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新たな協力者

 謁見後、キャメラの開発を進めたり新しいデザインのドレスを身にまとって広告塔としてパーティーやお茶会に出向いたりしたくらいで、問題が起きることも無かった。そしてスプリングホリデーが終わる5日前に学園から手紙が届く。



「学園長にも話を通していたのね」

「みたいだな」


 ヴォルフにも届いていたようで、どうやら生徒会のみにしか送られていないのだろう。


「それに読んだら処理するようにって書いてあるから確実よね」


 指で挟んだ手紙をひらひらとさせ背後にいる彼女にも聞いてみる。


「ねぇ?レイ」

「恐らくそうだと思います」


 あの日以来、ヴォルフが訪ねてきた際に「お嬢様、仰いましたよね。使用人である前に大切な親友だと。でしたら大親友の私に隠し事せずお話下さい」と無表情で圧をかけてきたのでこの円満破棄団に新たに加わったのだ。

 最初は抵抗したが、最終的に無表情で地べたに寝転がり手足をバタバタさせる彼女の無表情ながらもその必死さにドン引きしつつ教えるしか無かったのだ。

 どこでそんなの覚えたのかと聞いたら、書庫にある"言うこと聞いてくれない時に行う100の行動"という本に書いてあったと告げられた時は頭を抱えた。なんでそんな本が家にあるのよ……

 そんな訳で前世の話やゲームの事は端折って王太子と聖女くっつけようとしていることだけを伝えた。

 だってゲームの話したら絶対ヒロインも攻略者も殺しに向かいそうだもの。人命救助よ、うん。


「コレ燃やしてちょうだい、後学園に行く準備を」

「畏まりましたお嬢様」


 手紙を持って彼女は一礼すると部屋を出ていく。しん、となった部屋で私はヴォルフに向き直ると頬杖つき不貞腐れたような顔をして明後日の方向に顔を向けていた。


「貴方……いつまで不貞腐れてるのよ。仕方ないじゃないあれだけお願いされたら教えるしかないでしょ」

「いや、それは別にいいんだが……」


 じゃあ何が不満なのよ。ジト目で促すも全く話そうとはしない。レイが新たに加わってから2人きりになるとこの押し問答が続いてもやもやする。言いたいことあるなら言いなさいよばか。


「ねぇ、そろそろ機嫌直してくれない?こんな状態でずっと居られるくらいなら作戦から抜けてもらってもいいのよ」

「…………はっ、あの使用人が来たから俺はもう用済みって訳か――だが」


 立ち上がるとテーブルに手をつき対座する私の顔に寄せるヴォルフ。何か言おうと口を開きかけたそれよりも早く私は口を挟んだ。


 ――腹立ったからだ。


「用済み?なんでそんな事言うのかしら。人間は使い捨てでも何でもないわよ。ヴォルフはヴォルフ、レイはレイよ代わりなんていないんだから」


「それに、貴方が私の次に作戦を1番よく知ってるのよ……パートナーでしょ私達……でも嫌なら他人に話さなければいつだって抜けてもらって構わないわ」


 言い切った後に本当に抜けるんじゃないかと不安になってきて、太腿の上で拳を握りしめて下を向きギュッと目を瞑る。ただ、何時まで経っても言葉を発さない彼にしびれを切らして顔をあげる。


「ヴォルフ?」

「あーーーー……情けねー……」


 背もたれに上半身任せ天を仰いで片腕で目を覆い尽くして嘆いているヴォルフに目を瞬かせる。背もたれから上体を外してなぁ、と声をかけられる。


「さっきのもっかい言って」

「え?用済み?なんでそんな――」

「いや違う最後の」

「他人に話さなければいつでも抜けてもらっても構わないわよ」

「いやその前」

「パートナーでしょ私達?」


 その言葉を聞いたヴォルフは私に人差し指を突き立てた。


「もっかい」

「パートナーでしょ私達」

「もっかい」

「…パートナーでしょ私達」

「もっかい」

「……パートナーでしょ私達……って何回言わせるのよ!罰ゲームなの!?」


 何回も言うと流石に恥ずかしくなってきて立ち上がって抗議すると、嬉しそうに上目遣いで私を見ると破顔した。いきなりの上機嫌さに戸惑うが、イケメン×神々しさに眩しすぎて私の目が潰れそう…というより潰れてるわよね?あれ、私滅びの呪文使われた?


「すまん、もう問題ない。抜けないし協力するから」

「…抜けたいと言っても無理矢理協力させるから」

「んな事言わねぇよ、じゃ俺も出発する準備あるから帰るわ」


 立ち上がったヴォルフは私の頭に手を置き数回優しい手つきでぽんぽんとたたかれ、その手を私の横髪へと動かす。そのまま髪ひと房を手に取って流れるように滑らせて名残惜しいように離れていった。


「お見送りは――」

「要らないのよね!分かってるわ!!レイ!ヴォルフがお帰りよ!!」


 ヴォルフの言葉を遮って小型通信機で命令した私は彼の背中に手を当てて急かすように部屋を退出させると閉じた扉を背にズルズルとしゃがみへたれ込んだ。


「な、なにあれ……」


 胸がトクトクと早鐘を打ったように跳ねている。片手は胸に、そしてもう片方の手はヴォルフに触られた髪の毛を握り締めてさっきの出来事を思い出して更に心臓が破裂しそうになる。


 ……スチル供給過多による発作が!


