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3話 恋ではないけれど

 普段はあまり表情を出さないマリアベルの涙に、ジェームズは驚いたがすぐに立ち上がってマリアベルのそばに行き、優しく抱きしめた。


 幼い頃の記憶の向こうでこうして抱きしめられたことはあったけれど、王太子の婚約者になってからは一度もない。親子といえども、王太子の婚約者に異性が触れてはならないためだ。


「マリアベル、辛かったな……」


 懐かしい父のぬくもりに、マリアベルは涙を抑えきれずに、声を出して泣いた。


「お父さまっ……」


 マリアベルはエドワードに恋をしたわけではない。

 だが初めて会った時から、エドワードにふさわしい妃になろうと必死で努力してきた。


 エドワードに足りない部分を補えるように、寝る間も惜しんで勉強をした。


 ダンスを完璧に踊れるまで練習してくたくたになっても、その後の勉強で疲れて眠りそうになっては手の甲を鞭で叩かれながら学んだ。


 恋ではない。


 だけど家族になるために、エドワードを支えるためにがんばったのは、恋ではなくても想いがあったからだ。


 寄り添って、いつか愛になるのだと……そう信じていた。


 マリアベルの両親も政略結婚によって結ばれたが、娘の目から見ても仲のよい夫婦だと思う。国王夫妻のような恋愛結婚でなくても、両親のように穏やかな家庭が作れればと思っていた。


 二歳年上のエドワードはいつもマリアベルに優しかった。

 だからずっとこんな穏やかな日々が続くはずだったのに。


 なのに、重ねた日々はあっけなく「真実の愛」によって奪われてしまった。

 マリアベルの過ごしてきた日々は、無になってしまったのだ。


「わっ……わたくしのっ……何が……何がいけなかったというのでしょう……」


 愛という不確かなものに、マリアベルの努力は奪われた。


 もう二度と戻らない。


「殿下のお相手を聞いたか?」


 マリアベルが泣き止むまで優しく頭を撫でていたジェームズは、そう言って心配そうにマリアベルの顔を覗きこんだ。


 ふるふると頭を振ると「そうか……」と重いため息を吐く。


「平民の娘だそうだ」

「……平民?」


 驚きに目を見張るマリアベルに、ジェームズは知らなかったのかと痛ましげな表情を浮かべる。


 エドワードの相手は平民だ。それも、お忍びで出会った酒場の娘。


 昼間の食堂として営業していた時に出会ったらしいが、そろそろ酌婦として働けと親に言われたのをエドワードに相談し、そこでそんなことはさせられないと思いを自覚したということだ。


 たとえ平民といえども、国内有数の商会の娘ならばともかく、酒場の娘だ。後ろ盾もなにも、あったものではない。


 それを聞いたジェームズは、怒りに目の前が真っ赤になった。


 何の()()もない娘との婚約を破棄して、新たな婚約者に選ぶのが酒場の娘など、歴史あるバークレイ侯爵家を馬鹿にしているにもほどがある。


 それほど好きだというならば、百歩どころか千歩譲って、マリアベルと結婚した後に愛妾として召し抱えればいいのだ。


 酒場の娘であれば、それですら身の丈に合わぬ栄誉だろう。


 だがエドワードはあくまでも娘を妃とすることにこだわった。

 そして自分の意見が無条件で許されるのだと疑いもしなかった。


 だからこそ、何の根回しもせずに、直接マリアベルに婚約の破棄を言いつけたのだろう。


 それを聞いた王は驚いた。だがマリアベルにも了承を取ったと聞いて、エドワードを許した。


 ちょうど王宮に伺候していたジェームズは、すぐさま王から婚約破棄を知らされ、あまりの怒りに言葉もなかった。


 抗議しようにも、やっとできた世継ぎの王子に甘い王は、マリアベルが納得しているのならば良いではないかというばかりだ。


 しかも息子には、自分と同じように愛し愛される相手と婚姻した方が望ましいとまで言いきった。


 一体、何のためにエドワードとマリアベルが婚約をしたのか。後ろ盾のないエドワードのためではないのか。


 ジェームズはやりきれない思いのまま王の御前から退出し、急いで帰宅した。



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