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魔法実技1

 殿下に新しいメンバーを入れるのはどうかと言ったもののどうしたものか。

 構内に造られている庭園のベンチに腰掛けながらうーん、と唸っていると隣に誰かが腰掛ける気配がする。


「こんにちは、フローリア先輩」

「えー……と?」


 誰だろう。ハニーブラウンの癖がついた髪の毛、垂れ下がった青緑の瞳の左下に泣き黒子がついていて見た目はかなり遊んでそうな青年が甘いマスクで私を見つめていた。先輩、と言われたので多分後輩なのだろう。

ただこんな美青年なら必ず覚えてそうな気がするのだが、どうしてか社交界で見た事がない。


 青年は私が困っていることに気づき、立ち上がり対面し礼しながら挨拶をする。


「これは失礼いたしました。私、マルク・シモン・ジャルディーノと申します」


 その名前を聞いてサーッと血の気が引く。急いで立ち上がりお辞儀する。


「失礼いたしました!私、コーネリア王国のエレノア・フローリアで御座います。――セネヴィル国である第三王子に無知で――」

「あぁ、いいよそんな形式ばった挨拶じゃなくて。ここでは僕もただの留学生さ」


 いいから、と言って彼の言う通りに座ると満足したように先程のように座席しベンチの背に腕を乗せる形で頬杖ついて私を見る。

 視線に耐えつつ彼が喋るのを待つ。


「…」

「……」

「………」

「…………」


 沈黙が長い!え?何?なんなの?この人はなんでひと言も喋らないの!?なんで無言でこっち見てくるのよ!

 耐えかねた私は要件は何か口を開こうとする。


「――あ」

「ねぇ、」

「はい、なんでしょう」


 あっぶなーい!喋るタイミング被るところだったわ!

 若干声が出たものの表情は外面スマイルで彼に向けて応える。


「さっきさ、生徒会フロアの食堂で話してたよね?」

「何の話のことでしょうか」

「生徒会メンバーを増やす話」


 ……なんでそれを知ってるんだろう。

怪訝な瞳で見ているのを悟ったのか慌てるように弁明し始める。


「僕ってさ、昔から耳が良くて――まあ、良すぎたから体調をよく崩していたんだけどね?それで君達の会話が耳に入ってきたんだ」


 本当だよ?と困ったように笑う彼に溜息つき彼を見る。

 確か今年の新入生代表だった筈よね…なら、それなりに頭が切れるだろうし入ってくれると助かる。それに、彼からお願いしに来なくとも遅かれ早かれ彼の名前が出てきただろう。


「他の方々にも聞いてみますが恐らく採用されると思います」

「ほんと?嬉しいなぁ」


 彼は私の前に跪くと手を取り、恭しく甲にキスを落とした。そして上目遣いで甘い笑顔を見せるとよろしくね、フローリア先輩と言って去って行った。

 消えた方向を眺めながら、とりあえずは1人目獲得ということでいいのかしら?と呑気に思っていた。



◇◇◇



 昼休憩も終わり、1年と3年の合同魔法実技の授業に私は参加していた。参加、とは言っても無属性と判断されている私は記録係としてだけれど。

 無属性の人達は普段実技の時は別の授業をしているのだが、今日は自習となった為魔法実技に参加することに決めたのだ。


「はーい、じゃあ2×2で4人パーティーになってちょうだい」


 この言葉を皮切りに女生徒は狩人の目になり如何にして殿下達とペアになるかとお互いを牽制し合っている。


 こ、こわっ!!!無属性で良かったー


 その光景を眺めていると後ろから先輩と声をかけられ振り向くと昼に会っていたマルク・シモン・ジャルディーノが人懐っこい笑顔で近付いてきた。


「フローリア先輩はまだ組んでないよね?一緒にやろうよ」

「ジャルディーノ様私が手に持っている物が見えていないんですか。私は記録係です」


 ほら、と記録用紙を見せると唇を尖らせて不機嫌な表情になった。


「名前で呼んで。俺、ファミリーネーム嫌いなんだよね、あと敬語もなし」

「……王族の苗字でしょう。まぁ、長いのでそれではマルク様と言いましょう。敬語は仲良くなればですね」

「様も要らないんだけど……じゃあ、先輩のこと名前で呼んでいい??」


 どうぞ、と応えると嬉しそうに両手を広げ抱きしめようとしてきたので全力で拒否してると背後から引っ張られぽすん、と誰かの胸に収まる。まぁ!と可愛らしい声と黒いオーラが背後の人に突き刺さっているような気がする。


「あらヴォルフにセザールどうしたの?」


 誰かと思えばこの2人で、私はヴォルフの胸に収まっていたのだと知る。

 皆の前だと殿下だけ名前呼びじゃないと変に思われる為ヴォルフから離れながらそう呼ぶと一度だけ私を見て微笑むと殿下は王子に目を向ける。


「こうして学園でゆっくりお会いするのは初めましてですね。挨拶が遅くなり申し訳ない、セザール・ヴィーク・ジークハルトだ。貴殿と1年間だが同じ学園に通える事を嬉しく思うよ」

「……これはこれは殿下にそう仰って頂けて嬉しい限りです。マルク・シモン・ジャルディーノで御座います……そうだ、どうです?お互いの親睦を深める為パーティーを組みませんか?」

「それはいい考えですね。リナ、それでいいかい?」


 え?待って、殿下リナちゃんの事いつの間に呼び捨てになったの!?

