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提案

「一体何考えているんですか!?」


 放課後学園長室に生徒会全員で押し込み、我慢ならなかった私はバン!と机を叩いて座る学園長を見下ろす。

 学園長は怪訝な目で私達を見たあと溜息を吐くと手と足を組んで鋭い瞳で見返した。


「先制かけて話をしただけだ。遅かれ早かれ彼女の魔力量の多さに不審に思う者が現れたことだろう」

「それは……」

「無い、とは言いきれんだろう?」


 唇をきゅっと結ぶ。今朝の出来事を思い浮かべると納得するしかない。

黙って俯いた私に殿下が変わりに口を挟む。


「それでも些か強引過ぎたのでは。アリア様と勇者様の血縁以外でも良かったのでは」

「じゃあ君は彼女の光魔法と宮廷や教会にいるへなちょこな光しか出せない者達と一緒だと思うのか?あれくらいオーバーに言わなければ出自を直ぐに調べられるだろうよ」


 今度は殿下が唇を結んだ。これは完全に私達の負けだろう。コンラートが眼鏡を上げながら話しかけた。


「しかし快適に過ごして欲しいと仰っていたじゃないですか。これではほかの貴族達がここぞとばかりに彼女を取り込もうとするのでは」

「そこは私の出番ではないだろう?君達の領域だ……なに、学園内は全て私が把握している。街は広いが把握しようと思えばいつでも出来る、君達が心配している奴等はそう簡単に動けないだろう」


 つまり、外敵は何とかするが生徒間の問題はお前達がするべきだということだろう。それが私達の役目なのは分かっているけど釈然としない。

 そんな私の肩にヴォルフは手を置いて諦めたような顔を覗かせると腕を掴まれる。


「学園長が仰りたいことは理解しました。ここで既に終わった話を延々とするつもりは無いので失礼します」

「ああ、分かってくれて何よりだ」

「え?ちょっと!?まだ言いたいことあるんだけど!?離してくれないかしら!?」


 私の言葉を無視し、他の人にも行くぞと顎で合図したヴォルフは私を引き摺りながら学園長室を出た。


「離しなさい」


 虫の居所が悪い私は掴まれていた腕を振離すが、平然と痛くもなさそうな顔で私を見下ろしている。

 その冷静な態度にらしくなくカッとなった私は声を上げそうになる。


「放課後とはいえまだ人が残っているし、特別フロアとはいえ人が通らない訳じゃないから今後の話は生徒会室でしよう」

「……ええ、そうしましょう」


 殿下の言葉に少し冷静になった私は、ヴォルフに対して八つ当たりしそうになった事に恥ずかしくなって、目を合わせられなくて足早に生徒会室へと向かった。



◇◇◇



 生徒会室は学園長と同じく特別フロア内にあり、差程時間も掛からずに着いた。私は彼等の飲み物を淹れに給湯室へと入る。

 給湯室には様々な種類の茶や豆が置いてある為、保管庫もついていてそこから珈琲豆と紅茶を取り出す。紅茶は私しか飲まない為、最初に時間のかかる珈琲を淹れていく。魔道具コンロに湯を沸かしつつサイフォンで豆を挽いていく。均一になるよう豆を挽き終わった所で湯が沸き、器具を温める。

 麻布を使ってドリップして珈琲カップに人数分の珈琲を淹れる。


 ……珈琲も前世のようにインスタントがあればいいのに。


 いっそ作ってしまおうかなんて事を考えつつ自分の分の紅茶を慣れた手つきで淹れると、人数分のカップを紅茶と角砂糖をトレイに乗せて持っていき置いていく。

 トレイはどうせまた使うからテーブルの上に置いて席に座る。


「いやぁ!エレノア嬢すげーな!学園長に乗り込みに行った時こんな目してたぜ!昨日仲良くしねーって言った時嫌な事言うと思ってたけど気にかけてくれてんだなー」


 人差し指で目を釣りあげながら向かい側に座って私の真似をするクリストフ。


「勿論昨日話したことに変わりはありません……ただ、今日の事は明らかに生徒会にも影響がある事だと判断したまでですわ」

「……やっぱ嫌な奴だな」


 内心、滅茶苦茶リナちゃんを心配していていきなりの図星を刺され動揺しつつも平然とした顔で落ち着く為に紅茶を1口飲む。


「まぁ、確かに学園長が話した内容は些かオーバーな所はあるが事前に策を取るのは間違ってはいないからね……うん、エレノアの淹れた珈琲相変わらず美味しいね」

「ありがとうございます、殿下」

「私はもう少し焙煎されてる方が好きだがこれも悪くない」


 コンラート、貴方一言余計なのよ。

 この草野郎の頭を叩きたいところだが笑ってこの場をやり過ごす。


「それで――今後についてだが、クリストフにはオスカー君同様密かに護衛を頼みたい。僕達も出来る限り傍にいた方が他のご令嬢ご子息も手を出し難いだろう」

「は!クリストフ・ゲーアノートは殿下の命、しかと受けとり致します」

「殿下のご命令と有れば喜んで承ります」

「…………」


 三者三様の反応で、私はというと紅茶を優雅に飲みつつ、生徒会の仕事内容のみならばと返事をしておいた。

 これで話は終わり解散したのだが、私は後に後悔することになる。


 ――……ヴォルフと私を除き、皆かなりリナちゃんに対して過保護に接するようになり、それを見て殿下達を慕っている令嬢達がリナちゃんを妬むようになったのだ。

 私はというと、リナちゃんに悪役令嬢ムーブを起こす度に何故か尊敬のような(違うと思いたい)眼差しで見られ、その度に何故か殿下に睨まれる事になっていた。


 そんなある日、遂に耐えきれなくなった私は食堂で提案をしたのだった。



「うん、いい考えだね、そうと決まれば……」

「お待ちを殿下、私達は今年度で卒業の身……そしてリナ嬢も三年生です。そんな彼女を1人加入させたらまた問題があると思うのです。ですので、各役員の補佐数名を1、2学年で決めるのは如何でしょうか?」


 そうする事でリナちゃんが生徒会に加入するという内容より、生徒会が何名か加入させるという内容の方が大きくなり、殿下や上位貴族である私達と仲良くなれるチャンスだと考えるだろう。


「あの、私も入れて頂けると助かります。給仕はお任せ下さい」


 相変わらず胡散臭い笑顔を張り付かせて私達にお願いする。

 確かに聖女の護衛なのにその間一緒に居ないのは困るわよね。


「学園長の改革方針により編入生を試験的に生徒会補佐役として任命させるという形でいけば大丈夫じゃないかしら?」

「……うん、いいだろう。人手不足なのは確かだからね」


 話が終わったところで私は用が無くなったので席を立ちそれでは御機嫌ようと伝えこの場を去ろうとしたら彼女に引き留められた。


「あああの!」

「なにかしら?」

「そそそその、これからよろしくお願いします!!」


 令嬢らしからぬお辞儀に何か言わねばならないが、今日はリナちゃんに結構言ってしまったので黙っておく代わりに


「こちらこそ……編入生だからといって特別扱いはしませんわよ」


 と応えたのだった。


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