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52話 兄との再会

「お父様が、王都に連れていかれたと聞きました」

「……情報が早い。さすがガレリア帝国というべきでしょうか」


 ジュリアンは、そう言ったマリアベルではなく、少しだけ警戒を滲ませながらレナートを見る。

 だがレナートは何も言わず、マリアベルに向かって頷いた。


 灯りを机に置いたマリアベルは、ドレスの隠しポケットの中に入れていた手紙を出して見せた。


 執務室の中は、元からある淡いランプの光とマリアベルが持ってきた灯りとで、昼間のように明るくなっている。


 そのおかげでジュリアンがマリアベルから受け取った封筒に押された封蝋の模様が、はっきりと見えた。


「国境まで見送ってくださった帝国の方たちの知らせよりも先に、これが届きました」


 封蝋に描かれているのは、王冠を支える角を交差させた二頭の一角獣。


「これは……」


 驚いて顔を上げるジュリアンに、マリアベルは「中を見てください」と促した。


 この封筒に御璽の封蝋があるということは、中に入っているのは国王の正式な書状だ。

 だが届いたタイミングが、どう考えてもおかしい。


 父のジェームズが捕らえられたことに関しての書状であれば、どれほど急いだとしてもマリアベルの元へ届くのは帝国の知らせの後になる。


 帝国内で、王国の使者のほうが早く到着するというのは不可能だ。

 だとすれば、この手紙はジェームズが捕らえられる前に送られたということになる。


 ジュリアンは中に入っていた手紙を取り出して内容を確かめた。


 そしてすぐにマリアベルに返した。


「お前とサイモン・レントが婚約をしたという事実は一切ない。確かに帝国に行く前に申しこみがあったようだが、父上がすぐにお断りした」

「お父様からも、私の婚姻に関しては自由にしていいという書状を国王陛下に頂いたと聞いています。お兄様はその書状のことをご存知ですか?」

「僕が預かっている」

「見せていただいてもよろしいでしょうか?」


 マリアベルにそう問われたジュリアンは、レナートの顔を一瞬見てためらうような素振りをしたが、すぐに執務机の後ろにある金庫から一枚の紙を出してきた。


「これがその書状だ」


 受け取ったマリアベルは、じっくりとその書状を見る。


 そして安堵したような、少し長い息を吐いた。


「これは……本物です」


 マリアベルの言葉に、ジュリアンは怪訝そうに首を傾げる。


「どういう意味だい?」

「お兄様、私宛に届いた手紙は偽物です」

「まさか、嘘だろう!?」


 まったく信じないジュリアンに、マリアベルは机の上に手紙を並べてみせる。


「こうして並べても、どちらが本物か分かりませんね」

「僕にはまったく違いが分からないぞ」


 首をひねるジュリアンに、マリアベルは手紙に押された御璽を指でなぞった。


「国王陛下がご病気というのは本当ですか?」


 マリアベルはそれ以上の説明をせずに話題を変えた。


 いくら婚約者といえども、レナートは帝国の人間だ。それに兄のジュリアンも王族ではない。だから本物の御璽の確かめ方を、ここで丁寧に説明するわけにはいかなかった。


「そのことも知っているのか……」


 ジュリアンは一体帝国の諜報員はどれほど優秀なのだろうと、空恐ろしさすら感じながらレナートを見る。


 レナートはその視線を涼しい顔で受け流していた。


「僕もずっと領地に籠っていたから詳しいことは分からないんだけど、ここのところ、体調不良ということで陛下が朝議にお出ましにならないらしい。王太子殿下が代理として出席なさっている」

「ご無事なのでしょうか」

「毎日見舞いに行っている王太子殿下によれば、少し休養すれば大丈夫とのことだ」


 マリアベルはそれを聞いてほっとした。


 気の抜けない王宮でたまに会う国王は、いつもマリアベルに優しい笑顔を向けてくれていた。

 礼儀作法に厳しいのも、マリアベルのためを思ってのことだ。


「エドワードは私にとてもよく似ているから、マリアベルが一緒にいてあげて欲しい」


 妃教育が終わった後、ダドリー夫人の教育の厳しさに勉強部屋の隅で泣いていたマリアベルに、しゃがんで同じ目線になった国王は、そう言ってマリアベルの頭をなでてくれたものだ。


 エドワードがそのまま大人になったような国王に言われて、小さなマリアベルは頷いた。


 国王はマリアベルにとても優しかった。


「お兄様が持っているこの書状が本物で、私に送られた手紙が偽物。ということは、陛下はこの手紙に書いてある内容をご存知ないのだと思います」

「その可能性はあるね」

「だとすれば、王宮に行って陛下にお会いすれば、お父様も解放されるのではないでしょうか」


 近衛騎士団を派遣したエドワードが、この手紙のことを知らなかったとは思えない。偽物だと分かっているのか、エドワードもまた騙されているのか、今はまだ分からない。


 でも確実に味方とはいえない相手に頼ることはできない。

 だが国王ならば、マリアベルの味方になってくれるのではないだろうか。


「何を馬鹿なことを。そんなことをしたら、すぐに殿下の寝室に放りこまれてしまうぞ!」


 慌てるジュリアンに、低く冷えた声がかかる。


「それは、どういう意味だ?」


 レナートが、海の底のような瞳を燃やして、ジュリアンを見据えていた。






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