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勇者になった君を、町娘の私は

作者: さくらりん

「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

差し出されたのは小さな手だった。



いつ、どうやって、この世に誕生したかはわからない。気づいたときには、同じような薄汚れたやつらと一緒に、自分より何倍もおおきなものたちに蹴られ、殴られていた。

とにかく殴られたくなくて、言われたことをやっていた。ものを運ぶ作業。おおきなものは、機嫌がいいと食べ物をくれた。気ままに投げられた食べ物に我先に飛び付き、食べる。それを見ながら、笑っているおおきなものたち。食べ物がないときは、泥水をすすった。口に入ればなんでもよかった。

そんな時、薄汚れたやつの中でもおおきいものが、おおきいものたちに襲いかかった。ブクブク太ったおおきいものたちと、いつ倒れてもおかしくない薄汚れたやつ。もちろん、おおきいもの達が勝った。そして、その結果おおきいものたちが、いつも以上に怒こった。連帯責任だといい、集められた俺たちは物をぶつけられ、蹴られ、殴られ、そして捨て置かれた。

みんな動かなくなった。でも、俺は動けた。だから、やつらがいなくなったときにそこから這い出した。

草を食べた。虫を食べた。食べれたらなんでもよかった。でも傷が痛かった。

手が動かなくなった。足が上がらなくなった。もうダメだと思った。


その時、小さな手が見えたんだ。それが、俺とリタの出会いだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あー、うん。知ってる。」

「僕も知ってる。」

「何度も聞いた。」

「そろそろ飽きた。」

「ねぇー、同じことを繰り返し言うって、ルークスってアホなの?」


「はいはい、いじめないのー。ルークスは私のなの。私がいじめるのよ?もっと過激じゃなきゃ。あ、そろそろ、ご飯だからみんなおうちに帰ってねー。」


「「「「「はーい」」」」」


不穏なことを聞いたはずなのに、ルークスを囲んでいた子供達が元気のいい返事をして、それぞれの家に戻っていく。腕がない子。翼が生えた子。半透明な子。耳が頭の上にある子。ルークスの2倍はある子。見た目は全然違うのにみんな笑顔で家に戻っていく。


「ほら、ルークスも。」


差し出された手はあの頃よりは大きくなった。でも、ルークスの手よりもっともっと小さい。


「リタ、また拾ったのか?」

「ふふふ。可愛いでしょ?もう長には許可もらったのよ?」


差し出された反対の腕のなかには小さなとかげがいた。いや、翼があるからドラゴンかもしれない。


腕のなかのものに頬擦りしながら、笑うリタと一緒に長の家に戻る。


「名前決めなきゃね!でもまたきっと誰かにもらわれちゃうわ。かわいいもの。」

「俺に本気で火を吐くこいつがか?」


シールド魔法でドラゴンらしき個体から吐かれた火を防ぐ。


「これくらいの火じゃやっぱだめねー。もっと大きいの落ちてないかなぁ。ルークスと遊んでもらわなきゃ。」

「おい、本気で俺を殺そうとしてるな?」

「まさか!殺すならちゃーんと考えてからヤるわよ!これはいじめるての!勘違いしないでよね!!失礼しちゃうわ!」

「否定するところ違うくねーか?てか、いじめんなよ!」

ドラゴンをつつきながら、ふてくされてるリタはそのあとも、これからどうやって、俺をいじめるか語り始めた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


リタによってこの村に連れてこられた時、村の住民に驚いた。初めて見る生き物がうじゃうじゃいた。その中に俺やみんなを殴り蹴ったおおきなやつと同じ姿の奴もいた。驚き、叫ぶと、リタが抱きついて落ち着かせてくれた。


「だいじょうぶだよ。ここは安心だよ。あたしがいるから。」


その言葉は本当だった。あのあと、すぐにきた長がもとの場所に戻してくるようにとリタに言った。周りの大人のような奴等も今回だけはダメだとリタに言った。それでも、リタは折れなかった。


