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ドリームランド  作者: こころ
11/19

おばけ

「……さん……着替え――……さん……ですね――」

遠くで、声がする。果てしなく遠い、向こうの世界から。

「――ラ……――デラ……」

あら、声が近づいた。それにさっきより、幼く、切実に響いている。

「ヘデラ!」

目を覚ますと、リーグレが深海のような瞳で覗いていた。

「よく寝れるわね、こんな状況で」

エビーの声が隣のベッドから聞こえる。顔をむけると、腕を組んでこちらを睨みつけていた。ユーニンもその隣に腰かけ、「おはよう」と言った。「暗いけど」とも。

「飯だ。早く食え」

リープが掛布団の上に、トレーを置く。いい香りだ。魚介類がちらほら香ばしく湯気が立っている。パエリアというやつか。

「こんなの、作れるんですね……」

おずおずとそう言うと、「はぁ?」と顔を顰められた。「作ったのアイツだけど」と部屋の入口を指す。扉に凭れかかっているガーストが見えた。その少し前に、イクセが崩した姿勢で立っており、「僕らは、もう食べたから」と小さく言った。

「ごめんなさい、寝すぎちゃって」

「大きな力を使ったんだ。無理ないよ」

リーグレが間髪入れずにそう言って、優しく私の手を取ったせいか、エビーの視線が鋭くなる。

「食べながらでいいから聞いて。僕達はもう、あまり時間がないんだ……。これ以上当てもなく女の子を探していられない……なにか、知っていることがないか、わかることがないか、ヘデラも考えてほしいんだ」

私はスプーンでパエリアを口に運びながら、リーグレの話を聞いていたが、力になれそうなことはなさそうだ。だって、女の子についての情報が少なすぎる。

「私、ずっと気になっていることがあって……」

ユーニンが小さく手を上げて言った。

「なんだい?」

リーグレが促す。

「はい、ここって遊具の配置がころころ変わるじゃないですか、置いてあるものも」

「あぁ。時空が歪んでいるからね」

「でも同じものもあって。入口のピエロの看板とか、コーヒーカップとか。それと、私が小さい頃に流行ったキャラの乗り物を前に見かけて……」

「それがどうしたの?」

エビーは私に接するよりは優しく問いかける。

「えぇ、私、その遊具があった場所、知っているんです。夢ランドって、家の近所で」

「夢ランド? あの、有名な? 俺行ったことないけど」

リープが少し前のめりになって話す。

「俺も、近所、だった」

ガーストが聞こえるか聞こえないかの声で呟く。

「夢ランドか……。あれ、待って。そういえば、僕がこの世界に来る直前に、女の子が遊園地で行方不明になったってニュースをしてたような――」

イクセは左手で支えた右手を顎に当て、思案する様子で思い出したように言った。

「あ、私も、確かそんなことを聞きました」

ユーニンは首を縦にふる。リープがエビーを見やり、顎で問いかけた。

「お前が初めにここに来たんだろ、お前、その話知ってるか」

「知らないわよ、そんな話」

夢ランド……行方不明……あぁ、なんだか聞いた覚えが……。私がいたビルの向かいに大型モニター付きのビルが建っていて、確か、その画面越しにニュースが――。

「他になにか覚えてる?」

リーグレが縋るように、ユーニンとイクセを交互に見る。二人は眉を寄せ、困った様子だ。

「確か、私がいたときは、夢ランドで、おばけ大作戦をやっていたような……」

「なにそれ」

エビーは足を組んで隣のユーニンに詰め寄る。

「お化け屋敷の幽霊役が、お化け屋敷の外にも出てきて、来場者を驚かせるイベントだ」

なぜかガーストがエビーに答えた。

「それがなんだ、まさか、おばけにさらわれたとでも言う気か?」

リープがげんなりして吐き捨てる。だが、リーグレは、希望をもって立ち上がった。

「行こう。お化け屋敷になにか手掛かりがあるかもしれない」

私も立ち上がる。リーグレが向かうなら、私も行かなければいけない、そう思ったから。


戦い自体は困難なものではなかった。昔、誰かが言っていた。怖い話は幽霊を集めやすい、と。お化け屋敷にも同じ原理で、おばけが集まってくるのだと、リーグレは言った。

「ちょっと! きりがないわ! どうするの、よ!」

エビーがリーグレを通して赤い弾丸を打ち込み続ける。もはや、腕を出さなくとも念じるだけで光が飛び交っていた。白く叫びを纏った煙は、空洞の穴をあける。

青い水の膜みたいなイクセのバリアの中で、女の子の姿を探す。――だが、見あたらない。というか、おばけの数が多すぎる……。

「なんだか、いろんなおばけがいますね……ほら、よく見ると獣ぽかったり、おじいさんみたいだったり」

ユーニンは呑気に、黄色い閃光を放って、それらのおばけを追い払いながら言った。

おばさんのような姿の白い煙が、バリアに引っ付き、揺らし、突き破ろうとするのを、リープの緑の光が包みこむと、おばさんは空へ飛んでいった。

「おい、今日やたらと雑魚が多くねぇか、全く前に進めねぇぞ」

イライラした声を上げるリープ。と、何体かのおばけが束となり、白い煙がとぐろを巻いた。かと思うと、こちらに竜巻のように突進してくる。

ガーストがいったん引いた身を、前に押し出すように力を込めて踏み出すと、リーグレ越しに黒い煙が、ぶつかり、押して、返して、押して返されたその瞬間、巻き込まれるように白い煙は、散り散りに消えていった。

だが、遊園地の端が薄っすらと明るんできたのと同時だった。

「……。いけない。今日は戻ろう……」

リーグレは唇を嚙みながら、明るむ空を睨んでいた。

読んでいただき、ありがとうございます!

引き続き、応援よろしくお願い致します。

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