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レヴィ男爵令嬢

 運が良かったのかエントランスホールには生徒はおらず、内心ほっと胸をなで下ろす。

 空いている手で繋がれた手に重ねてそっと離す。ハッとした表情で振り返ったリナちゃんは申し訳なさそうに私を見る。


「えっ……とわたし、」

「編入生さん、ここがエントランスホールでございます。各フロアごとにS〜Cクラスに分けられておりまして、ここエントランスホールの階段がSクラスに続く階段となっております。最上階がSクラスの3年生の部屋となっており私はAクラスですのでここでお別れでございます」

「え?あ、はい……ありがとうございました」


 戸惑いながらも編入生さんと主張する私に合わせてお礼をしているとガチャリ、と先程私達が入ってきた扉から備長眼鏡をかけた焦げ茶の髪をおさげにした少女が数冊の分厚い本を持って入ってきた。


「あら、レヴィ男爵令嬢じゃありませんか?」

「……へぁ?ははははひ!?ふふふふろーりあここ公爵令嬢様!?」


 声をかけてしまったせいか本を落としそうになっている彼女にリナちゃんを任せようと声をかける。


「貴方確かSクラスだったわよね?ちょうど良かったわ!彼女、明日編入するんだけれど案内していただけませんか?私恥ずかしながらAクラスでしょ?ですので是非お願いします」

「へ、へんにゅうですか?――ほぅ、この髪や目は東洋出身でありますか?けど文献よりもどこか勇者や聖女寄りのお姿に見えますな」


 クイクイっと眼鏡を上げながらリナちゃんに近寄り興味津々といった様子で隅々まで眺める。


「ね?お願いできるかしら?」

「ほぁ!?こここここ公爵令嬢様任せてください!わ、私が責任持って案内しししし失敗した時はこの命で贖います!」

「いや……そんな重要なお願いでもないので命を賭けなくても……」


 彼女の慌てぶりに苦笑いしつつもリナちゃんとレヴィ嬢が階段を上がって見えなくなるまで手を振る。見えなくなったところでAクラス専用へと続くフロア階段へとエントランスを右に曲がり自室へと歩を進めた。



 ◇◇◇



 迎えた始業式の日、寮門前(街側)には馬車が並んでいる。これも恒例化していて、貴族達はどうしても反対側の扉(学園側)からは出ようともしない。貴族としての矜恃を守るためだそう。私としては学園にすぐ行けるので効率の方を重視している。

 そもそも馬車で行くと遠回りになるから早く起きなきゃいけないし、更にあの行列の中私の馬車が来るまで待つのも大変だし馬車で行く意味があるのか?と思ってしまう。


 そういう訳でいつものように学園側の扉へと歩くと昨日リナちゃんの案内を丸投げした彼女がひょこひょことおさげを揺らしながら歩いている。


「おはようございますレヴィ嬢」


 声をかけるとぴゃっ!と変な悲鳴をあげておさげが宙に浮かぶ。慌てて振り返る彼女がさらに私を見てあばばばばばと顔を真っ赤にしてキョロキョロと辺りを見渡して自分を指さして首を傾ける。


「わ、わわ私でございますか?」

「……レヴィ嬢以外に同じ名前の方がこちらにいらっしゃいますか?」

「いいいいいいませんんん!おはようございますすすすす!!!」


 勢いよく90度綺麗に腰を曲げてブォン!とおさげが唸りをあげる。

 大きな声で挨拶されたからかチラチラと私達を遠目で見ながら囁かれているのに気付き、何とかしてレヴィ嬢の頭を上げる。


「レヴィ嬢、あの後のお話をお聞きしたいのですが宜しいですか?」

「あっ…はい、仕事の事後報告の件ですな。了解致しました、歩きがてらで宜しいですかな」


 急に吃らなくなったレヴィ嬢に圧倒されながらも、彼女と一緒に歩こうと思っていたので一緒に寮を出た。


「フローリア公爵令嬢様と別れたあと案内しつつ会話をしました。彼女はやはり東洋の生まれでしかも高貴なお方を母君に持つご令嬢だとお聞きしました。そこで探究心に火がつきまして簡単に属性が分かる紙を渡したのですよ…すると光りまして驚きました!彼女は素晴らしい逸材ですな!」


 ……待って?かなり饒舌になり過ぎてないかしら?

 恐らく彼女は普段は萎縮して狼狽するが、スイッチが入ると途端にマシンガントークになってしまう所謂〇〇オタクという類のやつなのだろう。私にも見覚え……というか私自身がそうなので黙って聞いている。


「それで彼女は魔法についてとても興味津々でしてそれで私、魔法薬を教えて作らせてあげたんですよ……それが素晴らしい逸材だと思った所存であります!」

「へぇ、……魔法薬を…………え!?ちょっと今それ持ってますの!?」


 綺麗に聞き流す所だったが聖女の彼女が魔法薬を作れば初級でも高級ポーションになってしまうんじゃないの!と内心ではかなり慌てていた。

 いや、現実でも少し慌てた。


「ええ……持ってますよ。魔法薬学の先生にお持ちしようと思いまして……て返してください!これは私と彼女の結晶ですぞ!?」


 蓋がされている瓶をレヴィ嬢が取りだしたと同時に奪い取って飲み干す。サイダーのような味で体内のマナが予想以上に大きくなったので体外にバレないよう石を作成し学園バッグに入れる。


「……レヴィ嬢」


 私の雰囲気に何かを察したのかすみません無礼なことをと何度も何度も頭を下げる彼女。私は手で静止をかけてため息を吐くと周りを見渡してから話す。


「……彼女は学園に――この国へ来たのはまだ少ししか経っていないと聞いております。勿論、彼女の魔法が素晴らしいことはよく分かっております。ですが、優秀すぎるが故に危険も隣合わせでございます。ですので編入生ご挨拶までは誰にも知られる訳にはいかない事、分かりますね?」

「ははははははははいいいいいいぃ!!!」


 浅慮で申し訳ありませんんんんん!と叫んでいる彼女に気が抜けて笑ってしまう。


「そういう事ですので、彼女が編入する日まではこの事は私達の秘密ということでお願いします」

「ああああのぅ………」


 恐る恐るといった形で手を少し上げてレヴィ嬢が何度か口をぱくぱくさせた後、意を決したように話し出す。


「彼女は今日が編入日ですよね?ちちち、違っていたらすみません!ですが彼女が学園長から今日講堂に来るようにと聞いておりまして!!」


 ………え?

 ドキュンでは、新学期が始まって2日後くらいにヒロインが登場する。そこで道に迷い、攻略対象達に出会うのだがどうしてこういう事にと考えるがそもそも、学園長室で皆会ってることを思い出す。


 え?つまりあの時から狂ってきてるってこと?私が介入し過ぎたせい?

 黙り込んだ私に彼女は怒ったと誤解したようで、何度も頭を下げ凶器と化したおさげを抑えることに集中した。

 講堂へ来るのなら、恐らく学園長が何かをするということなのだろう。なら、その前に聞き出せればいいだけだ。


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