紅茶の仕入れ
「基本的な流れは分かりました」
流れ自体は極めてシンプルだ。
売るものを仕入れて、買い手に売る。
セルゲイとマリーの場合は、現在はいくつかの顧客を抱えており、
オーダーを受けてから仕入れて売る。
在庫を持て余すことがなく、必要な分だけの売買だ。
たまに仕入先から新商品を紹介された際は
吟味をした上で顧客に提案することもある。
不特定多数をターゲットにした商売では無い分、
これまでの繋がりが物を言う。
この「繋がり」は間違いなく資産だ。
葵の元いた世界でも良い伝手があれば上手くいく商売も多い。
人脈は一朝一夕に得られるものではなく、強力な武器になる。
驚いたのは、仕入れる品物は
輸送業者ではなく魔法で受け取るということ。
転移魔法自体は法規制されているが、
貿易商のような資格を取得することで
物品の輸送を魔法で行うことは可能になるらしい。
各国で貿易協定が結ばれており、
資格やそれにまつわる特権はどこへ行っても共通だ。
ルーン王国出身のマリーはもともと紅茶に詳しく、
セルゲイが騎士団にいた頃から
騎士団や王家に茶葉を卸していたらしい。
すごいパイプだ。
恐らくだが、聞く限りセルゲイは
騎士団でもかなり上位の騎士だったのではないか。
たかだか一兵卒の妻が王家と商売ができるとは考えにくい。
セルゲイの引退後は、騎士団在団中に築いた
各国とのパイプラインを使って売買を拡大。
騎士団は基本的には自国の警備がメインなのだが、
暴動や組織的な犯罪、自然災害、
他国にも影響し得る魔力絡みの問題などが起きた際は
遠征をすることになるらしい。
それにしたって商売できるほどのパイプを築いてこられるのは、
それなりのポジションで有能な者にしかできないだろう。
「ちょうどいいから、紅茶の仕入れと販売のお手伝いをしてもらいましょう」
手招きされ奥の部屋へついていくと、
頭から腰くらいまでの長さの楕円形の鏡が壁にかかっており、
そこへマリーが手をかざしている。
「彼の者と繋げ、水鏡」
鏡が水のように波打ち、ボコボコと揺れる。
どうやらこれは魔法のようだ。
数秒ほど経つと、鏡にマリーと同年代と思しき老紳士が現れた。
「マリーか。調子はどうだい?…おや?隣に見慣れない若い女性がいるね」
「ええ。私たちの家で療養中のお嬢様なのよ」
「ほう、お貴族の娘さんかね。初めまして、ミハエルと呼んでくれ」
「ミハエルさん、初めまして。アオイと申します」
セルゲイとマリーと相談した結果、
いいとこの病弱なお嬢様が都市部を離れて療養に来ている
…という設定になっている。
服装も、それっぽいものをお借りした。
この鏡はどうやらテレビ電話のようなものらしい。
媒体は違えど、こういう便利なものは
どんな世界でも開発されるものなのかと感心してしまう。
「アールグレイとウバを5缶ずつ。それからアッサムとダージリンを8缶ずつ。すべてグレードはSでお願いね」
ミハエルはマリーの注文を書き留めて、明日には送ると答えた。
物品のやり取りは魔法でできるが、
金銭の授受は小切手のようなものになるらしい。
そのため本来は仕入れの際どこでも前払いだが、
2人の得意先に限ってはもう何十年もの付き合いなので
同時進行で良いということになっている。
マリーとミハエルの会話がひと段落ついたところで、
事前にマリーにも許可をもらっていた質問をミハエルにぶつける。
「あの、今ある紅茶の種類を教えていただいても良いですか?」
マリーが紅茶を買い付けている業者は
ルーン王国でも屈指の老舗ブランド店だ。
高級茶葉から一般庶民向けのものまで幅広く扱い、
業界のトレンドを牽引している。
ということは、ここで取り扱いが無ければ
一般での流通もまずないと考えて良い。
ミハエルから現在流通している紅茶をひとしきり聞き、
手元に書き留めたメモを見て
葵は思わずニヤリと口角をあげてしまうのだった。
まだまだ書ききれていない設定が多すぎて。。
魔法絡みの話はもう少し後になりそうです。