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ドリームランド  作者: こころ
8/19

リープ

「ほら、ちゃんとシートベルトしろーー」

「パパ、絶対寄ってよ、遊園地、絶対だよ」

「わかった、わかった」

朝から何回確認されたか知れない。後部座席で二人がはしゃいで、前の座席は揺れっぱなしだ。

「こら、お姉ちゃんなんだから、弟を叩かない」

横で妻が怖い声を出す。「まあ、いいじゃないか」と小さく言うと、キッと睨まれた。

「子供たちはお義母さんに預けて、二人だけで行くはずだったのに」

またか。久しぶりの、本当に久しぶりの家族旅行だ。もう一年は出掛けていなかった。今までにも休みはあったが、家でつぶれているか、友達と飲みにいくか、はたまたこっそり、後輩の女の子と遊びに行くかだったためだ。本当は妻のいうように、夫婦水入らず、のつもりだったが、今更二人でなにをするってんだ。とうてい間が持たない――。

「いいじゃないか。子供達も大きくなったら、なかなか旅行なんて行けないぞ。今のうちだよ」

「普段興味もないくせに……」

イラっとして隣を見る。妻は澄ました顔で、窓の外を眺めている。ふてぶてしい態度を叱ろうとするが、もう一つ気になることがあった。さっきからバックミラーに、へばりつくように後方の車が接近しているのだ。

「ちっ、ちけーな」

相手の顔が見えそうなほどに近づいている。注意の意味もこめて、ブレーキを踏んだ。後ろで急ブレーキがかかる。

「ちょっと、やめてよ。高速で」

妻がシートベルトを握りしめて、非難がましく言った。

「やめてほしいのはこっちなんだよ」

後ろでは懲りずに接近を繰り返している。もう一度、ブレーキを踏んだ。

「ちょっと!」

妻が叫んだタイミングで、後ろの車が車線を変更し、俺達を追い越して、前に出た。

今度は向こうが、ブレーキを繰り返す。

「ねえ、どうするの。もう」

妻は語尾を震わせながら、俺の方を睨む。喧嘩を売ってきたのは向こうだろう。

すると、前の車は端によることもなく、急停車した。なんて非常識なやつだ。運転席から降りて、こちらに歩いてくる。

「どうしたの、行かないの?」

子供たちが不安気な顔で問いかけてくる。妻は下を向いてなにも言わない。

俺の横まできた運転手は、窓を叩く。もちろん無視だ。後続の車が赤いランプをともしながら追い越し流れていく。

運転手は運転席側のドアをダンと蹴ると、後部座席の窓を殴りだした。子供たちの怯えた声が響く。

「ってめぇ」

「ちょっと、外出ちゃだめだって」

子供に手を出されて、黙っているわけにいかねぇだろ。

ドアを開け、「おい」と詰め寄ると、運転手は逃げるように、車の前方に移動する。

「煽ってんじゃねえよ。全部映ってるからな」

運転手は自分の車に付けてある、ドライブレコーダーを指差すと、車からスマホを取り出し、「警察だな」と呟く。

「勝手にしろよ。先に煽ったのはてめぇだからな」

「はぁ?」

「やめてよ、あなた」

運転手と言い合いをしていると、妻が助手席から出てきた。車がすぐ横を、ビュンビュン通り過ぎる。

「こっちも撮ってあんだよ。お前の煽りをな」

「もうやめてよ。すみません、ごめんなさい」

「なに謝ってんだ」と言おうとした、その時だ――。

キューー、という甲高い音の後で、バッシャーーン、と落雷のような地鳴りが轟いた。

そのすぐ後で、妻の声にならない叫び声――。

俺は、放心状態になった。何も考えていなかった。ただ、体だけが動いた。ぐしゃぐしゃになった車の、運転席を覗く。

子供達は、両親を心配してか、二人とも、前の席に移動していた。前屈みの体勢だ。姉は意識がある。そのことを、妻に叫ぶようにして伝える。

助手席に回る。小さな首筋に手をやる。脈は――、ある、気を失っているようだが……頭から血が出ている。

再び妻に顔を向け、声を出そうとした――。

「あなた!」

妻の声。背中にうけた、大きな衝撃――。なんだ、なにが……。こんなはずでは――。なぜ、頭が真っ白なんだ。戻らなくては――、俺は何をしている?


「そう。君が望むのは再生なんだね」

見知らぬ少年の瞳に俺の顔が映る。

読んでくれてありがとうございます(*´-`)

これからも応援よろしくお願い致します!

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