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51話 幻の王国

 明かりを手に先頭を歩くマリアベルは、かび臭い通路の中を進みながらレナートに説明をした。


「あのからくりは、かつて王国がこの大陸を統べる唯一の国であった頃に作られたものだそうです。決まった重さの石を三つ窪みにはめることによって、この通路が開きます」


 王国に名前はない。


 ガレリア帝国やモルヴィア共和国、そして中央国家群の小国にもそれぞれ国家の名前があるが、王国だけは、ただ『王国』と呼ばれている。


 それはかつてこの大陸全土を統一していた幻の王国が、現在の王国の元になっていると伝えられているからだ。


 幻の王国は、現在とは比べものにならないほどの高度な文明を持っており、その遺跡は大陸の各地に残されている。


 その中でも幻の王国の中枢であった現在の「王国」には、最もたくさんのからくりが残されている。


 王家の姫が降嫁された際に作られたこの隠し通路の入り口も、そうしたからくりを移設して作られていた。


「帝国の我々に教えてもいいのか?」

「あれは、ただ石を置けば開くというものではありませんもの。石の重さが違うと開きません。バークレイ家に生まれたものは、小さい頃から石の重みを自分の手で覚えさせられます」


 なるほど、だからマリアベルは拾った石の重さを確かめていたのだとレナートは納得した。


「出口にも仕掛けがあるのか?」

「そちらは内緒です」


 ふふっ、といたずらっぽく笑ってレナートを振り返ったマリアベルは、すぐに真剣な表情を浮かべて前に向き直った。


「無事だといいのですけれど……」


 ここまでの道のりで、特にジェームズが彼らに王都へ連れていかれたという話は聞こえてこなかった。


 突然王太子の近衛がきたのには驚いていたが、バークレイの領軍と合同の軍事演習のためだったという話に納得していた。


 その一環としてバークレイの城下町に王軍が滞在しているということになっているが、それほど数は多くない。むしろ、国境の検問所の方が兵士の数が多かった。


 バークレイの屋敷が王軍に包囲されているという話も聞こえてこないが、出入りを監視されているのは確かだろう。


 屋敷を囲む門の入り口は物々しく警戒されていた。


「マリアベルの家族は、外出は禁じられているが、危害は加えられていない様子だ」

「それならばいいのですが、心配です」


 マリアベルは足を速めながら先を進む。


 屋敷には、母のクリスティナと兄のジュリアンが住んでいる。

 二人の無事を確かめるまで、マリアベルは安心できない。


 しばらく歩くと、急な階段が現れた。


 マリアベルは思い切ってドレスをまくると、そのまま階段を上り始める。


 一段上がるたびに白い足首が見えて、すぐ後ろにいたレナートは慌てて立ち止まった。


「後ろを向いて下がった後に待機!」


 焦ったようなレナートの声に、一列になっていた護衛が押し合いながら後ろに下がっていく。

 最後尾でカルロが悪態をつく声が聞こえた。


 その間に、マリアベルは階段の上にある扉に到着する。

 そして扉の横にあるレバーを操作した。


 マリアベルは一度呼吸を整えてから、ゆっくりと扉を開けてその隙間から様子を窺う。


 執務室には灯りが灯され、中には誰かいるようだった。


 マリアベルが息を潜めたままでいると、小さく「マリアベル?」と尋ねる男の声が聞こえた。

 何も答えずにいると、再び声がする。


「僕しかいないから、出ておいで」


 その声に、マリアベルはもう少し扉を開けて部屋の中を見る。


 暗いところから明るいところを急に見ると、眩しくて中の様子がよく見えない。

 それでも目を凝らしていると、誰かがやってくる音がして向こうから扉を開けられた。


 そして強く抱きしめられる。


「マリアベル!」


 抱きしめてくれる人の声の主は、マリアベルが領地に戻ってきてからはずっと優しく見守ってくれていた、兄のジュリアンだった。


「お兄様」

「隠し通路を通ってきたのか……。一人かい?」

「いいえ。レナート殿下と参りました」

「帝国の!?」


 マリアベルの言葉を合図に、レナートがゆっくりと部屋に入ってくる。


 黒い髪に海のような青い瞳。

 隠しようのない堂々たる覇気に、まさしくこれが帝国の皇太子なのだとジュリアンは理解した。


 すぐに膝をつくジュリアンだが、レナートはそれを制した。


「ここは帝国ではないし、貴君は俺の臣下ではない。……むしろ、義兄上とお呼びしたほうがいいかもしれん」


 気軽に話す帝国の皇太子に、ジュリアンは、これはどういうことだとマリアベルに説明を求めた。


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