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11話 領地にて

 王宮から退出したマリアベルは、父に無理を言って領地への出立を早めてもらった。


 再びの王命で呼び出されないように、急いで領地へと向かう。


 既にあらかたの準備は終えていたので、出発は思ったよりもスムーズだった。


 領地までの道のりは、短いようで長かった。

 馬車に乗っている間の何もすることがない時間で、マリアベルの心には悲しみと怒りが交互に訪れる。


 マリアベルはエドワードの独善的な行動に怒りを感じていた。

 なぜここまで(あなど)られなければならないのだろうか。


 きっとエドワードは、あくまでも親切心からサイモンを薦めてきたのだろう。

 だが父から嫁げと命令されたわけでもないのに、サイモンと結婚する理由がない。


 愛する人を見つけてほしいと言われたが、なぜその相手をエドワードが選ぶのだろうか。


 それに仮にサイモンと結婚した場合、サイモンはエドワードの側近なのだから、マリアベルもずっとエドワードとアネットの側にいることになる。


 サイモンはエドワードの乳兄弟だ。


 もしかしたらエドワードは、うまくすればマリアベルを自分とアネットの間に生まれた子供の乳母として雇えると思っているのかもしれない。


 そこまで考えたマリアベルは、ぞっとして自分の体を固く抱きしめる。


 他に選択肢がなくなってその未来しか選べなくなってしまうのだとしたら、最も厳しいと言われる修道院にでも入ったほうがましだ。


 サイモンが嫌いだというわけではない。嫌うほど、マリアベルは彼のことを知らない。


 ただマリアベルの人生のすべてを、エドワードが勝手に決めてしまおうとしているのが嫌なのだ。


 今までのマリアベルは、過去も未来も、エドワードと共にあった。

 だがこれからは自由だ。


 未来の王太子妃という(かせ)がはずれて、自分の未来を自分で好きに決めることができる。


 今回の婚約破棄の一件で、マリアベルの父のジェームズも、ある程度はマリアベルの好きにして良いと言ってくれている。


 領地に戻って、しばらくは疲れた心と体を休めよう。


 エドワードの婚約者になってからというもの、領地へは一度も行っていない。


 幼い頃に見た金色に輝く一面の麦畑が見られるのはまだ先のことだろうけれど、またあの景色を見てみたい。


 マリアベルは領地へと向かう馬車の中で、懐かしい風景を心の中に浮かべながら、そっと目を閉じた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 マリアベルが領地に戻って半年が過ぎた。


 いつの間にか、一冬の間を領地で過ごしたことになる。


 領地にいることが多い母は、王都での出来事をすべて知っているだろうに、何も言わずにマリアベルを抱きしめてくれた。


 ただそれだけで、マリアベルの心は癒されていくような気がした。


 母や、忙しい合間を縫って訪れてくれる父と兄のおかげで、マリアベルは少しずつ笑顔を取り戻していった。


 冬の間は社交もなく、領地に戻る貴族が多い。


 バークレイ領は南にあって暖かく雪が降らないため、父と兄も本来であれば冬の間は領地で過ごせばよいのだが、今までは王太子妃教育で領地に戻れないマリアベルのために、交代で王都と領地を行き来してくれていた。


 今年はやっと家族そろって領地で過ごせるはずだったのだが、エドワードとの婚約破棄の後始末などに奔走していて、なかなか領地に戻ってこられないようだった。


 伝え聞くところによると、アネットの王太子妃教育はあまり進まず、最近ではダドリー夫人が教育係からはずされたということだ。


 けれども父も兄も詳しい話をマリアベルに聞かせようとはしないので、マリアベルも領地でゆっくりと冬の間を過ごすことができた。


 それでもたまに、突然悲しくなって泣いてしまったり、何をする気にもならなくて一日ぼうっとしてしまったりしたが、最近ではそんな状態になることもなく、ただ穏やかな日々の暮らしを楽しんでいた。


 もうすぐ一面の麦畑が見られる。


 今はまだ青々とした麦の穂が空に向かって伸びているが、もう少し経てば金色に染まった麦の穂が垂れ下がり、風に揺られる光景を見ることができるだろう。


 穀倉地帯であるバークレイ領では、収穫祭が大々的に行われる。

 きっと楽しい祭りになるだろうと、マリアベルは参加するのを楽しみにしていた。


 父からの手紙が届いたのは、そんな時だった。


「帝国の、花祭り……?」


 バークレイ領よりさらに南にいくと、ガレリア帝国と呼ばれる大国がある。

 王国とは友好的な関係の国なので、両国の間では人の往来が活発だ。


 ガレリア帝国では、初代皇帝の誕生を祝い、春になるといたるところで花祭りと呼ばれる祝祭を開催する。


 ジェームズからの手紙は、帝都で行われる盛大な花祭りではなく、バークレイ領に近い街の花祭りに行ってみてはどうかという誘いだった。


 それに合わせて、王都にいる父も兄も、領地に戻ってきてくれるらしい。


 ずっと王都にいたマリアベルは他の国に行ったことがない。

 だから父からの誘いに喜んで、急いで手紙の返事をしたためた。



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