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悦ばしき入城  作者: maru
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2.父の言いつけ

 先王崩御の知らせは、このランスにも、いち早く伝えられました。先王フランソワ様はその年の3月31日に亡くなられ、アンリ皇太子殿下が王位を継がれたのです。奇しくも、アンリ様のお誕生日と同日ということで、よく覚えております。


「さて、私の可愛いマリー」


 知らせが届いた晩のこと、父が私を呼びつけました。毛織物業で相当な財をなした父は、ランスの町の名士として通った人です。子供たちのことは、母と使用人たちに任せておくのが常でした。その父が、とても熱のこもった口調で、私に説くのです。


「今日からは、私の許可がないかぎり、家の外に出ることのないように。また、出かけるときもけっして一人で歩いてはならない。いいね?」

「はい、お父さま。でも、教会のミサに行くことはお許しいただけましょう?」

「もちろんだ、マリー。それは良き市民の務めだからな。ただし、ミサが終わったら、すぐに帰るように」


 父があまりにきっぱりと命じるので、私もそれきり質問できません。でも、仲のよいお友だちと話すのをいつも楽しみにしていたので、とても心が痛みました。いったいなぜ外出を厳しく禁じるのか、その理由すら、わからずじまいだったのです。


 しかし、それから数日のうちに、父が母や親族と、あるいは、ランスの名士の方々と、なにやら熱心に話しこんでいるのをたびたび目にしました。そんなときの父の顔は、先王の喪に服するというより、まるで新しい商談に熱中しているときのようだったので、今でも印象に残っています。また、名士のお客様がたも、私がごあいさつに伺うと、


「おお、これはお嬢様。しばらくお会いせぬうちに、まことに美しくなられましたな」


といった月並みな世辞の後、あたかも私が商談にのぼっている品物であるかのように、頭からつま先までじっくりと眺めるのでした。

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