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ドリームランド  作者: こころ
15/19

ピエロ

あぁ、気分が悪い。真っ赤な両手、床に落ちたカッターナイフ……。誰か倒れてる――。なんだっけ、私、なにしたんだっけ――。

「よかった、目が覚めたね」

ついに、天国? いや、違う。この可愛らしい顔は確かに、現世のものじゃないけど、ここは――。

「ちょっと、しっかりしなさいよ。あんたのせいで、女の子取り逃がしたのよ」

エビーの声だ。またベッドの上か。

「ごめん」と、反対側から聞こえる。イクセも目覚めたようだ。どうにか首をもたげる。ガーストはあいかわらず、扉にもたれている。

「仕方ないよ、君達三人は人の死に触れたことがあるから、きっと敏感なんだね」

――そういうものなのか。

「おばけとか、怪物は見えるのにか?」

リープが判然としない表情で腕を組む。

「それはこっちの世界の奴らはね。でも生霊は君達がいた世界に本体がいるから、よっぽど敏感じゃなきゃ見えないよ」

「ふーーん」

あまり納得していないようだが、はっと目を見開き、「んなことより」と話題を変える。

「あと二日しかねぇぞ。どうすんだ、んなところでちんたら喋ってる場合じゃねぇ」

「でも、リープさん、女の子のいる場所はわかりましたし、万全の態勢で臨んだほうが……」

「あの生霊……」

ユーニンの言葉を遮り、珍しくガーストが話し出す。

「喋ってた。娘が……とかなんとか……遊園地で倒れた男なんじゃ――」

「あぁ。僕も聞いたよ。確かに、娘がいない、とか言ってたね」

イクセも同意する。

「君は? なにか聞いた? リープ、その男、似ていたか?」

リーグレが私とリープを交互に見るが、私は首を振る。リープは、「だから、ラジオだっつーーの」と切れる。

「娘って、まさか、そいつ、女の子の父親?」

「確かに、妙なタイミングではありますね……」

エビーの憶測に、ユーニンはブルっと身を震わせる。

「え、なに。女の子の行方不明に父親が関わってるの?」

「ただ心配する思いが強すぎたってだけかもしれないよ」

イクセがエビーをなだめる。

「この世界に干渉してきたってことは、僕が探している女の子になにかしらの関係があるんだと思う。この世界に迷い込めるのは、誤って僕が送り込んでしまった女の子と、彼女にそう望ませたなにかだ」

リーグレは思案顔で訥々と語る。

「とにかく、もう一度行くしかなさそうだな」

リープの一言に、一同俯く。まだ体は怠い。きっと皆も本調子ではないだろう。そもそもこの世界に来る前から私の調子が良かったときなんてなかったけど……。


あの纏わりつくような、嫌な空気は消えていた。不気味なほどに。

遊園地は相変わらず、壊れたオルゴールのような音色を奏で、誰も乗っていない遊具が動き回る。

脚で漕いで進む車型の遊具が、上空を歩いている。水鉄砲を的に当てる移動式の遊具も、勝手に連射して回っている。まったく奇妙だけど、私には無縁だったそれらが、ほんの少し羨ましい。

お化け屋敷の前まできた。今日は、誰も立っていない。隣の箱は、ミラーハウスだったのか。

「皆、気をつけてね、離れないで」

リーグレを先頭に、ゆっくりと足を進める。青白い照明、薄暗い……。鏡の、奥の奥のその先まで、私達の姿が何重にも繋がってみえる。

「僕だよ、リーグレだ。君を迷わせてしまった。でも、もう大丈夫、出ておいで」

イクセが念のため、バリアを張る。

「ちょっと、うるさい」

「っつ、仕方ねーーだろ、ったく、迷路なのかよ」

さっきからリープは鏡に体のいたるところを打ち付けている。エビーはそのたびに、舌打ちしている。

私も何度か頭をぶつけた。そして毎回、リーグレが鏡越しに笑う。笑ってる場合じゃないでしょ……。

こういうのが得意なのか、リズミカルに、「こっちです、次はこっち」と、いつの間にかユーニンが道案内役を買ってでている。

「あ、今――」

ガーストが後ろで声を上げた。

「なんだ、どうした?」

「今、白いフリルが見えた。小さいのが、動いた」

「あ? どこだ。どっちだ!」

リープは狭い通路を、仲間たちを突き飛ばしながら引き返してきた。

「あっちに、いや、鏡だから、こっちか」

ガーストが指差した方向へ、一目散に向かう。

「待て、僕が」

リーグレも脇へ入っていく。私達も後から続く。

入り組んだ先に、黒い幕が掛かっていた。関係者以外立ち入り禁止とある。その先に入っていく。

――中の行き止まりに、女の子がいた。青白い蛍光灯の先にも扉がある。裏口か――。

「やっと会えた」

リーグレが近づこうとすると、後ずさりした。

「待って。私が。――初めまして、あなたのことを皆ずっと探していたの。大丈夫? 怪我はない?」

屈んだエビーに、女の子は、そっと近づいて頷く。それからリーグレを見上げ、「パパが……」と話し出した。だが、リープの「話は後にして、出よう」という言葉を受け、揺らいだ視線が、ガーストを捉えた。

