表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリームランド  作者: こころ
13/19

謎の男

ホテルだけど大浴場があるのは驚きだ。しかもちゃんと使える状態で。皆うんざりしていた。女の子を探そうにも、取っ掛かりもないんじゃ……。

いや、ここが夢ランドってことはわかった。体をシャワーで流しながら、私とは縁もゆかりもない遊園地のことを考える。

なんだか、聞いたことはある、たぶん、会社にいた誰かが行ってきたとかで……。私が住んでたところからは遠いし、地方の遊園地、ってことしかわからないけど。

気になるのは、女の子のほう。遊園地で行方不明、たしか聞いたことが……。

なにか、私とその子がとても近い存在に思えたから……。なんでだっけ。私は――何をしてここにいるんだっけ……。

めちゃくちゃだったことは知っている。両親は二人とも私に無関心だったし、学校は普通に通ったけど、友達の顔も、いたのかも覚えていない。それから、会社も、ただ、生活のため。なんでだか知らないけど、生きないといけないから、お金のため、勤めただけで、個人的な付き合いはない。

私は私自身に、無関心だったから。

――だったのに――そうだ、あのとき感じた強烈な関心……、なにか、乗っ取られるような、熱くて、重い――。

「あの、大丈夫ですか?」

ユーニンが長い髪を胸にかけて覗き込む。

「もーーほっときなって。温泉入ろ」

エビーは風呂でも髪をとかない。思ったより華奢な体でお湯につかる。「ふぁーー」と声を出している。

――と、ガラガラガラ、と音がして、誰かが入ってきた。――おかしい。もう女はいないはずなのに……。

「君達、食堂じゃないし、どこに行ったのかと思ったら、まったく、呑気だなぁ」

リーグレが頭をフリフリ入ってきた。――え。

「ちょっとお! 馬鹿! 変態!」

すぐにエビーが手近な桶を投げつける。まさに、アニメのワンシーンみたいに。私は彼の、いや、リーグレの裸をまじまじと見つめてしまった。不思議な模様の痣。それに、性別を分ける部分の欠如――。そうか、彼は死神だもんね。ん? そういう納得の仕方でいいのか……。

「うわ! なにするんだ。僕は今、力が使えないっていうのに、怪我するじゃないか。それに、僕が誰だかわかってる? 君達の運命だってどうにでもできる存在なんだよ」

「リーグレさん、可愛いですね、私、弟が欲しくなっちゃう」

ユーニンはにこにこと胸元に手を置いて微笑んでいる。

「おい、聞こえるかーー、思い出したことがあるんだ、そろそろ上がれーー」

向こうの壁越しに、リープの声が聞こえた。

「わかったよーー、君達どうしてバラバラに入ってるのーー」

「あ? リーグレ? なんでそっちに入ってんだ!」

仰向けで大浴場の湯をたゆたうリーグレに、リープの声が怒鳴りつける。

「え、リーグレ、そっちにいるの? だめだよ、見た目は男の子なんだから!」

めずらしく、イクセの声も焦って聞こえるが、リーグレはまったく意に介していない。


「で、思い出したことって?」

リーグレの問いに、リープは睨み顔で返す。ガーストも。

「睨んでないで、早く話してよ。またおばけ退治で明るくなっちゃ、ほんとにヤバいって」

エビーの言葉に、ガーストは下を向く。リープも、しぶしぶ話し出した。

「思い出したのは、カーラジオの話だ」

「カーラジオ?」

皆が声をそろえる。「あぁ」とリープ。

「俺は家族で旅行に出かけているところだった。詳しくは覚えていないが、確か、その行方不明事件について話していたんだ。それで、その遊園地から、男が倒れて運ばれたってニュースを聞いた」

「男? 女の子は?」

エビーは怪訝な表情でリープの話を聞く。遊園地で、男が……。あれ、どこかで聞いたような――。

「いや。女の子については……。でも確か、お化け屋敷がどうとかって言っていた」

「それじゃ進展とは言えないじゃん」

「あ? うるせぇな、そもそもリーグレはなんでなんも知らねぇんだよ」

「僕は、ただ、女の子の声を聞いて、望みを叶えただけだから……」

「だからリーグレを責めないでよ。わかったわよ、お化け屋敷に何かあるって信じるしかないんでしょ」

エビーは私になにか言えとばかり、目配せしてくる。

「私も……きっとなにかあると思う……」

「さあ、出発よ!」

私が言い終わらないうちに、エビーは出口へ向かう。


お化け屋敷の付近は昨日と違う空気が流れていた。

昨日より生温かく、じっとりと、それでいてぞくぞくする、何かが纏わりつく感覚。

「嫌な空気だね」

リーグレが皆に注意を呼びかけ言った。

お化け屋敷と、その隣の四角い建物の間の位置に、誰か立っているようにみえた。

街灯に照らされ、ゆらゆらと揺れる、黒く細長い影……。

じっと見つめていると、気分が悪くなってきた――。グラグラする……。

「ヘデラ! イクセ!」

私と並走していたイクセも、影を見て気分が悪くなったのか、ぐらっとすると、膝からくずおれた。

「気をつけろ! 生霊だ!」

リーグレの叫ぶ声がする。ガーストが放った黒い渦に、影が飲み込まれるのが薄っすら見えた。ガーストは顔を伏せて、腕を高く上げ、リーグレに力を放っている。

リーグレのほうも、足を踏ん張って、影を包み込み消滅を試みているようだ。

「ぐわっ!」

ガーストが体勢を崩した。その反動で影のほうを向いてしまう。――と、ガーストは魂が抜けたように倒れてしまった。

「くそ! エビー、ユーニン、リープ、頼む!」

「え、どこ? 敵はどこにいるの?」

エビーがリーグレに問いかける。どうやら三人には見えていないらしい。ユーニンもリープもきょろきょろしている。

「お化け屋敷と、隣のミラーハウスの間だ! 三人いっせいに力をくれ!」

「わかった!」「わかりました」「任せろ!」

三人はおのおの攻撃態勢を整え、「いくよ!」というエビーの声に二人は頷き返す。

――三人と、リーグレの叫び声――。闇を祓う、光を帯びた声――。

「あれは?」

リープだろうか、ミラーハウスのほうに顔を向け、力を放ちながら、リーグレにその存在を知らせた。

薄れいく意識の中で、小さい白い影が、ミラーハウスに入っていくのが見えた。

「女の子? ミラーハウスのほうに!」

ユーニンも叫ぶ。まだ四人は、影を倒し切れていない……。

「あぁ、だけど、今はこっちで手一杯だ! 三人とも、意識を集中させて! もうすぐ明るくなってしまう!」

それから一呼吸おいて、再び四人の力んだ叫び声が響いた……。

それと同時に、私の意識は途絶えた。

読んでいただき、ありがとうございます!

皆様、良いお年を!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