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真実の愛を見つけたと言われて婚約破棄されたので、復縁を迫られても今さらもう遅いです!【書籍化・コミカライズ】  作者: 彩戸ゆめ


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15話 皇太子の婚約者

後書きにお知らせがありますので、ぜひご覧くださいませ。

「何を世迷い言をおっしゃるのですか。殿下には既に御婚約者がおありでしょう。まさか娘を側室にとでもおっしゃるおつもりではありませんでしょうな」


 静かな怒りをたたえるジェームズに、レナートは手を上げて制した。


「もちろん正式な妃として迎えると約束しよう。……他言は無用だが、俺はこれから一年の間、喪に服さねばならない。式を挙げるとしても、その後になる」

「もしや……」

「俺の婚約者であった娘は、長患いの末に天に召された」

「……それは、お悔やみを申し上げます」


 ジェームズとマリアベルが深く頭を下げると、レナートは目礼で応える。


「バークレイ候も知っての通り、病弱と知りつつ婚約を結んだのでな。とうに覚悟はしていた」


 ガレリア帝国の皇太子の婚約者が病弱であるという噂は聞いていたが、それほどまでに体の弱い女性だったとは知らず、マリアベルは驚いた。


 病弱では、健康な世継ぎを望めまい。


 それが分かっていてもなお、妃にと望んだのだろうか。


 マリアベルはそこまで愛された女性を、素直に羨ましいと思った。

 きっと、それほど愛した女性の面影を、生涯忘れることはないに違いない。


 マリアベルも、そんな風に愛されてみたかったし、愛してみたかった。


 だから、レナートとの結婚は考えられない。


「皇太子殿下。誠に光栄なお話で大変申し訳なく思いますが、謹んで辞退させて頂きたいと思います」


 無意識のうちに、マリアベルはいつの間にかそう口に出していた。


 勝手に申し出を断ってしまって怒られるかと思ったが、ジェームズはなにも言わなかった。


 一方のレナートは、足を組み替えるだけで余裕のある態度を崩さない。


「まあそうすぐに結論づけるな。この話には続きがあってな。表向き、婚約者は亡くなったということになっているが、実は生きている」


 レナートが何を言っているのか分からなくて、マリアベルは目を瞬かせる。

 冗談を言っているのかと思ったが、そういう雰囲気ではなさそうだ。


 でも意味が分からない。


 帝国の皇太子の婚約者が、死んだことになっているのに実は生きているというのは、どういうことだろう。


「殿下!」

「いいではないか、カルロ。マリアベル嬢には正直に言わねば、心を得る事なぞできんぞ」

「だからといって、帝国の恥になるようなことを、わざわざ言わなくても良いではありませんか」

「バークレイ卿はこの話を言いふらしたりはしないさ。なにせこれから、良い交易相手となるのだからな。そうであろう?」


 レナートが悪びれずに言うと、ジェームズも素っ気なく答える。


「それは殿下の誠意次第というところでしょうか」

「なるほど、これは手厳しい」


 軽く肩をすくめたレナートは、おどけた雰囲気を消して真剣な表情を浮かべた。


「知っているとは思うが、婚約者は母親同士が姉妹で俺の従妹にあたる。十年前の疫病の際に死の床についてな。最期の頼みということで、婚約を結んだ。幸い、医師の治療でなんとか一命は取り留めたが、ずっと床に伏していた。もちろん婚約を解消すべきだという意見も出たが……。こういっては何だが、当時は帝国も死者が多く混乱していてな。まだ子供の従妹を婚約者に据えたままでいたほうが、都合が良かった」

「ちなみに、婚約者様は当時六歳でしたので、殿下との婚約も『皇子様と結婚したい』という可愛らしいものだったそうですよ。普通に無視すればよかったものを、下手に情けをかけて婚約を結んでしまったので、こんな歳まで独身のままでいたあげくに振られてしまいました」

「カルロ、お前、もう少し言葉を選んだらどうだ」


 痛いところを突かれたというレナートに、カルロは鼻で笑った。

 せっかく真面目な雰囲気になっていたのに、これでは台無しだ。


 そしてカルロのあまりにも気安い態度に、マリアベルは驚きを隠せない。


 マリアベルの知っている王子は、エドワードだけだ。


 側近たちはエドワードに意見を言うこともあったが、やんわりと諭すだけで、決して強く言ったりはしなかった。


「事実ですから」


 カルロのように、こんな風に歯に衣着せぬ言い方をすることはない。


 レナートは今年で二十三歳になる。


 王族や皇族は、早めに後継者を設けたほうが政権が安定するので、十代のうちに結婚をすることが多い。

 二十三歳という年齢は、確かに少し遅いが、遅すぎるというほどでもない。


「当時、疫病の影響を受けなかったモルヴィア共和国の何番目かの娘から縁談が持ちこまれていたのだから、仕方があるまい」


 西の大国、モルヴィア共和国。


 王国内でもどんどん影響力を増している海のないその国は、東と南に海岸線を擁するガレリア帝国とはあまり仲がよくない。


 過去に数回、南下して港を奪おうとするモルヴィア共和国が、ガレリア帝国に攻めてきては敗退したという歴史がある。


 そのような国が、疫病で国力の弱っている帝国に縁談を持ちかけてきたのだ。警戒するなというほうが無理だろう。


 とりあえず数年でもいいから時間を稼げれば、その間に体制を整えることができる。

 娘のわがままで皇太子を縛りつけることになってしまった大公家も、皇家の方針に賛成した。


 それに怒ったモルヴィア共和国は、当然のようにガレリア帝国を攻めてきたが、モルヴィア共和国が発見した特効薬の成分を解明し薬を複製することができたガレリア帝国は、疫病を克服し、敵を撃退した。


「その特効薬の成分を解明した医師が婚約者の主治医でな。だいぶ年が離れているのだが、どうもその医師と恋仲になったと、そういうことらしい」


 レナートから説明を受けたマリアベルは、荒唐無稽な話になんと返事をすればいいのか分からず、眉を下げて困り顔をするばかりだった。




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