ようこそ、最後のショーへ!
もう終わりにしよう。
ビルを噴き上げる風が、私を受け入れるように、誘うように、体を撫でる。
ここからなら、きっと。
「使えないね」「もっと身だしなみに気をつけたらどうだ」「ねえ、もう辞めたら?」
やめてやる。こんな世界、こちらから願い下げだ。
足を踏み出す。空を見上げる。星なんて見えない。
大きく息を吸う。自然と微笑みがもれる。
夜風が包みこむ。優しい抱擁、初めての、感覚。
誰かの金切声。――目を閉じる。
「やあ。大丈夫かい」
――私は、自由になれたのか。誰かの声。やんちゃな男の子のような。
「君はチャンスを掴んだ。お家に帰れるチャンスだ」
――お家? そんな、私はまだあの世界に?
願うように目を開ける。黒いニットにマントを羽織った、無邪気な男の子が私を覗き込んでいる。
「さあ、手を取って。ようこそ、ショーへ!」
差し出された手を、事態を呑み込むために掴む。くらくらする。
なに、ここ。遊園地? でも外側は何もない――真っ黒だ……。夜の闇に浮かび上がる魅惑的なライトの明滅。不気味にはにかむピエロの看板……。
「僕は君にとって悪魔にも、天使にもなりうる存在。死神だ。君のすべてを僕にあずけてごらん。言葉はいらないよ。それが僕の力に、君がお家に帰るための切符になる」
満面の笑み。無垢で、穢れのない。死神とかイタいことを言っていても、こんな顔で言われると、可愛らしい、と受け入れてしまえそう。
ガゴン、と音がして、遊具がゆっくり動き出した。私と彼以外、誰もいないのに。
やっぱり、ここが――。
「安心して。君はまだ死んじゃいない。僕がついているからね」
そんな。でも、ここはあの世界じゃない。どう見ても。いったい――。
「さあ、おいで。楽しいショーの始まりだ!」
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