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75話 エドワードの処遇

 エドワードの言葉に、フレデリック三世はふっと表情を和らげた。


 安堵したような悲しむような、様々な感情がその顔に表れ、一瞬で消える。


 フレデリック三世は、頭を下げたままのエドワードに背を向け、玉座へと向かった。

 そして玉座の高みから宣言する。


「エドワードは真実の愛を選んだ。王族は平民との結婚を許されておらぬゆえ、エドワードの王位継承権をはく奪する」


 その言葉に、エドワードのアネットを握る手が強張った。


 覚悟をしたとはいえ、実際に宣言されてしまった以上、もうこの決定は(くつがえ)らないからだ。


 アネットはそんなエドワードを横目で心配そうに見る。

 エドワードの青ざめた横顔が、チラリと見えた。


「新たな王太子として、亡き弟エリオットの息子であるセドリックを立てる。異議あるものはここで申せ」


 広間に集まった臣下たちは、沈黙をもってそれを承認する。


「よろしい。では、これよりセドリックを新たな王太子とする。また、次期国王としての地位を確かなものとするため、セドリックに王女シャーロットとの婚約を命ずる」


 シャーロット王女は七歳になるエドワードの妹で、セドリックとの年齢の釣り合いは取れている。


「承知いたしました」


 そうなることを予測していたのだろうか。セドリックに動揺はない。


「さて、エドワード、頭を上げよ」

「はい」


 もうエドワードは王族ではない。


 だから公の場では、国王であるフレデリック三世の許しがなければ、頭を上げることすらできなくなった。


 エドワードが目の前にある大理石の階段を上ることはもうない。約束されていた黄金の玉座も、永遠に手の届かない場所になってしまったのだ。


「お前にはダンゼルの領地を与える。だが共和国との交易権は与えぬゆえ、それ以外の方法で領地を治めよ。また、エドワードには一代限りの大公位を与える。……その肩書がお前の身を守るだろう」


 北部にあるダンゼルの領地は、元々作物が育たず貧しい地域だった。


 中央諸国との交易の窓口ではあったが、小国との交易はそれほど利益を生まなかった。


 西のモルヴィア共和国から中央諸国をまたぎ、東にある王国と結ぶ一本の道ができてから、共和国との交易で豊かになった土地である。


 ダンゼル公爵領で最大の利益を生んでいた共和国との交易を禁止されるというのは死活問題だ。


 いくらダンゼル公爵が国家に対する反逆罪で処刑されたのだとしても、領民にとっては自分の生活のほうが大切だ。


 一度豊かな暮らしを手に入れたというのに、再び困窮(こんきゅう)する生活になるとすれば、領民の恨みは(つの)るだろう。


 そこに領主として廃嫡された王子が行くのだ。

 積もった恨みは、必ずエドワードへと向かうに違いない。


 だからこそ、せめてもの親心で、大公の肩書を与えた。


「さらにアネットとの正式な結婚は、セドリックが即位してからのこととする。そして結婚後に生まれた子供は、自らの力でのみ爵位を得られる。これに関して、一切の異論は認めぬ」


 そもそも王国の大公位は、王位を継がない王族の直系男子に与えられる一代限りの称号だが、その息子は大抵断絶した貴族家の称号を与えられる。


 今の王国であれば、十年前の疫病で断絶した家がたくさんあるので、継承できる爵位も多い。


 だから正式な結婚の後に生まれた子供であれば、貴族籍を持っているので、自分の力で爵位を得ることも可能だ。


 男爵などの貴族の爵位を得るのは大変だが、一代限りの騎士爵であれば比較的容易に取れる。

 だがそれ以前に生まれた子供は、妾腹の子と同じ扱いで、貴族籍を持たない平民となってしまう。


 真実の愛で結ばれた二人が、そのような子供を作ることを、世間は許さないだろう。


 つまり、子供を望むならばセドリックの即位を待たなくてはならないということだ。


 まだ十一歳のセドリックが即位できるのは、早くても十年先だ。

 場合によっては、もっと待たなくてはいけなくなる。


 荒れるであろう領地を治め、いつ結ばれるかも分からない相手と生涯を共にする。


 それが、フレデリック三世がエドワードに与えた罰だった。


「エドワードの側近たちも、セドリックの即位までエドワードを助けるがよい。勅命と心得よ」


 側近たちは、いきなりの国王の命令に蒼白になった。


 名誉ある次期国王の側近からいきなり北部に左遷させられることになって、理解が追いつかない。


 ただ宰相の息子であるパーシー・コールリッジだけは、覚悟を決めたような顔をして頭を下げた。


 彼だけは唯一エドワードを(いさ)めようとしていたが、結果的に止められなかった事実を深く受け止めたのだ。


「い……嫌だ。俺は行きたくない」


 そしてその命令を不服として口に出すものがいた。


「陛下、お願いです。俺のおかげで十年前に王太后様の亡くなったのが黒死麦のせいだと分かったというのであれば、褒美をください。俺は北部になど行きたくはありません。マリアベル様のお側にいたいのです。お願いします。どうか俺をマリアベル様のお付きとして、帝国へ向かわせてください!」


 そう叫んだのは、エドワードの乳兄弟である、サイモン・レントだった。






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