思惑
王都のとある酒屋。冒険者や衛兵の格好した者達がよく集まりエールを飲み交わし騒いでいる角の席に、深くフードを被り性別も顔も分からない人物が座っていた。
そこに1人同じくフードを被った者が店に入ってくる。店員に一言話したかと思うと、角の席に歩を進め怪しい人物の向かい側に座る。
「急ぎ報告したいと連絡したのはお前だったか」
「ええ、何かあれば報告しろと仰ったのはあなた方ですから」
コートの中から手紙を出しテーブルに置き滑らせるように渡すと立ち上がる。
「ここに書き記していますので失礼します……約束した事は守って下さいね」
そう言うと今すぐにでも離れたいというように数歩進んだのを呼び止めるように声をかける。
「ええ、私の計画が成就した暁には果たしましょう。それまで監視続けて頂戴ね――くれぐれも余計な考えを企まないでね……あの子がどうなってもいいのなら構わないけども」
いきなり女性らしい声音と言葉遣いになった人物に驚きも振り向きもせず、拳を固く握ったままゆっくりと酒屋の戸を開き外に出る。人を避けるよう路地裏に入り、着いてきていないことを確認すると忌々しげに拳を石壁に叩きつける。
「クソッ……あの女狐が――……」
舌打ちしながらコートの中から石を取りだしたかと思うとそれを壊しこの場から消え去った。
――後宮――
「只今戻りました」
「渡された手紙は?」
蝋燭の灯りしか無く辛うじて人影が認識できる程度の薄暗い部屋に、女性とその女性に傅くフードの人物がいた。恭しく渡すと手紙を読む女性が不気味に笑う。
「くく……そうかそれは実に面白くなるな。モンドール教会に行き伝えよ――早めろと」
「――はっ……手紙の内容は如何なさいますか」
「まだ話さずともよい。彼奴等は暴走する癖があるからの……確信してからでも遅うなかろう」
「ではそのように致します」
誰もいなくなった部屋に、女性は王宮の方角が眺められる窓際に近付くと手を置き愛しそうに滑らせる。
「後少し――後少しの辛抱じゃ……我が一族の悲願が叶うまで」
ふるふると肩を震わせると喉奥からくくくと声を漏らし、耐えきれず狂ったようにひたすら高らかに後宮に笑い声が響いていた。