異界の住人
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「申し遅れました、私は佐倉 葵と言います。名前が葵です」
「名乗るのが遅くなってすまない、儂はセルゲイと言う」
「私はマリーよ。よろしくね、アオイさん…で良いのかしら?」
「はい。よろしくお願いします、セルゲイさん、マリーさん」
2人のお店や商売についてひとしきり聞き終わった後、
名乗っていなかったことに気付いて慌てて伝える。
通常、苗字はあまり名乗る風習が無いそうだ。
貴族や王族であればもちろん別だが。
セルゲイは、葵が望むならアウスト国で保護してもらうことが可能だと言う。
国に保護された場合、衣食住の保証がされるのはもちろん、
異界の住人はある程度の願いならば叶えてもらえると言う。
高級な宝石やドレス、他国の珍しいお菓子などを買ってもらったり、
旅行したり別邸を用意して羽を伸ばしたり。
だが美味しい話には裏があるもの。
ましてや願いを叶えるために必要な経費は恐らく国費であろう。
裏が無ければ逆に怪しいレベルだ。
反対に何を要求されるのか、と問うとセルゲイは笑った。
「意外としっかりしているというか…騙されやすそうなお嬢さんに見えるのになぁ」
「やっぱり裏があるんですね!?」
騙されやすそうなお嬢さんという言葉はスルーして
身を乗り出すと、セルゲイははっはっはと朗らかな笑い声をあげた。
「精霊の加護を受ける異界の住人を無下に扱うことはしないよ」
「…そういえば、さっきも言ってましたね。異界の住人は丁重におもてなしすると」
「そうよ。精霊から加護を受けられる人間はそんなにいないの。精霊とよほど波長が合わないとね」
そう言いながら、マリーが缶の中から焼き菓子を出してくれる。
インディア国から輸入したものだと言っていた。
シナモンのような香辛料が効いていて、くどくない。
スパイスの豊富な国らしい。
このクッキーもチャイと合わせたら一層楽しめそうだ。
「異界から来た人間は、精霊と波長が合うってことなんでしょうか?」
「こちらの世界の人間の持つ魔力や波長とは少し違うみたいだね。だからこそ、見る人が見れば異界の住人かどうかはすぐに分かる」
「そういうのがすぐ分かる人がいるんですか?」
「王族や高位魔導師、魔力の強い者は相手の持つ魔力も分かる。肌感覚で感じる者もいれば、目で見える者もいるらしい」
「精霊からの加護、というのは…?」
「魔法は7つの属性が司っているのだけど、そのうちの基本となる水、火、土、木、金の5つが私たちの生活と密接に関わっているの」
「それぞれの属性に大精霊がいてね、世界各地にいる精霊を束ねているんだ。そして私たちは身近な精霊から助けを借りて魔法を使っているんだよ」
水、火、土、木、金。
まさかの五行思想。
やっぱりこれは自分の知識が構築した夢なのだろうか?
「魔法は誰でも使えるわけではないんですか?」
「小さな魔法なら可能だよ。5つの大精霊とは各国で1つずつ契約を結んでいてね。生活魔法なんかはその恩恵を受けているから大体使えるんだ。ただ、転移魔法なんかの限られた魔法は一般人には使えない。密輸とかにも悪用されかねないから法で制限されているんだ。…たまに魔力の高い者を取り込んだ組織が悪用することもあるけどね。それを取り締まるのも国の仕事だ」
「転移魔法…。使えたら便利そうですけど、確かに制限が無いと何でもありですね…」
「それから、基本的に国民は皆、魔力量を測定している。そして、優れた魔力を持つ者は魔導師へのお誘いなんかも来るわけだ」
「なるほど…よくできてますね」
「精霊から直接力を借りて使う魔法は一部の大きな術に限られる。それこそ過去に戦争で使われていたような魔法とか、大規模な魔法とかな…。その規模になると人間の魔力では発現できないから、精霊に祈りを捧げて精霊が叶えてくれれば使えるようなものだ。大雑把に言ってしまえばね」
ふむ、と葵は唸る。
つまりその精霊から加護を受け、愛されいてる者であれば
高位の魔法が使える可能性が高い。
国としては上手く扱えれば強力なカードになるし、
協力してもらえないとしても危険人物に成り得る存在は手中におさめておきたい。
そんなところだろうか。
いまだ詳細は把握しきれていないが、一気に聞いても覚えきれない。
大枠は把握できたように思う。
「国に保護してもらえば生活には困ることもないし、良い暮らしができるはずだよ」
セルゲイが優しく微笑む。
あたたかい眼差しを向けられ、まるで孫になった気分だ。
「その前に…確認したいのですが」
「何か気になることが?」
「私は、自分のいた世界に帰ることはできないのでしょうか?」
国に保護とか、良い暮らしとか。
そもそも元の世界に帰るという選択肢はないのか。
現実味のない展開に、これまで「夢か現実かどっちなんだ」と
深く考えないようにしていた葵は、
手に汗握る感覚も、果実水やクッキーを食べた感触もリアルで、
何よりこの世界の構成そのものが、設定にしてはあまりにも細かくて。
ほんの少し危機感がわいてきたのだった。
いずれ設定をまとめたページを設けたいと思います…!