■須陀利經第三 ~ 悪意についての偈
第三話もけっこう長い話です。
けれど内容は、現代でもときどきあるようなちょっと考えさせられる展開でした。
佛説義足經 須陀利經第三
聞如是佛在舍衞國祇樹給孤獨園爲國王大臣及理家所待敬事遇不懈…
こう聞いた!
ブッダが、サーヴァスティの町(舎衛国)の近くにある、ジュータ林(祇樹)のアナータピンディカ園(給孤独園)にいたときにさ。
国王・大臣、また町の人々はブッダにいつも敬意を払い続けてやまなかったんだわ。
この時、バラモンたち(梵志、身分の高い異教の神官たち)は彼らの講堂(寺院?)に集まって、
バラモン「本来なら国王・大臣から一般庶民まで、町の人たちにより我々が受けてた敬意を、今は受けられなくなってる。すべてゴータマという沙門(ブッダのこと)とその弟子たちのせいだ。我々の宗教があいつらより劣ってるなんて話もされてるぞ。なんとかせなあかん!」
と話し合っていた。すると
別のバラモン「我々の信者の中から見目麗しい美女を選んで、そいつを殺してジュータ林に埋める案はどーでしょ? そして、『ゴータマ沙門とその弟子たちが殺した』と訴え出て、悪い評判を遠くまで広めたら、信者が離れて奴らは尊敬されなくなり、修行者たちも衣食をお布施してもらえなくなる。町の人たちはまた我らのところに来るようになり、きっと、我らこそ世尊(尊い先生)であると尊敬されるでしょう。『ゴータマは最高の宗教家だ』なんていう評判もこれで、ハイ、オワリー♪」
いわゆる自爆テロの古代インド版……しかも自分がやるのではなく女性にやらせるというのが何ともゲスい;
自分の主義主張が相手よりも優れてると信じるなら堂々と議論や実践でそれを示せばいいのに、相手を貶めることで相対的に認めさせようなんてのは、自分の主張が相手の主張より劣ってることを認めたようなものですよね。
しかし一同はこの案に賛成、可決してしまい、とある美女の信者を呼んだのだった。
バラモンたち「お前も知ってるように、我々はいま人気がなくなってる。これは人々がゴータマ沙門を師とするようになったからだ。この状況はたいへんに不愉快だ。なんとかしたいとお前も思わないか?」
そう尋ねると
女「私もこちらの信者ですから、不愉快に思います。でもどうすればいいのでしょうね?」
バラモンたち「方法はある。お前が命を捨ててくれれば逆転できる」
女「えっ、ちょ、ちょっと待ってください! それはさすがに……」
バラモンたち「嫌と言うなら、お前はもう我々の信者ではない。破門で地獄落ちになるけど、いいんだな? んん~?」
女は大変に驚き恐れ、
女「すみません! やります、それが私の使命ならやります、だから破門だけはーっ!(号泣)」
バラモンたち「これで勝つる♪」
そして女に策を伝えた。
バラモンたち「今日から朝晩、何回もジュータ林へ行け。人々がお前のことを見知ったら我々はお前を殺してジュータ林に埋める。そうすれば、ゴータマがお前に暴行して殺したという話になる……どうだ素晴らしい作戦だろ、諸葛孔明も竹中半兵衛もナポレオンも、銀河自由同盟の魔術師ヤン=ウェンリー提督さえもまっつぁお!」
女「わかりました……ぐすん」
こうしてただ一人、強制的に自爆テロ要員とされてしまった女は、何回もゴータマ沙門のところへ訪ねて来て、人々は彼女のことを見知るようになった。
そうなってから、バラモンたちは彼女を殺して、遺体をジュータ林に埋めた。
あ~あ、もったいない……限りあるおんなのこ資源は大切に!