「あたしが見つけた。」

「あたしが連れてきた。」

「たかが子供ひとりだ。」

「こんなボロボロのやつに何が出来る?」

うん、自分より小さい存在のリタに、今思えばボロクソ言われてたな、俺。


最終的には

「あたしの暇潰しに文句を言うな。」

で、みんなを黙らせた。


うん、何で黙るんだ?それこそ、指導しろよ、大人たちよ。


まぁ、とにかくリタの収集癖と暇潰しのお陰で俺は生き残り、リタのおもちゃとしてこの村で生きて、育ててもらった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


長の家について、食事をとる。この村は様々な種族が集まってできているためそれぞれ食するものが違う。花の蜜、草を好むものがいれば、魔獣や獣を好むものもいる。だから、だいたい食事が同じもの達がひとつの家に集まり、食事をする。

長の家は、主に人族の食事になる。俺も人族のため、とても助かった。ちなみに、リタも同じ食事をとるが、基本はつまむくらいで拾ってきたもので遊んでいる。まぁ、たまに長に叱られて頑張って食べてる姿もみられるが。


「リタよ。ところでそれはどこから連れてきたのかのぅ?」

「連れてきてないわ。降ってきたの。」

「普通ファイアドラゴンは降ってこん。」

「おーいって言ったら降ってきたわ。」

「…呼んだのかの?」

「ちがうわ。降ってきたのよ。あたしのだもの。」

「…。まぁ、よい。」


長よ。負けるな。ドラゴンはさすがに良くないだろう。降ってきたというより、リタを補食しに来たんじゃねぇのか?


「そういえば、ルークス、リタよ。魔王が復活したらしい。」

「「は?!」」

「何でも、こことは反対の地区で魔物達が暴れ始めおっての。この国の王が魔王の復活を認めたらしい。」

神妙に話す長に、俺は疑問をぶつける。

「魔王って100年前に突如消えたって言うやつだろ?それまであった魔王城も突如消えたって。そして、突然魔人と言われる配下や魔物たちも消えて。なのになんで?!」

「そんなことより、暴れてるのはどんなのなの?」

「リタ!そんなことって!」

「そうやのう。噂だとここ50年で産まれたものたちらしいの。」

「リタ!長!魔王だぞ?!」

「「だから?」」

「だからって。」

「ルークスよ。ここは何も心配いらん。現にここらの魔物はかわいいもんじゃろ。」

「そうよ。それに、魔王復活って。ふふふ。そんなことあり得ないー。」

ニヤニヤ笑うリタに、流石に長も思うことがあったらしい。

「リタ。そなたわかっておるのか?」

「わかってるわよー。でも、この国の王様も大変よね。復活ってなったら、対応しないといけないものね。」

「当たり前だろ?!魔王だぞ?!この世でもっとも恐ろしく、冷徹で残酷。気まぐれで滅ぼした国がいくつもあるって、リタは知らないのか?」

「なにその話。誰から聞いたのよ。」

「この村の大人たちだよ。魔王は恐ろしいって。だから、歯向かうなって。」

「へぇ。そーなの。ルークスは物知りねー。あたし知らなかったわー。」

間延びした答えにイラッとしながら長を見る。長からも言って欲しいと思ったら、長がなぜか震えている。トイレか?

