#1【アリスの日常】
真実は失っても気付かない
悪夢が突然終わるように、現実も突然始まる。
ベッドの上で上半身を起こし、まだ覚醒しきっていない頭で昨夜の夢について考える。
あの夢を見た朝はいつもそうしてる。
言わば習慣のようなもの。
勿論、何かしらの結論に至った事は一度も無い。
そんな事は最初から期待してないし、無駄な事だというのも分かってる。
それでも考えずにはいられない。
でもそのせいで・・
「うっわ、もうこんな時間!?」
毎朝遅刻する羽目になるのだ。
尋常じゃないスピードで着替え、顔を洗い、猫の餌やりを済ませる。
元々メイクは得意じゃないため、そこに時間を割く事は殆どない。
まあ、それが女の子としてどうなのかと聞かれたらアレなんだけども。
朝食は食パン一枚、それを咥えて家を飛び出す。
後ろで飼い猫のネルがニャーと鳴いた。
きっといってらっしゃいと言ってるに違いない。
パンを咥えたままバス停まで走る。
これもいつもの事。
私の日常。
残念ながらパンを咥えたまま街角で格好良い男の人とぶつかりそのまま恋に発展するという素敵なアクシデントは無い。
どうやらそれは私の日常に含まれてないらしい。
それにそれは学生までのお話。
こう見えても私は一応立派な社会人だ。
22歳、独身、だれが見たって十分過ぎるくらい大人だから一々出会い頭のラブロマンスに胸を躍らせる事はない・・・はず。
とは言え、そろそろ彼氏の一人や二人は欲しいと思ってる。
思ってはいるけど・・・
如何せん出会いが無い・・・
普段は自宅と職場の往復が殆ど。
友達も忙しいのか全くお誘いが無い。
職場は街中の小さな雑貨屋さん。
男の人との出会いは皆無に等しい。
「さびし・・・」
不意に心の声が漏れる。
口に出して言うと何だか一層空しくなる。
「はぁ・・・」
今日も溜め息が止まらなくなりそうだ。
「あの、乗らないならどいてもらえますか?」
「あ、ごめんなさい!!」
気付けば私の後ろには長蛇の列。
バスが来ている事にさえ気付かないとかもう色々終わってる。
平謝りしながらバスに乗り込む。
いつもの奥の座席に座り、鞄から読みかけの小説を取り出す。
その時ふと違和感を感じた。
理由は分からない。
周りを見渡しても特に変わった所はない。
気のせいだったかもしれない。
そして私は閉じかけた小説を再び開いた。