さて、それからバラモンたちは集団で王宮の門の前に集まり、口々に訴えた。
バラモンたち「我々の信者の中に、花も恥じらう世界に二人といないほど見目麗しい美女がいるのですが、行方不明になりました」
波私匿王(バーセナディ王、サーヴァスティの町を首都とする大国・コーサラ国の国王)はこの訴えを聞き
波私匿王「マッタク……その女は普段、どういう所へ出入りしてたんじゃ?」
バラモンたち「普段、ゴータマ沙門のところへ出入りしてました。」
波私匿王「で、君たちは余にどうして欲しいんじゃ?」
バラモンたち「調査のために警備兵を出してください」
彼らの求めに応じて王は兵を率いてジュータ林へ行き、調査した……ら、一同びっくりした。
なにせ本当に女の遺体が掘り出され、台に乗せられて運ばれることになったのだから。
たちまち悪いウワサが、サーヴァスティやその近辺、人々の行き来のある四方の町に広まってしまった。
ウワサ「人々はゴータマ沙門をシャカ族の王子だと言い、いつも『徳と戒律が最も大切』と主張してるなんて言うけど、なんだい。美女と不倫密通した上に殺して埋めてやがる。何が法だ、何が徳だ、何が戒律だ、ったくッよ! しょせん新興宗教の教祖なんてそんなもんなんだネ」
さて、朝早く。食べ物を求めて比丘たちが器を手に町へ入ると、町の人々は彼らを見て罵倒しまくった。
町人「あの沙門たち、法(教え)と徳と戒律があるって自称してるけど、実際はそれらを犯してるんじゃねーか? あいつらに衣食をお布施したって徳なんか積めない。無意味、無意味ーィ!」
さんざんに罵声を浴びせられながら比丘たちは、カラのままの器を持って町を出た。作法に従って手足を洗ったけれども食事はできず、器を置いてブッダのところへ行き、挨拶の作法はしたけれど座ることもせず、この事態について語った。
するとブッダは、偈を唱えた。
「
♪人々とは深く考えずにひどい言葉を
矢の雨のように浴びせるものだけど耐えなさいyoキミたち
およそ善悪どちらの評判を聞いても
比丘ってのは心を乱されたりはしないものなんだze 」
そしてブッダは比丘たちに言った。
「我々に対するウソの誹謗中傷は、七日するとなくなるョ」
そのころ、惟閻(ウィーヤーン?)と呼ばれる清信女(優婆夷(ウパーイ)、女性の在家信者)がいて、比丘たちが食べ物を求めても何ももらえずに帰ったと町で聞いたもんだから、ブッダと比丘たちのことがとても心配になった。
そこで急いでジュータ林のブッダのところに行き、頭にブッダの足を付ける挨拶をし、周囲を一回廻った(尊敬を示す作法)。
ブッダは彼女のために教えを説き、彼女はそれを聞いていっしょうけんめい暗記した。
それから、合掌してブッダに言った。
惟閻「こんな状態イヤーン。願わくは先生と比丘の皆様は七日間、私の家へ食べ物を求めにお越しくださいまし。」
ブッダは沈黙をもってこれを承諾した。ウィーヤーンはブッダの周囲を三回廻って帰った。
さて七日後。ブッダは、羅候羅(ラーフラ、ブッダの実子)より七才くらい歳下でイケメンの弟子・阿難(アナンダ、ブッダが悟りを開いたのと同じ日に生まれた従弟)に言った。
「キミと比丘たちは、町なかや四方の街道でこの偈を唱えてきなさい
「
♪いつも、間違った教えを修正し
自ら正しい教えを犯さないようにしなきゃne
また偽りをもって苦しめられても
恨んだりしないようにしなきゃne
ラララ…
♪自分の分を知ってそれを学び
悪意の人がいても恨んだりはせずにsa
罵倒を浴びせられても(心の)門を閉じて
自分の中に悪意を入れないようにしなきゃne
ラララ…
♪ルール無用でウソついてまで尊い物を貶す
その反対をすることこそが実は尊いという証拠だyo
口(虚言)に従っていると
憂い、妬みを生じて心が不安になるんだよne
ラララ…
