戦い
「さあ、皆、食べ終わったら、明るくならないうちに出発だ」
リーグレは勢いよく椅子を引き、両手を広げてくるりと回転しながら食堂を出ていく。
「リーグレ、一人で行ったら危ないよ!」
エビーは慌てて後を追う。イクセがゆっくりやってきて、エビー達の置いていった皿を回収し、奥へ運んでいく。
「後片付けはちゃんとしないとね」
イクセを手伝うユーニンにそっと問いかけてみる。
「ねえ、二人、どこへ行ったの?」
「女の子を探しにですよ。私達はそのためにここに」
ふわふわな髪を揺らしながらニッコリ微笑む。
「え、人探し? 私達って結構危ない状態なんじゃ……」
「大丈夫ですよ、エビーの持つ力は、そこらのオバケなら相手になりませんから」
私が言いたかったのは、現実の世界で、私達は危篤状態なのに、という意味なのだが、ユーニンはそうとらなかったようだ。
「だが、そろそろいかないと、俺達の今後に関わるだろ」
リープはキッチンの扉にもたれて、足を揺らしている。しきりに窓の外に目をやっている。
「そうだね、僕達もそろそろ行こうか」
イクセが水のついた手をタオルで拭い、私に目で促して、扉に向かう。
後ろでガーストが椅子から立ち上がる、ガタッという音が聞こえた。
「こっちだよ」
外に出てしばらく行くと、リーグレがメリーゴーランドの脇で手を振っていた。エビーがかぼちゃの馬車に乗っている。
「ここにはいないわ。ね、リーグレ。その子、じっとしてられないのかしら。まったく。ねえ、もうやめにして遊ばない?」
「ダメだよ。その子を見つけたら、君達もお家に帰らなきゃ」
エビーは拗ねた顔でそっぽっを向いてしまった。
(あんたに帰る場所なんてないから)
あれ、懐かしい声。誰だっけ――。
「ヘデラ、小さな女の子が行きそうな場所、わかる?」
リーグレの声ではっと我に返る。つぶらな人懐っこい瞳が問いかけてくる。
「えっと……なぜかここには私達以外誰もいないし、暗いし、乗り物は不気味に見えるんじゃないかな。だから、えっと、広場の、花壇のところとか……」
「誰もいないなんて、あたりまえじゃん。あんた死にかけてんの、わかってる? リーグレが助けてくれなかったら存在しないんだから」
エビーが突き放すように言い放つ。別に助けを頼んだ覚えはないけど――。
「うんうん、なるほど。確かに広場かもしれない。それにエビー、前も言ったけど、僕は君達を呼び出しただけだよ」
そう言うと、「さあ、行こう」と背中を向けて走っていく。
私達も後を追う。様々なアトラクションを通り過ぎる。
「あれ、あのキャラクターの乗り物、懐かしいなぁ、昨日ありましたっけ」
ユーニンがイクセを振り返る。
「いいや、見てないね。また場所が変わってるんだ」
「ヘデラさん、あのキャラクター知ってます?」
ユーニンの問いかけに、首を傾げておく。見たことはある気がする。けど、特に思い入れもないし、遊園地など、来たこともない。
「両親によく連れていってもらいました」
ユーニンが微笑みかけた、その時、頭上から、ギャーという鳴き声とともに、なにかが襲いかかってきた。
「リーグレ!」
リープが叫び、リーグレが振り向く。
「リーグレさん!」
ユーニンがリーグレへ右腕を突き出すと、リーグレは頷いて、声のした方へ、同じように手を差し出す。
ユーニンの右手から、黄色い光がリーグレへ放たれた。眩しくて、一瞬たじろぐ。
リーグレは光をうけて、反射するように、その光を声の主へ放った。クワーッと声をあげて、一体が遠ざかる。
後ろから来たもう一体は、黄色い光でその姿が見えた。カラスのような羽、コウモリのような、ネズミのような顔、体。なに、あれ――。
遊園地に響く鳴き声のなにかは、体長が五メートルを優に超えていた。
もう一体は、羽をバタつかせ、空中の一点にとどまったかと思うと、勢いをつけて、こちらに急降下しながら、羽を矢のように降らせた。
「僕の力を……」
イクセが片腕を、すがるようにリーグレへ差し出す。それを受けて、私達の頭上を水色のバリアが覆った。羽の矢はあたらない。バリアを滑って、落ちていく。
だが、イクセの息が上がってきて、腕がだんだんと下がるにつれて、バリアの層が薄くなっていった。
「リーグレ、攻撃だ」
リープは思い切り腕を突き出し、緑の光を放った。リーグレが受けると、落ちていた羽が、浮かび上がり、怪物へ向きを変え、放たれた。
攻撃を受けて、怪物の鳴き声があがる。頭が痛くなるような声――。
「今のうちに、皆、ホテルまで走れ!」
やられた二体の後方から、つぎつぎとこちらにやってくるのが見えた。
ユーニンとイクセは長距離を走ったようになっており、私とリーグレで担ぐようにして走る。
「おい、大丈夫か」
そう言うリープも、額に汗をぐっしょりとかいている。
エビーは振り向きながら、ガーストは我先にと、前を一目散に走る。
その背中を必死に追いかけ、ホテルへ急ぐ――。
読んでいただきありがとうございます!
稚拙な文で申し訳ありません。
これからもよろしくお願い致します(*´-`)