リーグレ
主人公を勝手にヘデラと名付け、この世界へいざなったリーグレとは一体……?
僕を呼ぶ声がする。悲痛な声音……。
(来ないで)ならいくらでも聞いたことがあるけど、こんな声で呼ばれたのは初めて。
どこだい、どこにいる……。ここは……遊園地。イルミネーションがキラキラ光る。
あんな声とは場違いに。
楽しそうな笑い声、風を切る奇声。たくさんの人間を通り過ぎ、声の元へ。
「僕を呼ぶのは――君だね」
小さな女の子。滲む瞳。泣いているの? いや、小さい体に似つかわしくない、濁った感情。
「僕に望むの? 君なんかが僕に――」
小さい瞳に挑む眼差し。急かすように、試すように。
大きな黒い影が、女の子の上に被さっている。女の子がすっぽり覆われてしまいそう。
「いいよ。君が望むなら。さあ、おいで」
手を広げて迎え入れる。女の子が溶けていく。覆いつくしていた黒い影も、光の粒子となって消えていく。
僕は虹色の光を纏い、女の子を抱きしめた。これが、あの子。
もう安全だ。
「馬鹿者! 命尽きていぬ者を、勝手に冥府へ送り込もうとしよって」
父は、人間の言う父にあたる死神は、僕を力で吹っ飛ばした。
部屋の壁に頭から打ちつけられる。死神だって、痛みは感じるのに。
「でも、あの子が望んだんだ。あなたにでも、兄にでもなく、この僕に。だから――」
「ほざけ!」
体に大岩でも当たったような衝撃を受ける。その場にへたり込む。重い、体が――。
「お前が奪った命を取り戻すまで、死神としての力は没収だ。探してこい! そして送り届けろ」
「でも、力がないんじゃ……僕だってただの人間と変わらないよ――」
僕を見下ろす巨大な影は、嘲笑うように低く唸った。
「もともとお前に力などないだろう――」
覗き込む父を凝視できない。目玉からは真っ赤な角が突き出し、人間の骸骨を歪めたようなカタチ……。
「人間というものは、弱く醜いものだ。死を望んで我らを呼んだかと思えば、元の世界へ帰りたがる。我らの仕事は死を招くことではなく、太古の昔から、死んだ者を冥府へ送り届けること。それだけだ」
洞穴のような冷たい石の壁が、背中にあたる。部屋の四方から亡者の声が響いている。
その先で、極楽や天国に行ければいいけど――。
力を奪われて、自分の体を癒すこともできないことに気づく。こんなざまじゃ、冥府へ行こうとしない亡霊や異形の者と鉢合わせたら、逃げることしかできないじゃないか。
「ふん。お前のようなひ弱には、素手の勝負は無理か。ならお前お得意の、招きの力だけは残してやろう。ただし招いてよいのは死に瀕した人間だけだ。人間様に頼み込んで、力を貸してもらうんだな。もちろんそいつらも、元の世界へ送り届けることだ。お前に死を招く権利はない」
みぞおちに食らった衝撃とともに、壁を突き破って、外まで飛ばされた。
背中をざらついた地面に打ちつける。「なんだ」「またアイツか……」「ククク――」
他の死神達の好奇の声に混じって、兄の引き笑いが頭上をかすめた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。続きもお楽しみに!