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9話 王妃の資質

 エドワードの愛する女性を見てみたいと思っていた。


 でもそれは、この人を選んだのであれば、マリアベルとの婚約を破棄するのも仕方ないという確信を持ちたかったからだ。


 まさかこれほどまでにマリアベルと正反対の女性だとは思わなかった。


 確かにアネットは素直で明るい性格だ。

 だがそれが王妃としての資質としてふさわしいかというと……それはとても疑問に思える。


 マリアベルはかつての自分の教育係だったダドリー夫人を見る。


 未来の王妃となるのであれば、立ち姿や歩く姿ばかりでなく、カップを持つ指の先まで優雅でなければならないと教えられた。


 意識せずともそれが自然にできるようにならなければ、真の淑女とはいえない。

 王妃とは、すべての貴族の頂点に立つ女性なのだから、常に完璧でいなくてはならない。


 ダドリー夫人の言葉を受けたマリアベルは、必死に努力をして、今では「完璧な淑女」と呼ばれるようになった。


 もしエドワードの隣にいるのがマリアベルだったならば、きっとすぐにダドリー夫人の叱責の言葉が飛んできていただろう。


 けれど今は、アネットの一挙一動を決して見逃さないようにと厳しい眼差しを向けているものの、声をかけてくる様子はない。


 マリアベルはどうしてだろうと考えた。

 そしてじっくりとダドリー夫人の立場になって考えてみる。


 アネットは元々が平民なので、貴族のマナーを全く知らない。

 貴族の子女が幼い頃から自然に身につける、最低限のマナーさえおぼつかないのだ。


 これでは茶会の間中、ずっと注意をしていなくてはいけないだろう。


 けれどもそれでは、茶会としての(てい)をなさない。


 茶会というのは客をもてなすために開かれるものだ。招く側が客を不愉快にさせてはいけない。

 もしここでダドリー夫人がずっとアネットに注意をしていたら、それは茶会ではなくただの授業だ。


 マリアベルがダドリー夫人の立場だったとしても、この場では直すべきところをすべてチェックして、後でゆっくり矯正していこうと考えるだろう。


 けれども、そもそもこの程度のマナーしかできないアネットを茶会に出すというのがありえない。


 本来はもっと時間をかけて教育をして、最低限のマナーを身につけてから茶会を開くべきだっただろう。


 そこでマリアベルはさきほど王妃が退席したのは、アネットの不作法に耐えられないからではないかと思った。


 きちんとした淑女教育を受けてこなかった王妃は、堅苦しい貴族社会を嫌っている。


 その王妃ですらアネットの拙い所作には耐えられなかったのかもしれないと考えると、マリアベルを茶会に誘っておきながら、すぐに王妃が退出してしまったのも理解できる。


 もちろんマリアベルも、アネットは平民なのだから貴族とは違うのだと分かってはいた。


 だが想像するのと実際に見るのとでは、全く違う。


 マリアベルが接したことのある平民は、慰問で訪れる教会にいる聖職者か孤児たちくらいだ。

 彼らはマリアベルの身分をちゃんとわきまえていて、決して失礼な態度を取ったりはしなかった。


 そこには厳格な身分の差というものが存在していたからである。


 けれども、アネットにはそれがない。


 彼女にとって、店の客も王太子も、一人の人間として見るのであれば、どちらも変わりがないのかもしれない。


 気安く、くったくのない態度は、貴族社会しか知らないエドワードにとっては、確かに新鮮に映ったことだろう。


 だがエドワードは市井(しせい)に住むただの男ではない。

 未来の国王となるべき、世継ぎの王太子だ。


 ならばその妻となる女性も、それにふさわしい相手を選ぶべきなのではないだろうか。


 それは別にマリアベルでなくても構わない。

 ただ、王妃として尊敬できる相手であってほしい。


 アネットは……その期待に応えられる女性なのだろうか……。


 マリアベルはそうであって欲しいと願った。


 だって、そうでなければ、切り捨てられたマリアベルの今までの思いと努力が報われない。


 けれども、そんな淡い期待が、やがて無となってしまうのだろうというかすかな予感を、マリアベルは感じずにはいられなかった。


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