♪博打が儲かるからと財産を
すべて賭けるべきと言うのはウソだよne
そんなことしたら宝をすべて失うことを
耐え忍ばなければならなくなるんだze
ラララ…
♪悪口を言われてる方の人が
実は正しい人だったという確率は実に5/6だよne
言ってる人の方が実は
正しくない心で言ってることが多いんだよne
ラララ…
♪そういう人からは十万個ものウソが出てくるんだよne~
ラララ…」
記憶力に優れていたアナンダはこれを一発で暗記して、町へ行き、街道の交差点にある広場でブッダの偈を唱えた(歌を歌った)。
サーヴァスティの住民や周辺の人々はみんな、アナンダの歌声を聞いてるうちに『シャカ族の王子(ブッダ)は本当は無実なんじゃないのか?』と思うようになり、また教えを学びに行こうと考えた。
『無意識でも童貞の女ゴロシ』だったと伝わる若いイケメンアイドル・アナンダの路上ソロライブ……きっとインパクトと説得力が絶大だったことでしょう。
さてこんなことがあって、異教のバラモンたちが講堂で言い争うようになった。
陰謀が失敗して責任を押しつけあってたようです。
言い争ってるうちに中の一人が激昂して大声を上げた。
バラモンの一人「お前だって俺たちと一緒に女を殺したじゃないか! ブッダと弟子たちを怨んでるんだろーがよ!?」
たまたま近くを通ったこの国の大臣がこの声を聞いてしまい、あわてて王様に報告した。
王はすぐにバラモンたちを呼び出し、
波私匿王「実は女を殺したのって、お前ら一味じゃないのか、マッタク?」
と尋問した。
ついに「スミマセン実はそうです」と自白したやつが出て、王は激怒した。
波私匿王「こいつらは重罰に当たるものじゃ! わが国内に、宗教として道を説きながら殺害の心を持つ奴輩なんか置く場所など無いっ、マッタク!」
と、臣下に追放刑を勅令した。
バラモンたちはサーヴァスティの町はずれで解き放たれたが、追放刑というのは法律に守られなくなるといういわゆる「アウトロー」。つまり誰かが彼らを殺したり痛めつけたり持ち物を強奪したりしても罪に問われないという危険な状態にされちゃったものだから、あわてて国外へと逃げていったのだった。
さてブッダは早朝の食事時、比丘たちをつれて鉢の器を手に町へ入った。
清信士(優婆塞(ウパサカ)、男性の在家信者)で阿須利(アスリー?)という人がいて、ブッダがやってきたことに気づくと、駆け付けてきて礼(五体投地?)をし、興奮した声でブッダに言った。
阿須利「耳を澄ましてもお名前さえ聞くことができず悲しく思ってましたです。経法(教え)も聞けず、唱えることもできず、聞けたのはブッダと比丘の方々の悪いウワサばっかでして、ハァ。」
ブッダはアスリーに
「まあ誰であれ、嫌なことがあるのは因縁(理由があって結果が生じること)によってそうなる宿命なのサ」
そう言って、偈を唱えた。
「
♪少し言っても悪口
多く言っても悪口
忠言でさえ(ストレートすぎると)悪口
とかく悪意からはさらに悪口が生れるne
♪過去でも未来でも現在でも
悪口を生まない悪意はない
しかし寿命が尽きるまで悪口を言いつづけるような人は
結局は尊敬されなくなっちゃうんだよne」
ブッダはアスリーのためにいろいろ教えを説いたあと、須達(スダッタ?)の家に行った。
向かい合って正座し、スダッタはブッダに礼(五体投地?)をして、手を合わせ、言った。
須達「私どもは悲しんでます。ブッダの姿を見ることもできず、経法を聞くことも唱えることもできず、聞けたのはブッダと比丘の方々の悪いウワサばっかでして、ホント。」
ブッダはスダッタのために偈を唱えた。
「
♪ゾウさんのように堂々と門へ行ったら
怪我をさせられるとは思わなかったけどsa
でもまあガマンして(仕返しとかはせず)
ただみんなが喜ぶようにしたいとだけ考えてたyo
♪自分の手に傷がなければ
