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ドリームランド  作者: こころ
9/19

今後

「ねえ、なんだったの、さっきの」

走りながらエビーは、私に詰め寄った。白くまばゆい光に包まれ、敵の老婆が消滅し、私達はホテルへ足早に戻る途中だった。

イクセとリープの負傷が特に酷く、二人とも息が荒い。ユーニンがイクセに肩を貸していて、私もリープを支えながら走る。

「いいじゃねえか。とにかく、助かったんだ」

リープが切れぎれに援護してくれた。本当のところ、私にもよくわからない。

「エビー……お前は……大丈夫なのか」

ガーストが聞き取るのがやっとの声で尋ねる。案の定、エビーには聞こえていない。

「調子に乗らないで。私達まで巻き込まれたらどうするつもりだったの」

「それは――申し訳ないとは思うけど――」

「なにそれ、ちょっと無責任すぎるんじゃない?」

もはや、何を言っても受け入れてもらえないようだ。

リーグレはさっきから、こちらに背を向けて走り続けている。なにを考えているのか――。

観覧車、池に跨るジェットコースターを通り過ぎ、ホテルにどうにか帰ってきた。

皆大きく息を吐き、ロビーのソファに身を投げ出す。

リーグレは中央の階段を二、三段駆け上がり、やっと振り返った。

「皆、危険な目に会わせてごめん。女の子ではなく、疫病神の類だったとは……」

「リーグレが謝ることないよ」

エビーがすかさずフォローする。だが正直、皆疲れていた。

「なあ、確かヘデラが来た時点で、あと一週間って言ってなかったか。もうあと四日しかねえぞ」

リープが重い首をあげてリーグレを見上げる。リーグレは返す言葉がないようだ。

「なにか……手掛かりがあるといいんだけどね……」

ユーニンに氷を額の上にのせてもらいながら、イクセが呟く。

「腹、減った。エビーは」

ガーストは貧乏ゆすりをしながら、ちらとエビーを窺う。あいかわらず、エビーは答えない。

「たまには、私が」と言って、席を立つ。「僕も手伝おう」と、リーグレがついてくる。

「あの――」階段の中ほどで、ユーニンの声が追いかけてくる。

「あの、もし、一週間経っても女の子が見つからなかったら、私達、どうなるんですか」

リーグレは、言いにくそうに、わずかに顔をむけ、「僕達は、消滅する――」と答えた。

ユーニンはそれ以上追いかけてはこなかった。


食堂の扉を開け、奥のキッチンへ二人で入る。リーグレは料理ができるのか……。

「ヘデラ、さっきは助かったよ。君がいなかったら、皆、かなり危なかったはずだ」

急に神妙な口調で話すリーグレにたじろぐ。私は……。

「私は、なにも――」

「いや」

初めて聞く、真の通った声。まっすぐ撃ち抜かれるような響き。やっぱり、人間とは違うのかな。

「ヘデラ、実は、僕は力を没収されているけど、君の力があれば――君が望むなら、君の力を僕の力にできるんだ……」

途中から、健気な男の子に戻っていく声。それに伴って、俯くリーグレ。

「それって、ユーニンが話してたことかな。なんか、最後の力とかって――」

「そう! ユーニン、あの子、おしゃべりだな……」

フライパンを片手に、冷蔵庫から、魚の切り身を出しながら、話し続ける。

「でも、これは禁忌に近いんだ。もし使えば、君は、元の世界へ帰れなくなる。僕とこの先ずっと、運命を共にすることになるんだ――え、なに笑ってるの? 僕は真面目だよ」

言われて、ハッとする。料理をしながら、一人の人間の運命を語る死神に笑ったのか、西洋のおとぎ話みたいなことを、真面目腐って話すリーグレに笑ったのか、自分でもわからない。

「ごめんなさい――あんまりピンとこなくて」

「そ、そうだよね。僕こそごめん。君は人間なのに」

リーグレはジュッとバターで魚を焼き、レモンとバジルらしき食材をなにか液体と合わせて、ソースを作った。私も、サラダぐらい作らないと……。

「もし、決断しなければいけない時がきたら、君は、僕が禁忌を犯すのを許すかい?」

「それは……私に、元の世界へ帰れなくなってもいいのか、と聞いてるの?」

「僕としては、元の世界へ帰りたいかい? と聞きたいんだ」

はぁ、普通は帰りたい! そう思うのかな――。

「帰る場所は、私にはないの。なぜって、あなたは知ってるでしょ」

リーグレは少しだけ口角をあげて答える。でも、目は笑っていない。覚悟を確かめているのか、責めているつもりか――。

「わかったよ」

皿に盛りつけたソテーを運ぶ寸前、リーグレは囁くように言った。


「これ、あんたが作ったのか」

さっきの疲労はどこへいったのか、魚にがっつきながら、リープが私に聞く。

「私はこのサラダとスープだけ」

「サラダって。ウサギの餌じゃないんだから」

エビーがちぎったレタスをつまみ上げて言い放つ。まあまあと、イクセがとりなす。さっきより、顔色が良くなったようで、ほっとする。

「サラダのドレッシング、おいしいですよ」

ユーニンの気遣いに、不覚にも目が潤む。

「なんか、聞こえた」

ボソッと話すので、それが何度目かだと気づかなかった。食事の後半、ガーストが一段と大きな声を出した。

「なんか、聞こえたぞ」

皆がしんとなり、各々耳をすます。――「パパ……」聞こえる。微かに、どこからか――。

「下だ!」

リープが駆けだす。皆でロビーへ降りるが、声は途切れていた。

「くそ!」

「仕方ないよ。焦っても、どうにもならない。それに、今日は休んだほうがいい」

イクセはそっとリープの背中に手をやった。

「そうだね。今日は休もう。また、明日来るよ」

リーグレはそう言い残し、ふっと息を吐くと、消えていった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

これからもよろしくお願い致します!

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