表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリームランド  作者: こころ
18/19

光へ

ここ……どこ……。白々しい光ね――。病院? 入院してたの?

「あっ、せ、先生、呼んできますね!」

なに……? 今の、看護師さんね――。随分長い間眠っていたのかしら――。

「いやーー良かった、良かった。丸二日だよ。婦人科からこっちに送られてね。お母さん無事でよかった」

でっぷり太った医者が言う。お母さん? あ――。そうだ、私……ママになったんじゃない……。

「私の……私の子……」

「心配しないで。元気ですよ! 女の子です!」

看護師がニッコリ笑って言う。女の子……そう、良かった……。

――なにか、温かいものが頬を伝った。

「先生! こちらも!」

「おやおや、今日はいい日だね」

隣のベッドを仕切るカーテンが揺れる。

「大丈夫? 頭を強く打ったからねぇ。君は丸一日」

「ここ……どこですか……」

「病院だよ」

ふわりとした長い髪が見え、少しだけ顔が覗いた。優しそうな女の子――。

「あれ……どこかでお会い……しました?」

その子は私にそっと問いかけてきた。私はほんの少し首を振って否定する――。でも……なぜか、懐かしい気分――。


「先生! うちの子は、無事なんですか⁈」

「ちょっと、落ち着いて。まだ安静にしていてください。轢かれたんだから」

向かいの男がうるさい。ベッドからずり落ちそうになっている。隣で女性が宥めているが、妻だろうか――。

「大丈夫ですよ。後ろの座席にいなくて良かった。それよりあなたの方がひどい怪我なんだから」

向かいの男はほっと胸を撫でおろし、ふと、俺のほうを見た。――なんだよ。五秒ほど、こっちをじっと見つめたかと思うと、ふいに妻に、「お前は平気か?」と言い出した。

「お向かいさんと、同時に起きたわね。気分は?」

看護師が俺に聞く。腹がずきずきするが、気分は爽快なのが不思議だ。

「警察の人が、話聞きたいって……。目覚めたばっかりなのに――。断っとくね」

そう言って、看護師はふっと顔を緩めた。――俺を気味悪がらないなんて、不思議なやつだ……。


「おお? おう、起きたか」

気の抜けた声――。あ、毒トル先生だ――。

「なんだ。もう起きない気かと思ったが――」

「――先生……それは……」

毒トルの手元には本が――それも、子供用の絵本が開かれている……。

「遊園地にいこう! って本だ」

「まさか、読み聞かせを……?」

「そうだ。遊園地、行きたくなるだろ」

「先生、その本は、僕には不適格です」

――それに、と続ける。毒トルは眉をひそめ、心外だ、というように絵本を撫でる。

「もう、遊園地には行ってきました」


見慣れない部屋。見たことのない蔦が絡んでいる。意思をもったように、蔦は自由に模様を描く。

「おはよう、ヘデラ」

天使のような笑顔。ベッドに腰掛け、私を見下ろす。

「ごめんね。君を――元の世界へ帰せなくて……。でも、おかげで、女の子と、他の皆は無事だよ」

――それなら、言うことないじゃない……。そう言いたいけど、まだ声がうまく出せない。

「君はもう、家には帰れない。ここが今日から君の家だ。僕が望んだことだけど――、あの時、君も望んだね?」

なんとか、頷くことはできた。可愛い部屋だ。手作りの小屋、という感じで、壁に絵が掛かっている。翼が沢山ある鳥のような絵――。リーグレが描いたのだろうか。

ふと、自分の姿を見ると、淡い水色のドレスを着ていた。――こんな綺麗な服、持ってないけど……。

視線に気づいたのか、リーグレが答える。

「あぁ、着替えさせてあげたよ。だって、君、力を発散しすぎて、あの後素っ裸だったんだもん」

――なに……? 私は、仕方ない、仕方ない、というように肩をすくめるリーグレの右頬を思い切りつねり上げた。

「あイテテテテ! なにするんだ⁉ 僕は死神だぞ! 君をどうにでもでき――」

と言いかけて、ハッとしたように口をふさぐ。

「ない――」

「私も死神になったの?」

少し掠れたが、声が出た。独特の空気が流れている。元の世界より清涼で、かえって息苦しい。

「まさか! ヘデラ、それは自惚れってもんだよ。君は僕の一部。でも人間! 参ったな……君を守りつつ強くならなくちゃならないのか――」

「嫌なの?」

私は上半身を起こして、リーグレを覗き込む。

「いいや。興味深いよ。改めてこれからもよろしくね、ヘデラ」

私の名前は――、いや、いいか。これからはヘデラなんだから――。

リーグレはそっと、私のおでこにキスをした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