでも行こうっていう話になったけど、その他は特にないかな。家族でのんびり話をする機会にもしたいしね。あとは部活がこれだから」

「確かにそうだな」


 彼は少し苦笑いを浮かべた。

 

 因みに、ひなさんと付き合っていることは特に包み隠したりはしていない。

 ただ逆にひけらかすこともしたりせず、ただ創志には、ひなさんの名前を出しても何となく大丈夫なような気がしていつもオープンに話をしている。

 

 こいつの彼女、めっちゃ美人だからな。うちの彼女も可愛いけど。

 

「水族館って、あの静岡の方の?」

「そうそう、何となく浜松よりは静岡の方が遠出している感あっていいよねってことで」

「う、うん? まあ、確かにそうかもしれない」


 いやなんで、ひなさんとほとんど同じリアクションするんだよ。

 僕的には、結構重要な事なのだが。その遠出感。


「創志はなんか予定あるの?」

「俺も明後日はデートしようとは思ってるけど」


 ん? なんや、その言い方は? ちょっと変やないか?


「どこ行くかは、決まってないの?」

「ひみつ」


 いや、それくらい教えてくれたっていいのに。まあいいけど。


「ま、そんなことより、今からどっか遊びいかん? そこらへんでラーメンでも食べた後」

「いいけど、僕の足はもう動かないから、カラオケとか足動かないところならオッケー」

「分かった、よし、じゃカラオケで。親に連絡するわ」

「僕もー」


 彼は着替えながら、スマホと見つめあって、度々返信している。

 そんなに親と話すことあるのだろうか?


 いや、多分インスタのDMとかで会話しているのだろう。あそこは陽キャの溜まり場だからな。

 

 変に会話する内容もないので、僕も親へのLINEをし終わった後はTwitterを見漁りながらゆっくりと着替えることにした。

 信じられないほど動かない自身の体に制汗剤を塗ったくるのが想像以上に時間がかかる。

 

 身体がまだまだ動くために、早くに着替えを終わらせることが出来た彼は何回もスマホに文字を打ち込んでいた。

 え、陽キャってそんな返信する人いっぱいいるの?


 流石陽キャ、二人でもカラオケはすごく楽しかった。



『――明後日、勇輝とひな、水族館行くらしいよ』

『そうらしいね。私もひなから聞いた』

『しかも行くところ同じっぽいよな』

『ってことは?』

『あのピュアな二人のデートを観察できるってこと』

『最高だね。私、ちょっと変装していこうかな』

『俺もそうしよっかな』

『変装できるものはあるの?』

『んー、ちょっと怪しいかも』

『じゃあ、明日、部活終わり二人で変装道具買いにいこ。確か午前部活だったよね?』

『そう。じゃあ部活終わり次第、学校の東側のファミレスに集合』

『了解。ひな、どんな服装で行くんだろーなあ』

『そういうとこまで楽しみだよな』

『そうそう、きっと必死に考えてくるから』

『もうワクワクが止まらないぜ―――』

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