「あ……、あれ、なんでここに……」

そう言ったかとおもうと、駆けだした。私達の間をすり抜け、迷路の方へ消えていく。

「待って!」

リーグレが消えていく背中に呼びかける。追いかけなきゃ、迷路へ足をむけた、その時――。

ひょっこり、幕を捲って、ピエロが現れた。……ピエロ? あぁ、この遊園地のマスコットね……。

なにか、くぐもった声で喋っている……。

「じゃま……す……な――。けし……や……る。ひ……り……ずつ――」

「なに? こいつは敵? 邪魔よ、あんたにかまってる暇はないの」

エビーは勢いよく力を放った。――だが……。

総毛立つ笑い声、ピエロは左右に体を揺すり、両掌をこちらに振って攻撃をものともしない。

「エビー!」

ユーニンの叫びで、エビーを振り返ると、宙に浮いたエビーが、赤い膜の中で白目をむいていた。「ひと…り」とピエロが言った。

「イクセ! こいつ!」

リープがイクセに向けられたピエロの攻撃に、自身の力を放ち相手への攻撃に変える。だが――。

「リープ!」

リーグレが気づいたときには、もう、リープは緑の膜の中で抜け殻となっていた。

ピエロは奇妙な笑い声を出し、バク転を繰り返す。私達に近づいている。

「エビー、リープさん、しっかり!」

ユーニンが二人に言葉をかけ続けている。だが二人は聞こえていないようだ……。

「リーグレ、あいつはなんなの」

イクセの問いに、リーグレは歯を噛みしめながら、バリアを維持し、答える。

「あれは……あれこそ化け物だよ。自分の攻撃力は弱いけど、相手の力を横取りして自分の攻撃のように使っている。君達の攻撃力の素となる感情を嘲笑うようだ――。攻撃は無効だ! 防御に徹して! それからイクセのバリアは攻撃にあたる。あいつの攻撃を当てさせないで!」

ピエロはどこからかお手玉を出し、くるくる放り投げては掴んんでいたかと思うと、こちらに弾丸のごとく放った。ガーストが、イクセのバリアにぶつかる前に、弾き返す。

私もなにか、手伝わなきゃ、前の感覚を思い出して、力を籠めるが、なにも生まれない……どうして――。

「なんとか、明るくなるまで持ちこたえるんだ!」

リーグレの必死な声がする。ピエロはどこからか風船を取り出し、こちらに向け、手を放つ。

ふわふわ漂い、こちらに流れてきた風船が、バン! と音をたて、イクセのバリアの手前で割れる。

だがなんとかバリアの僅か手前でガーストがかわし、バリアは保たれていた。

――長い間交戦が続いた。いや、長く感じるだけか……。その間ずっと、ユーニンは気を失っているような二人に声をかけ続けていた。

「もう、やめて!」

突然ユーニンが、黄色い閃光をピエロに放つ。「よせ!」というリーグレとガーストの声が被った。「ああ!」ユーニンは、瞬間、黄色い光に体を打たれ、膜に包まれてしまった。「ユーニン!」イクセが、悲痛な声を上げる。

「馬鹿! 集中しろ!」

ガーストの声も虚しく、まるでそのタイミングを狙っていたように、ピエロがトランプのカードのようなものを放ち、イクセのバリアに突き刺した。バリン! と砕ける音とともに、イクセが宙に浮き、青い膜に包まれる。「あと……さ……にん」ピエロは少女のような声と、男の声の混じったような声で笑う――。

「くそ! もう、だめだ……」

リーグレが膝をつき、ピエロが嘲笑しながら、ゆっくり歩いてくる。――ここまでなの……?

だが、ピエロの足が、消えかけているのに気づいた。もうすぐ明るくなる!

「リーグレ、ガースト! 見て!」

二人にピエロの足を示す。二人も気づき、互いに、暗黙の了解として頷き合った。

「おい、ピエロ! 僕が相手だ!」

リーグレがピエロの脇に回り込み、挑発する。ピエロは首を傾げ、グフフと笑うと、またカードで、リーグレに攻撃を仕掛けた。ガーストが弾き返す。

「こっちだ!」

リーグレの動きに合わせ、ピエロの攻撃と、ガーストの防御が繰り出される。ピエロはもう、消えかかっている――。

「そんなもんかい?」

リーグレがピエロの真ん前で向き合ったとき、背後の攻撃をガーストがかわし、ピエロは消えた。

――やったの?

「消えただけだよ。また復活するだろう」

リーグレが、倒れた仲間たちを見下ろし言った。四人とも、気を失っているけど、息はあるようだ。よかった。

「リーグレ、お前、探すように言われたのは女の子だけか」

「……そうだよ……どうして」

ガーストに疲れた声で答え、リーグレは四人をそっと寝かせる。

「思い出した。遊園地で倒れた男の話。俺もニュースを見た。その男は――死んだ」

エビーを見ていたガーストは、ポツリとそう言うと、迷路に向かっていく。

「どこに行くんだ!」

リーグレの声には答えない。

――遊園地で倒れた男……死んだ? ん、そういや、私もあのビルから見えたモニターで……、そうだ、そういや、あの事件で持ち切りだったじゃない、忘れてた――。

なにもしていないくせに、どうして私が疲れてるの……? ぼんやりする。「ヘデラ!」というリーグレの声が薄らいでいく……。

読んでいただき、ありがとうございました!

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