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64話 フレデリック三世

 先頭を行くセドリックの元に、次々と重臣たちが集まってきた。


 レナートは邪魔をされるのかと身構えたが、マリアベルにそっと腕を押さえられて警戒を解く。


「この方たちは味方です」


 彼らは王族派と呼ばれる人々で、マリアベルの父ジェームズと親しい人たちだった。


 財務長官を務める、兄ジュリアンの婚約者の父であるハウスタッド伯爵もいて、無言で会釈を交わし合う。


 そこに、大柄な騎士たちが現れた。


 さきほどの衛兵たちとは違い、赤い上着と黒いズボンをはいている。上着を留める金ボタンは八個。グレディアナガーズと呼ばれる、近衛歩兵連隊所属の騎士たちだ。


 敵か、と、とっさにマリアベルを後ろに庇うレナートの横に、カルロが並ぶ。

 二人とも、腰の剣をいつでも抜けるように鞘に手をかけていた。


 レナートが連れてきた護衛たちの他にも、王宮に勤めるものたちが数人、レナートを庇うように前に出た。


 一触即発かと思われたが、胸にきらびやかな勲章をいくつもつけたグレディアナガーズの隊長が、セドリックの前に膝をついた。


「セドリック殿下。陛下は玉座の間にてお待ちです」

「玉座の間だって? でもずっと伏せっていらしたのでは」


 立ち止まったセドリックが、思わず聞き返す。


「だいぶ回復なさいました。それに……機は熟した、と」


 それを聞いたセドリックは、一瞬息を止めた。


 しばらくたってから大きく息を吐いて、目をつぶる。


「そうか……。僕たちは、すべて陛下の手の平の上で踊っていたのかもしれないね」


 そう言って、再び深く息を吸う。

 それからカッと目を見開き、レナートとマリアベルを振り返った。


「行きましょう。王国の未来を作りに」


 事情が分からないままであろうに、レナートは片眉を上げてマリアベルを見降ろす。


 マリアベルは、エドワードの婚約破棄から始まったすべてのことに決着をつけるため、先に進む決意をして、レナートを見つめる。


「レナート様、一緒に行ってくださいますか?」

「君が望むなら、どこへでも行こう」


 そうして差し伸べられた手に、白く小さなマリアベルの手が重なる。


 しっかりとつながれた手を、セドリックは眩しそうに見た。

 けれどもすぐに視線を外して、厳しい目を前に向ける。


 歩き出した一行は、特に邪魔もされず、玉座の間へと到着した。


 開かれた扉の奥には大理石でできた六つの階段があり、階段の両脇には、一角獣と獅子と鷲の彫刻が、バランスよく配置されている。


 階段の上には、象牙に金箔をほどこした壮麗な玉座があり、奥の壁もすべて黄金で飾られている。


 その豪奢な玉座の上に、一人の男が座っていた。


 病み上がりのせいか少し頬はこけていて、ひじ掛けに寄り掛かかった少し崩れた体勢で、じっとこちらを見ている。


 彼こそが、王国の国王、フレデリック三世だ。


 遠目で見る限り、その顔に水疱は見当たらない。

 では、命に別状があるほどの重体ではなかったのだと、マリアベルはホッとした。


「よく来た。セドリック、マリアベル、そして……未来のガレリア帝国皇帝よ」


「まずは陛下の体調が優れぬ時に突然参りました無礼を、お詫び申し上げる。また、このような非公式での初のご挨拶となりますこと、誠に申し訳なく存じ上げる。私はガレリア帝国皇太子、レナート・ガレッティ。国王陛下にはこれからも両国の友好と信頼関係を深くいたしますよう、以後よろしくお願い申し上げる」


 非の打ちどころのない完璧な挨拶に、国王は目を細めた。

 それからマリアベルたちに、頭を上げるようにとうながす。


「丁寧な挨拶、痛み入る。私はフレデリック三世、この国の国王だ。……だがまあ、あまり堅苦しいのは嫌いでね、君も楽にしてくれたまえ」

「ではお言葉に甘えて」


 そう言ってレナートはマリアベルを引き寄せた。


 楽にする、の意味が違うのではないかと抗議したかったが、レナートが聞く耳を持つとは思えない。

 マリアベルは諦めて体の力を抜いた。


「……ジェームズから話には聞いていたが、君たちは本当に仲がいいんだねぇ。ああ、そうだ。ジェームズ・バークレイは解放するように命令したから、もうすぐここに来ると思うよ」


 国王の言葉に、マリアベルは思わず叫んだ。


「お父様が!?」

「そう。……マリアベルにもジェームズにも、長い間、苦労をかけたね。でも、もうすぐ終わるから……」

「陛下? それはどういう……」


 マリアベルが問いかけた時、広間の入り口から、懐かしい声が聞こえた。


「マリアベル!」


 振り返ったその先には、王太子エドワードが立っていた。







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