20話 出会いの筋書き
「俺もそう思う。そこでだ。俺たちの出会いは、もっと劇的に演出したい」
そう言って、レナートはマリアベルに視線を向ける。
マリアベルは思わずうつむいてしまった。
その様子に笑みを浮かべるレナートに、ジェームズは少しだけ顔を引きつらせながらも尋ねる。
「と、いいますと?」
「婚約者を亡くして傷心の俺は、一人で花祭りの終わった広場を訪れる。誰もいない広場で、俺は女神のように美しい娘と出会うんだ」
「まともな娘は遅い時間に一人で街をうろうろいたしませんが」
マリアベルが女神のように美しいというのには同意するが、そんな時間に出歩いている娘は娼婦くらいしかいない。
いくら作り話だとしても、マリアベルの評価が下がるような話にするのは許しがたい。
そんなジェームズの冷静な指摘に、レナートは不満そうにした。
「ではどこで出会えばいいというのだ」
「別にこれから出会うという話にしなくても、直轄地に視察にきた際、花祭りで偶然出会ったということで良いではありませんか」
「それではありきたりすぎる」
あくまでもドラマチックな出会いを求めるレナートに、ジェームズは後ろに控える彼の側近へ、どうにかしろという思いをこめて視線を向ける。
カルロは、飄々とした表情で肩をすくめた。
「では気晴らしに花祭りを見にきたバークレイ嬢がゴロツキに絡まれていたところを、偶然直轄地の視察にきていた殿下に助けられるというのはどうでしょうか」
それもありきたりな出会いではないかとジェームズは思ったが、レナートはまんざらでもないようで、カルロに続きを促す。
「初めはお互いの名を知らずに惹かれ合うのですが、その時は名乗らないまま別れます。そして一か月後に偶然再会し、婚約者を失くして傷心の殿下はバークレイ嬢の美しさと優しさに癒され、求婚するという筋書きです」
「なるほど。……ベルもそれでいいか?」
ベル、と呼ばれて、マリアベルははっとして顔を上げる。
横に座るジェームズがすかさず苦言を呈した。
「失礼ながら、まだ婚約もしていないうちからそのような呼び方をなさるのは、控えて頂けませんかな」
「すまない。この街にいる間は、お互いに愛称で呼び合おうと決めていたので、つい口が滑った。……バークレイ嬢はそうした出会いということで、いいかな?」
「はい。構いません」
「さて、あとはどこで出会うかだが……。舞踏会というわけにもいかんしな」
レナートはこれから一年、婚約者を亡くしたということで喪に服さねばならない。
三カ月も経てば喪服を着て舞踏会に参加はできるが、レナートの婚約者になりたい女性に囲まれて、マリアベルとの自然な出会いなど望めるはずもない。
「カルロ、何か良い案はあるか?」
「……そうですね。バークレイ卿が帝国との窓口として選んだのは、何代か前にバークレイ家の方が嫁いだ、帝国貴族のフィデロ伯爵家です。そこに麦の新たな取引先を探しにきたバークレイ卿とご息女が滞在するのは、おかしくないでしょう」
「フィデロ家か……。確かあそこは図書室の蔵書が有名だったな」
レナートは家名を聞いてすぐにどの家のことか分かったようだ。
「その通りです。殿下とバークレイ嬢には、フィデロ家の図書室で再会して頂きましょう。どこかの酒場での出会いに比べ、なんと高尚なことか」
芝居がかって言うカルロは、とても良い笑顔を浮かべていた。
その皮肉に、レナートも唇の端を上げる。
マリアベルは困ったような顔をしているが、ジェームズは満足そうに頷き、一か月後の再会を約束した。
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