 2度も間近で休む間もなく連続で見れたらそりゃあスヤァ…て昇天してしまいそうになるわよ!

あの手つきと優しく――でも獲物を捉えたようなそんな気持ちにさせるような瞳で見つめられ、更にあの不敵な笑みと襟から覗く魅惑的な鎖骨――……


 …………そこまで想像して止めた。


 あまり思い出すと私の心臓が危ないわ。それに暴走してキャメラ持って連写して挙句の果てには盗撮までしてしまいそう。

 心を強く持て、私。盗撮ダメ、絶対。


 正常な判断が出来るまで心を落ち着かせると立ち上がって扉を開けると――……


「お嬢様、準備終わりました。いつでも出立可能です」


 レイが立って待っていた。

あれ?なんかデジャブ?


「そう、でもお父様にも挨拶したいから明日にするわ」


  いつも使用人達が綺麗にしているといっても床に座ってしまったドレスでダイニングルームに行く訳にはいかず、部屋に着替えに戻るわと言って歩を進めた。


「お嬢様」

「ん?どうしたの?」

「お嬢様のお部屋に続く道と真逆です」

 

 ……まだ落ち着いてなかったようだ。

顔が赤くなってきてるのが自分でもわかる。


「わ、わざとよ!」

「……」


 我ながら変な言い訳だと思う。レイも無表情なままだけど責めてる気がする。

でも、何も言わないことに助かりながら方向転換させて今度こそ自室へと歩を進めた。



◇◇◇



 夕食後、お父様が帰ってくるまで自室で本を読んでいると時計の針が上を向く頃に馬車の音が聞こえ、3月だといっても夜は肌寒い為白いガウンを羽織ってランプを持ってエントランスへと向かう。


 2階の吹き抜け部分から顔を覗かせると、丁度玄関先で執事にコートを手渡している所で視線に気付いたのか上を向いた。視線が合うとフォレストグリーンの瞳を輝かせ微笑んで私の名前を呼ぶ。

 階段を静かに降りるとお父様に近付きおかえりなさい、と遅くなったが出迎えた。


「起きていたのか」

「はい、明日学園へ戻りますのでその前にご挨拶をと思って」


 理由は知っているだろうから割愛させて貰い、微笑んで見上げると淋し気な表情で頭を撫でられた。

 優しい手つきに癒されされるがままになってるともうホリデーは終わりかとお父様が残念そうに呟いた。


「また次のホリデーには帰ってきますし一生のお別れでもないんですから…」

「分かってるけど可愛いノアに暫く会えないのかと思うとお父さんはやっぱり寂しくなるんだよ」


 全て授業を無くせば休みになるんじゃないかと真剣な表情で呟くお父様に呆れてしまって苦笑する。


「ノア」

「はいお父様」


 よからぬ事を考えるのをやめて真摯な面持ちになったお父様に、真面目な話をすることを察知して姿勢を正す。


「陛下や学園長の命だとしても危険だと判断した時は投げ出していい。自分を優先させなさい」

「お父様、私はいつでも自分優先ですのよ……ですがお父様の忠言、ありがたく頂戴致しますわ」


 形式的にお辞儀をして顔を上げると満足そうに頷いてジャケットのポケットに入れて小さな箱を取り出した。


「受け取りなさい」

「これは?」

「瞬間移動石だ」


 ……瞬間移動石。お父様……いくらなんでも過保護すぎませんか?

 瞬間移動石とは、数が少ない魔術師達が錬金術で錬成して造られる代物で魔道具とは違い1回使用したら割れて無くなる。それにすごく高価である。


「このような高価な品を学園に行く為だけに使用する訳には行きません。ですが頂いておきますわ」

「いや、使用して――」

「お・と・う・さ・ま?」


 有無を言わせない笑顔で黙らせると今年だけ何故そんなプレゼントをしたのか理解しているからこそ心配させないように言葉にした。


「お父様が心配していることは重々理解しております。ですが、だからこそこのような移動方法を使うと怪しまれます。ですのでいつものように馬車で学園へと向かいますわ」

「……そうか、そうだな…すまないね。逆に危険に晒そうとしてしまった父を許してくれ」

「私のことを思ってのことですので怒れる訳ありませんわ」


 お互いにくすりと微笑すると明日早いんだからもう寝なさいと言われ部屋まで見送られた。

廊下を並んで歩いてる間、お喋りもなかったけれどどこか居心地良かった。


「おやすみ、ノア」

「おやすみなさいお父様」


 部屋に入ってベッドに仰向けに寝転ぶとさっき貰った箱を開けて瞬間移動石を取り出す。月明かりに灯されうっすら青い色し半透明に透けている石を眺める。

 半日移動距離を1回5000万アリーで済ませようと考えていた(100アリーで前世でいうダイ〇ー商品が買える)お父様を思い出して笑ってしまう。

 使う機会が無いだろうと思いつつ、お父様からの優しいプレゼントを肌身離さず持っていようと考えながら瞼を閉じて眠りにつく。




 まさか、こんな使い方をする事になるなんて当時の私は思わなかっただろう。

それによって後悔する者、焦燥する者、悲しみに暮れる者が現れるが後悔はしていない。

 けれど、お父様には謝らないとね。


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