 殿下の後ろに隠れてリナちゃんはマルク王子を警戒しているのか、ジト目で見ながら頬を膨らませているが頷いてみせた。


 ちょっとヴォルフ私が食堂から出たあと何があったのかkwsk(くわしく)!と全面に顔に出して見るもマルク王子の方を睨んでいて気付いてくれなかった。そしてそのまま先生の所へ向かって行って私、殿下、リナちゃん、マルク王子の4人が残る。


 ちらちらと成り行きを見ている生徒もいるが、関わろうとはしていない様子でこの状況を何とかしようと行動に移す。


「この3人はチームという事でいいかしら。後はマルクさんもう1人連れてきてくださいね」

「あー、俺のペア決まってるんだよね……メイリン」

「はいハーい!やっと呼んでくれたアルネ!待ちくたびれたヨ」


 弧を描きながら回転して王子の隣に綺麗に止まる動きやすそうだが派手な格好をした少女が軽快に笑う。濡鴉のように艶やかな黒髪を二つ団子にし、その下に三つ編みが2つずつ揺れ動いている。茶色がかった黒目で目尻には派手な赤いアイシャドーがかかっており目を惹く。


「わたシ、ヤン・メイリンね!華慧(かすい)国出身でヤン一族の14番目の娘ヨ、マルクとは許嫁ね!」


 そう言うとマルク王子に腕を絡ませ寄り添うようにして微笑む。

 華慧国とは、武術……特に体術に長け、珍しい織物や食器、武器製造も得意な東洋で1番大きな国である。……そしてヤン家は確か華慧国の歴史にも載る程の武器製造に長けた一族だったはず。そんな大国の娘とセネヴィル国の王子が婚約したなんて聞いたことも無い。殿下も顔には出さないが不審に思っているだろう。


「へぇ、そうだったのか。でも僕の所にはそんな話聞いたことも無いよ」

「……まだ正式に決まった訳では無いので発表していないだけですよ」

「でも時間の問題アルよ」


 ムスッと唇を尖らせて抗議するメイリンの手を外し離れる王子。

 何だか訳ありそうねと考えているとヴォルフが戻ってきた。


「おかえりヴォルフ」

「あぁ」

「うわぁー!!お兄サン格好良いネ!滅茶苦茶タイプね!!!!」


 ワーワーとヴォルフに駆け寄りながらメイリンは自分の手を組んで瞳を輝かせ何度もジャンプする。

 見るからに嫌な顔を見せ、誰こいつと指差して無言でアイコンタクトしてくる彼に仕方なく紹介した。


「ヤン・メイリンよ。マルクさんと同じく留学生」

「ふーん」

「お兄サン、名前は??」


 目を輝かせたメイリンに一瞥するとヴォルフは吐き捨てるように応えた。


「教えねー」


 ……貴方人見知り発動してるんじゃないわよ。


「彼はヴォルフガング・フォルスターよ」


 仕方無しに私が変わりに紹介する。彼女はふーん、と私とヴォルフを交互に見ると一瞬笑った気がした――と思ったら次の瞬間にはヴォルフの腕に絡みついてきた。


「ワタシヴォルフ先輩とチーム組みたいナ〜」


 …………なんですって?


 殿下とマルク王子がチームを組むことに決定した事を知っている筈の彼女があろう事か殿下のチームを蹴ってヴォルフと組みたいと言い出したのだ。


 流石に驚いた私達とふざけるなとでもいうように手を振り払うヴォルフ。彼女はきょとんとしていて悪気は無さそうだ。


「俺はこの授業見学するから出ねーし知らねー奴と組む気ないんだよ」

「えぇー残念――じゃあ、親睦深める為にも終わったあと一緒にお茶ドう?」

「……絶対行かね」


 あぁ〜……氷点下になっちゃう……

 ヴォルフは機嫌が悪くなると魔力が漏れて周りの気温が低くなる。さらに酷くなると氷が張ってくるので、その事を知っている私と殿下は目配せすると、殿下はチーム決まった事だし先生の所へ向かおうと言うとこの場を離れた。


「はぁ…ほら、行ったわよ」


 だから機嫌直してちょうだい、寒いから!と睨むと魔力漏れは収まる。


「あなたねぇ……いい加減機嫌悪くなると魔力漏らすのやめてくれないかしら?」

「……そうすりゃ早く離れてくれるんだからいいだろ」


 ぶっきらぼうに頭を掻きあげ溜息を吐きつつ応えるヴォルフにどこか引っ掻かる。…………まさか――


「あんた今までわざとやってたの?」

「当たり前だろ。そうすりゃ勝手に機嫌悪いんだろうと離れてくれるんだから楽なんだよ」


 なんて奴だ。その臀を今まで拭いていた私はとんだピエロだ。


「あんたねぇ――」

「フローリア君、全員組み終わったから始めるぞー」


 先生の呼び声に止められた私はヴォルフを少し睨みつけた後、行くわよと呟いて歩き出した。

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