毒の塗られた取っ手を掴んだとしても
毒が体内には入らないように
善く(正しく)生きていれば悪意の嫌がらせは成功しないものsa」
それからブッダは須達のためにいろいろ教えを説いて、そのあとでウィーヤーンの家に行った。
向かい合って正座し、ウィーヤーンはブッダに礼(五体投地?)をして、手を合わせ、言った。
維閻「私どもは悲しんでます。ブッダの姿を見ることもできず、経法を聞くことも唱えることもできず、聞けたのはブッダと比丘の方々の悪いウワサばっかでして、イヤーン。」
ブッダはウィーヤーンのために偈を唱えた。
「
♪内が浄ければ外を汚されたって
何も悩むようなことじゃないyo
愚か者が他人を怨むってのは
向かい風に塵を投げて自爆するようなものなのsa」
ウィーヤーンはブッダと弟子たちに食事を供し終わり、手洗いの水も下げた。
そして下座に座り、ブッダの説経を聞いた。
ブッダは、戒を守って浄い行いをすることで何もかもわかるようになるという教えを説いてから、ウィーヤーンの家を辞去した。
さて一行が再び集まって町を出たことを知ると、国王バセナディ陛下は急ぎ、いちおう法律の規定通りに騎兵数騎を従え馬車で後を追いかけた。ジュータ林に戻る前にブッダに会いたかったからだ。
やがてブッダの姿が見えると、馬が止まる前に王は馬車から飛び降りて走り寄った。冠も振り落としてしまい、侍従が拾って追いかけたほどの勢いだった。
ブッダの前に飛び出して、王は礼をしてその場に座り、手を合わせてブッダに言った。
波私匿王「私どもは悲しんでますじゃ。ブッダの姿を見ることもできず、経法を聞くことも唱えることもできず、聞けたのはブッダと比丘の方々の悪いウワサばっかじゃもって、マッタク。」
ブッダは王に偈をつぶやいた。
「
♪悪意の話はどんどん広まるけど
誤解が解ければ善意の真実がわかりますne
言葉が広がるうちにことの善悪は
だんだん明らかになってくるから心配いりませんyo
♪行いで正しさを示して
世俗の欲求なんて捨ててしまえばsa
最高の徳をいだいてて
他人を責めようなどと取り乱すことはありませんyo 」
しかし、サーヴァスティの人民はみんな、ひとつの疑念をいだいていた。
ブッダと弟子たちはいったいどんな因縁でこんな悪い風評被害に遭ってしまったのか。
ブッダは神に等しく月のように輝く堂々とした人であり、悟りを開いた聖人なのなら災難になんか遭わないはずじゃないのか? と。
ブッダはこの考えをピピピッとデンパでキャッチして、八行でこう、意味を説明し尽くした教え(義の足りた経=義足経)を説いた。
「
♪疑いが起きてもそれが本当か嘘かは
真理を学ぼうとする人には自ずから解るから
戒律を守り修行するような人は
そんなもの気にしないんだyo
♪そういうのを気にして、たとえば
戒律を守ってるなんて自分から自慢してては
問題があると信じてることになり
飾らずに真実を教えることなんかできないyo
♪真理は不変で不朽なんて自分から言う人は
尊いものを貶して恐れから逃げてるだけで
邪な気持ちのない行いをしようと努力してる人は
怒りや喜びなんて感情で動くことはしないんだyo
♪余計なもの(自負とか?)を捨てて
鮮明に正しい法(真理)を保ってれば
法もまた空と想うことで
正しく空を理解することができるyo
♪自分の物なんかもともと何もなかったとこだわりを捨てて
三界に再び生まれることは願わず
すでに全てを断ち切っていて冥ることのできる人には
何物も影響をあたえることができないyo
♪執着せず去る者は追わず
何物をも捨て去ることができれば
命さえもあるなしに関わらず
何にも愛着することなく去ることができるのsa」
ブッダがこの義足経(意味を説明し尽くした教え)を説き終わると、比丘たちはみんな喜んだのでした。¥e。