超常現象にも程がある
その日、佐倉 葵はいつもと同じように家を出た。
会社に出勤するため駅に向かう途中、
突如大きな揺れと重圧を感じて思わずその場に膝をつく。
遂に来たか、大地震。
そう身構えて顔を上げると、
地面に細かい模様のようなものが円状に浮かび上がり、
自身はその円のど真ん中にいることが分かった。
こんな円形に地割れすることなんて、あるのだろうか。
しかも、仮にこれが地割れだとして、その隙間から強い光が溢れている。
地球の地面の底が光っているだなんて、聞いたことがない。
「何これ、超常現象…?」
周囲を見渡してみても異変は自身の周りだけ。
誰かに助けを求めようにも、辺りには人が見当たらない。
この円陣の中から出ることが最善であるという判断まではできるものの、
両肩にずっしりとかかる重力のせいで動くことが無理そうだ。
この超常現象的な何かが収まるまで、動かずに待つしかないのだろうか。
早く収まってくれないと電車に乗り遅れる、
なんて呑気なことを考えていられるのもその時だけだった。
足元から一層強い光が噴き出し、思わず目を覆う。
「まぶし…っ!」
再び葵が目を開けると、そこは緑の美しい森の中だった。
「…超常現象にも程がある」
ここは、どこだ。
日本でこんなに美しい緑豊かな土地なんて、山奥か離島か。
今時田舎だってここまで綺麗な森林が保たれているところは少ないだろう。
いずれにしろ都会でないことは間違いない。
心なしか、木々の緑が明るく、小さな光の結晶がパラパラと散っているように見える。
「…これは夢なのか…超常現象なのか…」
どちらでもいいから早く帰らせてくれと思いつつ、
ひとまずセオリーに則って頰をつねってみる。
「………痛い」
感覚はある。
だが感覚があると錯覚している夢かもしれないし、
むしろこの超常現象が起こる確率よりはそちらの方がまだ現実味がある。
これからどうしよう、と思っていると
背後でパキ、と木の枝が割れる音がした。
誰かいるのか。
反射的に振り返ると、そこにはおじいさんが1人。
葵の祖父に少し似ているかもしれない。
「…良かった、人がいて。すみません、ここはどこですか?」
「お前さん……まさか迷い人か…?」
「え?ああ、はい。迷子みたいです。超常現象っていうか…、
怪しいかもしれないですけど…気付いたらここにいて…」
怪しまれるかもしれないと思いつつ、もごもごと尻すぼみに答える。
もといた日本の土地名を伝えると、
おじいさんは目を見開いた後、その場に膝をついてしまった。
「大丈夫ですか!」
慌てて駆け寄ると、おじいさんは大丈夫だと軽く手をあげて、
深妙な面持ちのまま、口を開いた。
「儂には、強い光の中からお前さんが現れたように見えた」
「あー…そうですね。確かに、私も強い光に包まれたと思いました」
「異界から、たまに人が落ちてくることがある」
イカイ?
瞬時に脳内で漢字変換ができずにいると、
おじいさんが追い打ちをかけるように続ける。
「ここはアストリアという大地の、アウスト国だ」
とりあえず、カタカナっぽい。
そんなことをぼんやりと思いつつ、
夢か現実か分からないながらも
葵はここが日本でも地球でもないということだけを理解したのだった。
序盤はまったりパートなので恋愛要素までいきませんが
よろしくお願いしますm(_ _)m