「ま、まぁ。復活となれば、国も動く。勇者もうまれるかもしれんの。」

「勇者!!素敵ね!セオリーとしては、騎士団の誰かかしら。もしくは田舎にいる青年って言うのもあるわよね!もしかして、ルークスかも!」

突然キラキラした顔でこちらを見るリタに呆れていった。

「俺のはずないだろ。ただのもと奴隷孤児だ。優秀なやつはもっといる。」

「そんなことないわ!あんなにいじめたのに、どんどん成長してるじゃない!魔法も使えるようになったし、剣の腕もなかなかだわ!」

「確かにのぅ。リタが連れてきた時からわかってはいたが、これほどまでにのびるとはのぅ。」


長もリタも保護者バカが過ぎる。

そう思っていた。


それから1か月後、王とから使者が軍を率いて来るまでは。


使者は言う。神託により、この村に勇者がいることがわかったと。この剣をもって欲しいと。勇者が持つと光輝くと。

俺が触れた途端、辺りが目映い光で埋め尽くされた。そして、剣はまるで俺のものというように、俺から離れることはなくなった。

勇者の誕生に使者達は色めき立ったが、村のみんなはなにも言わなかった。あんなに懐いていた子供達でさえ、大人達の後ろに隠れて近づいてこなかった。

すぐにでも王とに戻ろうとする使者達に別れだけさせてくれと、リタと長に挨拶をしに行った。


「元々定められた運命じゃ。達者で暮らせ。」

「ふふふ。勇者だったわね。大変だと思うけど頑張って。」

あんなにベタベタベタベタいたずらを仕掛けてきたとは思えないほど、あっさり送り出そうとするリタに驚き、今こそ伝えなければと声を張り上げた。


「リタ!俺は必ずお前のところに戻ってくる!そして、そのときには!!」

「…フラグってやつ?」

「勇者がこういうこと言うと大抵死ぬよね?」

「違うよ!幼なじみ兼、恩人を捨てて、王女様に寝返るんだよ。」

「僕は戻ってきて、ルークスが捨てられるに賭ける!」

「「「「それだ!!」」」」

こら、そこのガキんちょども。さっき隠れてたよな?そして、一代告白の前になにさらしてくれてる。そして、騎士団の面々、笑うのやめろ。肩ゆれてんだよ。


「ふふふ。ルークス。ありがと。また会いましょうね。」

リタが頭をなでる。あの時、俺を救ってくれたこの手を忘れない。


必ず、戻ってくる。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「行きましたな。」

「ええ。行ったわね。」


ルークスが見えなくなる頃、長とリタは長の家にいた。

しかし、ルークスが今まで見ていた立ち位置とは逆だ。リタが長の席に座り、長はひれ伏している。


「気にしなくていいのに。」

「いえ!許されません。この100年。オプスクーリタース様にあのような発言を。」


その言葉で、長の周りの大人達がひれ伏す。そして、リタの回りにいる子供達は笑いだす。


「おもしろかったよなぁ。」

「まぁ、なにもしなくていいというのもよかったですね。」

「探り探り顔色見ながら行動するこいつらがほんとうけて。」


「ところで、オプフクーリタース様。こちらに虫が向かっておりますよ。」

「先程の騎士団かのぅ。」

「いかがなされますか?」


「そうね、休暇も楽しかったし、そろそろ仕事でもしようかしら。ルークスが来てくれるみたいだし。」

「それでは。」

「ええ。虫には幻覚魔法を。計画通りにこの村を焼き払ってもらいましょう。その後に、荒れてると言われている場所にでもお城でもたてましょうかね。んー、おっきいのがいいかなぁ。」

『是非私たちにご命令を!』

リタに向かって、村人が全員ひれ伏す。


立ち上がったリタ、いやオプフクーリタースは、内側から漆黒の魔力を吹き出す。それは、全ての色を飲み込む色。少女だった姿から魅惑の女性となり、村娘の姿から、漆黒のドレスを着た魔王の姿になる。


「ふふふ。では、さっさとやりなさい。私を楽しませてね。」


その言葉を皮切りに、魔人達が飛び立つ。一人一人の能力は、街ひとつ潰せるほど。瞬く間に全ての仕事が終わるだろう。


「魔王様、暇潰しにはなりましたかのぅ。」

長は聞く。

「そうね。ごっこ遊びは楽しかったわ。100年で終わっちゃったのは悲しいけど、次は勇者が来てくれるしね。」

「なぜ奴をすぐ処分なされなかったのかのぅ?育てる前であれば、いや、今からでも間に合いまするぞ。」

長が口からおおきな刀を取り出し、ニヤリと笑う。


「口からって汚いのよ。しまって。」

しっしと手を降り、側近から渡されたマントを羽織う。


「だってさ、魔力がきれいだったのよ。私には持てない綺麗な色。」

はじめてみたときから、見とれたの。私のものにしたかったの。交わってはいけない色だけど、側に置きたかったのよ。

「魔王様。やつはきっとやって来ますよ。」



「そうよね!約束したもの。そのときは、目一杯いじめてあげなきゃね!」

幸せそうに笑う魔王は、側近と共に消える。


そこに残された長が呟く。

「初恋の相手が魔王でかつ1000歳以上年上というだけで、十分ないじめだろうにのぅ。。」


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